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あの古いポスターとともに  あのあとのおはなし

作者: あまなす

前髪が大事だなんて思ったことのないわたしは

ちょっとあれでどうかしちゃってるのかもしれない

前髪のキマりぐあいより朝のテーブルに並ぶベーコンの焼きかげんが

こんがりになっているかどうかのほうがなにより大事

その日、最初の一杯だけでもおおきなカップで

それがあまいあまいミルクティーならなおよし

今朝はバターをぬったトーストの上に

いちごジャムの美味しい層を重ねてしまった


ふふん


あのお店、つまり

天井を見上げると電気ブランの古いポスターがはってあって

比較的恋愛に関しての感度がいいとキモチ悪いことを自称するマスターがいて

なくなってしまえばいいのにと思っているわりに足が向いてしまうあのお店

そうなってくれたらとわたしが思っていたとおりの未来があのお店には待っていた

マスターがわたしに安物のスウォッチを差し出してきた次の月の、その次の月のことだった


あのお店がなくなったことは、すくなからず、わたしの生活に影響があって

かわりとして、ふらりと行ける場所を見つけないとならなくなった

そんなもの、簡単に手に入れられると思っていた、最初のうちは


街を転々とするのだけど、どこもそれなりに安心でき、それなりに居心地がよくない

ある場所は、わたしを快く受け入れてくれ、わたしを丁寧につつんでくれた

そのあまりのやわらかさに、くすぐったい思いを常にしなければならなかったわたしは

居心地が悪くなり、そこには行かなくなった


ある場所は、いい人の顔をしてわたしに近づいてきて、けど、引き入れておいて

ひどい仕打ちをしてきた、わたしはたまらずそこから逃げ出した


ある場所は、はなっからわたしを相手にしなかった

そこにわたしなんて存在していないかのように


ふらりと行ける場所が見つからないまま、いつのまにか大晦日の夜で

だから、あとすこししたら年が明けようかとしているとき

そんな時間にもかかわらず人の出が多く、その大半は浮かれていて

そういった人たちのなかに見たことのある顔を見つけた


その男は、おとなしい感じの女性と並んで歩いていて

あのお店での妙なキモチ悪さはみじんも見られず

わたしの知らない表情をその女性に見せていた


ふうん、そうなんだあ


目で追ってしまう、ずっとずっと追いかけてしまう

女性が何かを指さし、男のほうはその指の先を見る

わたしとはまるっきり正反対に分類されるであろうその女性がその男に何かを言い

その男は、その女性に、何かを返す、やさしく、ささやくみたいにして


花火が打ちあがり年が明けたその瞬間

ふたりは人目を気にすることなく、くちびるを重ねた

そうすることが自然であるかのようなその行為は、妙に艶っぽく

それでいて、ひたすら下品で、野蛮なことであるようにわたしには映った


わたしは走った、わけもなく走った

人の流れに逆らいとことん走った


遊んであげていたつもりが

遊ばれていたのは

わたしのほうでしたとさチャンチャン


何人かの人にぶつかり、そのうちの何人かは文句を言ってくる

浴びせられる言葉たちが追いすがってくるのを振りほどきながら

わたしは走り続けた


   ◇  ◇  ◇


年明けの澄んだ空気が濁りはじめたころ、あのお店のあった場所に行ってみた

お店があったとこは、借り手が見つからず

しばらくそのままだった、そのことは知っていた


そのあと、わたしの足が遠のき、知らないあいだに

建物ごと取り壊されていて、いまではすっかり何もない


ここ、わたしの居場所みたいなもんだったんだよなあ


こぼれ落ちそうになるのをこらえ、視線を真上に向けてみる

いくら見上げてみても、いくら目を凝らしてみても

そこに電気ブランのあの古いポスターは見えない


ここ、本当にわたしの居場所だったの?


ここは本当に―









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