物語る。6
翌日。
またも休み。
雑魚どもが、また知らせに来た。
媚薬入りの食べ物まで持って。
瞬時に炭化させて蹴散らし、各魔術師団長へ第一師団塔へ人を寄越すな、と伝達魔法を飛ばした。
となると、第三師団長が現れる。
城内事案を担っているからだ。
「何かありましたか?」
第三師団長に問われ、ルキオは事情を説明した。リリアナの休みの知らせを口実に、下心ありの訪問が二日続いていることを。
「……媚薬をルキオ師団長に?」
見破られないとでも思っているのだろうか? との疑問が第三師団長の頭をかすめたのだろう。
「それなりの実力者なら、愚行だとわかっている」
「ああ、なるほど。つまり、レベルの低い魔術師でしょうね」
そう、ルキオは相手が誰だか認識していないのだ。
「ある意味、毒物入りを第一師団長に盛ったことになりますから、問題でしょう」
「ああ、対処してくれ」
第三師団長が会釈して下がる。
だが、途中で足を止めた。
「リリアナさんをもう一度鑑定したいのですが」
リリアナに秘められた何かをはっきりしたいのだろう。
「ああ、わかった。明日また来てくれ」
「では、明日」
ルキオは第三師団長を見送り、私室に籠もった。
翌日。
雑魚は来なかった。
だが、リリアナも来ない。
来たのは、カイトと第三師団長である。
「あれ? リリアナ君は……」
カイトが見回す。
「まだ、来ていない。仮病のサボりだな、きっと」
ルキオは不機嫌に言った。
「アーッハッハッハ。リリアナ君ならやりかねない感じだ。第三師団長、すまないが寄宿舎に行って確認してくれ」
「わかりました。その前に」
第三師団長がルキオを見た。
「わかったか?」
「はい。例の者らは、第九師団の女性魔術師でした。第三師団で拘束しています」
カイトはルキオと第三師団長の会話に首を傾げる。
「何かあった?」
「ええ、リリアナさんの休みを知らせることを口実に第一師団塔に訪れた女性魔術師たちが、ルキオ師団長に媚薬入りの食べ物を渡そうとした事案が発生したので」
カイトの問いに第三師団長が答えた。
「うわ、まだそんなことする奴が出るとは」
ルキオがクランツの魔術師団に入団した当初は、毎日のことだったのだ。
いや、今でもときおりそんな事案が発生する。今回のように、実力を見定められない低レベルな魔術師たちによって。
「昨年第十師団から昇団したばかりの地方貴族出の魔術師たちでした」
「なるほど。魔術師団に入団できた過信があったのだろうね。世間知らずでやったのか。周囲は泳がせてたんだろう」
第三師団長の報告にカイトが続く。
本来なら、注意を促すはずだから。
痛い目を見てもらうために、放っといたようだ。
「仲間内で群れた行いです。弱い者独特の集団心理でしょう」
第三師団長が言った。
仲間で集まると、狭い視野で行動してしまうものである。不都合が見えず、自分たちに都合の良いことしか考えが及ばなくなるというやつだ。
「で、なんでその子たちが、リリアナ君の休みを知らせに?」
と、ここでそう口にしたカイトも、ルキオと第三師団長も気づく。
三人とも同じ疑惑が浮かんだのだ。
三人は顔を見合わせ、無言のまま女性魔術師の寄宿舎前へ転移した。
カイトが先陣を切り、寄宿舎に入る。
寄宿舎の管理人がすぐに対応に現れた。
まさかの、第一、第二、第三の師団長が勢揃いしているから、何事かと顔が強ばっている。
「どうしましたか?」
「やあ、ちょっとね。リリアナ君の部屋を確認させてもらうよ」
カイトが軽い感じで口にした。
まだ、疑惑の段階だから。
「え!?」
管理人が驚きの声を上げた。
「新入りなので、寄宿舎生活に慣れるため、先輩魔術師が世話を……同室が慣例なので」
「つまり、初日の客間にはいない?」
管理人の説明に、カイトが返した。
「はい。第一師団配属の知らせを受けたので、慣例通りにしましたが」
管理人は三人の顔色を窺っている。
「それで、誰がリリアナ君の世話係なの?」
「第九師団の……」
告げられた名前に、第三師団長が拘束した者らだと告げる。
「チッ」
ルキオが舌打ちした。
「まずは、そいつらの部屋を確認してからだ。案内を」
「はい」
管理人が鍵を持って、走り出す。
三人も後を追った。
その部屋にリリアナはいなかった。
「所在不明……になるね。それも、三日前からになるんじゃない?」
カイトがルキオに確認する。
「ああ、三日前に第一師団塔を出てから、見ていない」
管理人も首を横に振っている。
ルキオは第三師団長に発言を促す視線を送った。
「拘束した第九師団員を聴取すべきでしょうが、三日も所在不明なら緊急事案です。すぐに、リリアナさんの魔力と魔術波動の探知を行いましょう。その方が早い気がします」
「リリアナ君のそれを登録しておいて正解だったね」
カイトの発言に三人は頷き、すぐに第三師団塔へと転移した。
そこに、探知魔法具があるからだ。
第三師団に事情を説明すると、第三師団員が一気に動き出す。
もし、第九師団の女性魔術師がリリアナの所在不明に関わっているなら、第三師団の担当事案だから。
拘束した者らへの尋問と、リリアナを見つけ出すことが同時に始まった。
本来なら、悪事が起こった場で探知魔法具を使用し痕跡を追跡するものだが、今回はリリアナの魔力を探して、悪事の場にたどり着くことになる。
第三師団長が魔法具を使い、探知を始めた。
ブワンと探知魔法が広がっていく。
大きな魔法陣を描くがごとく。
「……城内にリリアナさんの魔力を感じません」
第三師団長が訝しげに言った。
「広げます」
城外へと魔法陣が広がって、リリアナの魔力を探すが反応はない。
「クランツ本国を出た?」
第三師団長が呟いた。
「師団長、そのような記録は確認できません。クランツ本国内のはずです」
第三師団員が記録を確認して言った。
クランツ本国への出入りは、魔力、魔術波動の登録により逐一記録されるからだ。
そのために、未登録だったリリアナを捕まえに第二師団が出張ったのだから。
「どういうこと? リリアナ君はいったいどこにいるのさ」
カイトが困惑する。
「クランツ本国に、あいつの魔力痕跡は少ない。第三師団長、魔眼で痕跡を辿れるか?」
ルキオが言った。
「ええ、そうですね。最後の目撃場、第一師団塔から痕跡魔力を辿りましょう」
尋問を第三師団員に任せ、三人は第一師団塔へ転移した。
すぐに、第三師団長が動き出す。
「では、始めます。『開眼』」
魔眼のオッドアイが魔力を放つ。
リリアナの痕跡魔力が金色に発光し、一筋の流れを作っていった。
レベルの高い魔術師なら視えるはずだ。
「珍しい痕跡の色です。辿りましょう」
大半の魔力は暗い色が多いのだ。
三人は痕跡を辿って……結局、寄宿舎前に到着したのだった。
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