物語る。8
スピースピー
スーヤスヤ
ムニャムニャ……
リリアナは惰眠を貪っていた。
初日こそ、警戒していたが二日め、三日めと続けば警戒が薄れ、数ヶ月逃げ回っていた疲れもあり、その登場に気づくのが遅れた。
突如、猫のように首根っこを掴まれてやっと、トリオの存在に気づく。
「……あっ、おはようございます?」
ルキオの手が離れ、リリアナはふらつきながらも、立ち姿勢を取った。
第一、第二、第三の師団長トリオに愛想笑いをしてみせた。
内心は、『ヤベー、バレちゃった』と冷や汗ものである。
「いいご身分だな」
「あ、わかっちゃってる? そうなの、野良から第一師団身分だもん、そりゃあ妬まれるよね。寄宿舎で閉じ込められちゃって。代わりは置いてきたんだけど」
ルキオがポンッと箒を投げる。
リリアナは咄嗟に箒を掴んだ。あの変わり身の魔法をかけた箒である。
「箒の使い方を間違っている」
「うぃーす、第一調合室の掃除に戻ります」
と、部屋を出ようとするが、そうは問屋が卸さないわけで。
「リリアナ君、ちゃんと説明してくれるかな?」
カイトがニーッコリ笑って扉を塞ぐ。
リリアナは助けを求めるように、第三師団長を見つめたが、小さく首を横に振られた。
リリアナは、チェッと思いながら口を開く。
「団員詰所に詰めてました!」
どうだ、と言わんばかりにリリアナは言った。
「だって、私、第一師団員なので」
というのが、見つかったときに考えていたリリアナの言い訳である。
「ほおう?」
ルキオが目前で腕組みして、リリアナを見下ろした。
「そんな言い訳が通用するとでも?」
「じゃあ、どういう言い訳なら、通用するのよ?」
リリアナは唇を尖らせる。
「師団員だというなら、団員の仕事をしてたのか?」
ルキオがフンッと鼻で笑った。
つまり、ルキオが指示した第一調合室の掃除と第一師団塔いっぱいに収集された魔法具の仕分けを指すわけ。
リリアナは視線を落とす。
「……フェ」
リリアナから奇妙な声が漏れた。
「フェッーフェッー、フェフェフェ」
リリアナは顔を天井に向け、右手の甲を左頬に添えて、高笑う。
リリアナのそんな様子にルキオらは盛大に引いた。
「フェヘヘヘヘヘェーィ」
「その気味の悪い笑い声を止めろ!」
ルキオがリリアナの額をペチンと叩く。
リリアナはニヘラァと笑った。
「仕分けしましたけっどぉー」
「ああん?」
ルキオがリリアナを胡散臭げに見る。
「魔境から神鏡情報を収集しておきました。魔法具魔境記憶の仕分けを」
「何?」
リリアナはおもむろに、枕にしていた丸めた書類を屈んで取ると、ルキオに突き出した。
「魔境の記憶だと?」
ルキオがリリアナの書類を受け取る。
「長く存在する物には、魂が宿るって亡くなった師匠が言ってた。ここの古い魔境の数枚には記憶が宿っていたから、それを紡いで書きとめたの」
リリアナは幾つかの魔境を見つめる。
「色々情報は得られたけれど、魔境に映った記憶であって、その情報が正しいかは精査が必要だと思う。だって、映った人の言葉が正しいとは限らないでしょ?」
三人が何も返せずにいるから、リリアナはコテンと小首を傾げた。
「えっと、結論から言うと、神鏡は正三角形の鏡が二枚あって、重ねると六芒星になるって、その書類にまとめたから。詳しいことはそれ読んでよね。ちゃあーんと、団員詰所で詰めて記憶の仕分けをしたわ。文句ないでしょ?」
リリアナはエッヘンと胸を張った。
「じゃあ、そういうことで! 私、第一調合室掃除してきまーす」
今度こそ、リリアナは三人の隙間を通り抜けていったのだった。
魔境部屋に残った三人は、誰ともなしに顔を見合わせる。
「とんでもない野良の魔法使いを手元に置いてしまったようです」
第三師団長が言ったそばからフゥーと息を吐き出した。リリアナを魔術師と呼ぶには規格外過ぎたからだろう。
「生粋の魔法使い、かと」
第三師団長がそう続けた。
魔法の型が普及し、魔法陣が主流となってから、リリアナのような発想を魔法展開する者は少なくなった。
「変わり身の魔法といい、魔境から記憶を紡ぐとか……ヤバい発想だよね、リリアナ君って、ハハハ」
カイトがあまりのことに笑うしかなくなっている。笑いながら、ルキオに視線がいった。ルキオはどうなの? と思ったから。
「ルキオ?」
カイトがルキオを見て驚く。
なぜなら、ルキオが珍しく口角を上げていたから。
「楽しい六ヶ月になりそうだ」と。
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