表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
物語る。  作者: 桃巴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/36

物語る。30

ーーさあ、始めなきゃ。『呪い祓い』を。


リリアナは、師匠の『砂時計』を召喚し、ポーンと上空に投げた。

皆の視線が『砂時計』の軌跡に集まる。


「『聖なる力よ。軌跡を止めよ』」


その瞬間、音が消えた。

時が静まる。


微動だにしない全員の姿を確認すると、リリアナは(ニセッキオ)と一緒に、第一師団塔へと戻った。

自分しか音を紡がない世界で、新たな軌跡を紡ぐために。


五階まで上り、ルキオの私室に入る。


何もできずに見守っている魔眼の第三師団長が見つめる先には、ドス黒い煙に覆われたルキオ。『呪い』はまだ生きている。

リリアナは煙を祓い跪いて、『茨の棘蔦』に苦悶の表情を浮かべるルキオの手を握った。


だが、反応はない。

時は静まって、軌跡を紡いでいない。


この世界は止まっている。


「ルキオ……さよならだよ」


リリアナは一筋の涙を流した。


「元に戻ろうね」


リリアナは名残惜しく手を離し、立ち上がった。


「『聖なる力よ、新たな軌跡に導き給え。呪いを祓い給え。守給え。幸給え』」


***

ナチャン国より輸出宝石を携え、ベイリー姫が訪問す。

魔術国を視察する目的であった。

第二王子第二師団長マルローの案内で第一師団塔に訪れると、『呪い』が第一師団長ルキオに発動された。

輸出宝石の中に『古魔女の呪いの宝石』が紛れ込んでおり、その赤い輝きにベイリー姫は取り憑かれてしまった。

呪いの宝石に操られたベイリー姫は、ペンダントにして肌見放さず持ち歩いていたのだ。

ベイリー姫を介した『呪い』だった。

ルキオと呪いの宝石との戦いが始まる。

ベイリー姫は帰国。

マルローは宝石を見抜けなかったことを悔いて、自ら第四師団での素材採集で目を肥やすことにした。

カイトが第二師団長、セレスが副師団長に。

アルカロの支援の元、ルキオは唯我独尊師団となって、月に二、三度の戦いを繰り返した。


そして、

二年にも及んだ戦いは……ルキオに軍配が上がり、『呪い返し』によって『古魔女の呪いの宝石』をナチャンに忍ばせた彼の国に『ドンッ』と一撃を及ぼした。

『呪い』の首謀者は、彼の国だったのだ。


クランツは新領域を得る。

ナチャンは宝石の魅了が解けたベイリー姫をクランツに向かわせた。

謝罪と感謝のためである。

***


リリアナが新たな軌跡を導き、呪いが行き場……生き場を失った。

ルキオから押し出され、うおさおしている。


リリアナは例の赤い宝石のペンダントを呪いに掲げた。呪いは軌跡を記憶しているペンダントへと自ら入っていった。


「『封印』」


リリアナは優しくペンダントを掴む。

この中では……この中のルキオこそが、リリアナの軌跡だから。


「一本の髪でも私にはルキオなんだ」


ーー私にはこれがあればいい。

リリアナは袖口で涙を拭った。そして、両手でパーンッと頬を叩いて口角を上げた。


「さてと、たつ鳥跡を濁さず、だよね」


リリアナはまず、万能魔法薬を全て回収し、小屋に転移させた。もう、ルキオには要らないものだし、新たな軌跡に存在してはいけないから。

次に、魔境部屋、第一調合室 、第二調合室と確認していき、最後に魔術師団の制服から私服に着替えた。


「準備は完了!」


から元気でもいい。それがリリアナだから。


私室に戻り、第三師団長の前に立つ。

魔眼はちゃんと開眼している。

リリアナは小さく頷いた。


止まった『砂時計』を召喚し、リリアナは手を傾けて、砂を流し始めた。


息吹が奏でられる。

時が動き出す。


リリアナは素早く第三師団長の後ろに隠れた。

そして、第三師団長に促す。


「……ルキオ師団長、どうかベイリー姫の謝罪を受け入れてください」


第三師団長が予定していた台詞を紡いだ。

新たな軌跡が始まる。


「……? ん……」


苦悶の表情から、どこか目覚めの悪い表情へと変化したルキオが、第三師団長を見た。


「あ……ああ」


しっくりこないのだろう。


「今、アルカロ王太子殿下立ち会いで、外に第二師団長も第四師団長も集まっています」

「そうか……そうだったよな」


ルキオが胸元を擦る。


「ご気分が優れませんか? 昨日、調合で徹夜だったかと」

「そう……、魔法薬を……あれ?」


ルキオが頭を横に振る。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。やっと、ナチャンとの微妙な関係が元に戻るな」


「はい。二年ぶりの日常に戻ります」

「ところで、その後ろにいる者は誰だ?」


「ああ、彼女は遠縁の者で、王城見学をしてまして。機密機関である第三師団塔に置いておくことはできず、連れ回しております」


リリアナは第三師団長の横から顔を出す。

両手を広げて、親指を耳に当て指を動かし、舌まで出して。

完全にルキオを煽っている。


「そんっのちんちくりんが、第三師団長の縁者だと?」


いつもの……最初に会ったルキオのようだ。リリアナはサッと第三師団長に後ろに隠れ、潤みそうになった瞳を背中に押し当てた。


「すみません……」


第三師団長がリリアナに代わり、眉尻を下げて謝った。


「第三師団長、どうした? いつもと違うな。なぜ、開眼しているのだ?」


第三師団長は背中を濡らすリリアナの心情に、なんとも言えない気持ちが言動に出てしまったのだろう。


魔眼は全部視ていたのだから。


「安全のため、ベイリー姫の持ち物検査をしたので」

「なるほど……」


ルキオの視線が第三師団長の後ろを気にする。

その名残りがリリアナには嬉しくもあり、苦しくもあった。


「ルキオ師団長、行きましょう」

「ああ、そうだな」


ルキオが立ち上がる。


そうして、『呪い祓い』はリリアナと第三師団長以外の記憶には残らず、最適解の日常が紡がれていくのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ