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物語る。  作者: 桃巴


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物語る。7

「振り出しに戻ったね」


カイトが渋い顔で言った。


「行きましょう。痕跡は寄宿舎内です」


第三師団長を先頭に、三人は再度寄宿舎に入っていった。

一階の一番奥へと、光は続いているようだ。

管理人に事情を説明する。


「一階の一番奥は、もう使われなくなった普通の掃除道具部屋ですけど……」


魔法具の掃除道具が開発され、普通の掃除道具はお役御免になっているから。


つまり、誰にも見向きされない場になる。

そこに閉じ込められても誰も気づかない。


薄暗く奥まった部屋の前で、三人と管理人は険しい顔になった。


「魔法具まで使うとはね」


カイトが魔法具の錠前を凝視した。カイトには珍しく苦虫を噛み潰したような表情だ。

悪事に魔法具が使わえることを、クランツの王族は特に嫌う。


「……彼の者らの魔術波動が残っています。稚拙ですが、複数人が行うと強固になります」


第三師団長が言った。

第九師団の女性魔術師たちの魔術波動ということだ。

基本、錠前の魔法具は、鍵をかけた者しか解錠できない。複数人が魔術の鍵をかけたなら、稚拙であっても他の者が解錠するには多大な時間がかかる。

錠前が簡単に解錠されるなど、意味をなさないのだから。


「ルキオ、いけるか?」


カイトが問う。


「造作もない。この程度の魔法具なら」


ルキオは冷たく言い放ち、錠前の魔法具に攻撃魔法を放つ。強行突破したのだ。


ギィー


と扉が開く。

そこに佇んでいたのは……


「リリアナ君! 大丈夫かい?」


カイトが真っ先に声をかけた。

しかし、ルキオも第三師団長もリリアナをジッと凝視している。

リリアナもジッと皆を見ている。


「リリアナ君、どうしたの?」


カイトがリリアナを気遣う。


「カイト、そいつは違う」


ルキオは第三師団長に目配せした。


「はい。リリアナさんではないですね。息吹を感じません。……これは、変わり身の魔法のようです」

「まじ?」


カイトがただただ佇むリリアナを四方八方から見回す。


「そうだね。人形みたいだ。でも、変わり身の魔法って、けっこうすごい魔法だよね。失われた魔法に近いっていうか……」


カイトが感嘆を漏らす。

物体を別の物、別の者に変えるのだから。


「考えてもみれば、あのちんちくりんなら、錠前の魔法具をどうにかできないはずはないな」


ルキオは冷静になった。

第三師団長も頷く。


「私は『真贋魔法』を。ルキオ師団長は『無効化』を同時にかけてみましょう」


第三師団長が提案した。

ルキオは第三師団長と目配せする。


「『真贋開眼』」

「『無効化発動』」


二人の魔法によって、リリアナの姿は箒に戻った。


「ヒュー」


カイトが目を見開き、口笛を吹いて箒を持つ。


「良くない言い方だけど、流石は魔女、箒を使うあたりね」


カイトがそう言って、箒をルキオに放った。

ルキオが箒を掴んだ。


「あんのちんちくりんめ、閉じ込められたのをいいことに」

「うん、サボりだね」


ルキオの言葉にカイトが続けた。


「ですが、リリアナさんの所在は不明のままです」


第三師団長が言った。


「そっか……じゃあ、やっぱり、トンズラしたの!?」とカイト。

「そんな記録はありません」と第三師団長。


二人がルキオを見る。

ルキオに意見を求めたのだ。


「クランツ本国内で探知魔法具の影響下にない場所に姿をくらませた、ってことだろう」


ルキオが答えた。


「探知魔法具に引っかからない場所なんて、あるはずない……あっ!」


カイトが何か頭に浮かんだようだ。


「王族の緊急避難部屋、あらゆる魔法を跳ね返す仕様になっている部屋でしょう」


第三師団長もカイトが頭に浮かんだことと同じ答えを導き出す。

魔法を含めたあらゆる攻撃から身を守る部屋が存在している。

その部屋がどこにあるかは、継承者以外秘匿だが。

王と王太子のみ知っていることになる。


「だが、そこは不可能だろう。その場を知らないと行けない。カイトでさえ知らない場を、あのちんちくりんが知っているはずがないだろ?」


ルキオが言った。


「じゃあ、どこに?」


結局、リリアナの居場所はわからない。


「……探知魔法を跳ね返す別の場になるか」


ルキオはそこまできている閃きを掴もうと、リリアナとの記憶を辿った。


初見ですぐに逃げられた。

なんとなく、心浮き立ったのは実力者だったから。

転移できる力を有している者は少ない。

万能魔法薬の調査がうまくいかず、久々の気分転換にもなった。

何より、ルキオを見ても粘りつくような視線を向けなかった。

だが、長居をすれば態度が変わるかもしれない。

カイトに後を任せ、久々に魔力を放ったスッキリした心身になって帰還できた。

が、まさか身元引受先を頼まれるとは思っていなかった。

第一師団は自分だけの塔なのだ。

過去に団員はいたが……ルキオの顔面に惑わされたり、陶酔されたり。ルキオの魔力に耐えられなかったり。自信喪失したり、と色々なことが起こった。

他国からの姫が押しかけてきたりと、散々だった。

煩わしくなって、言い方は妙だが、一人師団にした。それが通る実力もあったから。

それなのに……

勘弁してくれ、と思った。

だが、あの万能魔法薬を調合した本人だと?

興味は湧いた。

けれど、過去のあれこれが、拒否反応を示す。

一人が楽だ、と。

少しでも気持ちが動かなかったか、と問われれば、否とは言えない。

対等する力に惹かれたから。

第三師団長の下した判断に、表面では不満を示したが、内面では……きっと……

反する気持ちの一方は心の奥底に抑え込み、六ヶ月の辛抱だと自身に言い聞かせた。

翌日現れたちんちくりんと、着飾らない会話をしながら塔を案内した。

ルキオの存在を煩わしそうに見る視線に、物珍しさを感じた。

ちんちくりんに妙な警戒は不必要で、ホッとしたのは覚えている。

警戒は不必要だったが、減らず口には対抗してしまう。

そんな言葉などスルーすればいいのだが。

それもこれも、ルキオの顔面を面白がるからだ。


別にとやかく言いませんよ? 自身を鏡に映して陶酔したくなりますよね、その面なら


とか。


どこを見ても、俺様かっこいい、みたいにやってます?


とか。


魔境部屋でおちょくってきた。

……魔境部屋、

鏡、

鏡は……魔境は……

魔法を映す?

あっ、

魔法を反射する、跳ね返す!


ルキオは口角が上がった。

閃きを掴んだから。


「居場所がわかった。灯台下暗し。第一師団塔だ」



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