物語る。29
「出てきなさいよ!」
ベイリー姫が第一師団塔に向けて喚いている。
赤い宝石を握りしめ、憎悪に満ちた血走った目で。
「いいぞいいぞ! もっとやれ。その想いをわからせてやれ! 苦しめてやれ。思い知らせろ、一番想っている者の存在を!」
マルローが黒い笑みを浮かべている。
周りを第三師団が囲み、アルカロとカイトとセレスが目を光らせていた。
「面談日を入れて、今日で五日か」
アルカロが第一師団塔を眺める。
「ルキオは……リリアナ君は、どうしているのだろうか?」
ルキオのみならず、リリアナまで第一師団塔を出入りしていないのだ。
カイトもセレスも難しい顔をしている。
だが、そこで動きが出る。
第一師団塔の出入口が開いたのだ。
「リリアナ君と……ルキオ!?」
アルカロの目は信じられない光景を映している。
リリアナとルキオが、笑みを浮かべて悠々と歩を進めているのだ。
アルカロは思わず、ベイリー姫を見た。
「ぅそ……な、んで?」
それは、呪いがルキオにかかっていない状況を目の当たりにしたことだけじゃなく、ルキオとリリアナが腕を組んでいるからだろう。
誰が見ても、微笑ましい恋人のように見えた。
ベイリー姫の息遣いが荒くなっていく。
マルローの鋭さも増していく。
「誰よおおぉぉぉぉーー!?」
ベイリー姫が絶叫した。
「魔女よ」
リリアナは金色の魔法陣を隔てて、答えた。
とんでもなく、軽やかな声で。
「フッ、未熟な呪いですこと」
リリアナはベイリー姫を嘲る。
「見ての通り、ルキオに呪いはかかってないよ。ううん、正確に言えばルキオは呪いを押し戻した」
ルキオがベイリー姫を冷ややかな視線で見下す。
ルキオを潤んだ瞳で見つめながら、ベイリー姫が赤い宝石のペンダントをこれでもか、と握りしめている。
その爪が掌に食い込むほどに。
「呪いが未熟だから、あなたの想いがルキオを蝕む以上に、ルキオのあなたへの想いが上回って、そこに押し戻しているのよ」
リリアナは、ベイリー姫が握りしめるペンダントを指さす。
「良かったね、ルキオもあなたを想っているわ。『あの醜い女め』とね」
そこで、リリアナは金色の魔法陣から出て、ベイリー姫の前に立った。
ベイリー姫が今にもリリアナに詰め寄ろうとするが、それを遮ったのは姿見だ。
リリアナが魔法で召喚させた魔境である。
ベイリー姫の姿が魔境に映る。
そこに映っていたベイリー姫は……おぞましく醜い姿。
ベイリー姫が、大きく目を見開く。
「この魔境は、本当の姿を映す鏡。ほら、この通り。ルキオの『あの醜い女め』っていう強烈な想いが、あなたの姿を変貌させて、ここに映ってる」
リリアナは魔境の横に立って映されたベイリー姫を指さした。
ベイリー姫が、自分の顔を擦る。
黒く伸びた爪をした紫の手が、自分の顔を触っている様子を。
その顔が妖怪のようにおどろおどろしい。
髪はうねった蛇のように蠢いている。
「あなたが今後鏡に映る姿は、ずっーとずーっとこの姿ね」
「ぅ、そ……うそ……ぃゃっ! ぃいやゃぁぁああぁぁーーーー」
ベイリー姫がうねった髪を掻きむしる。
その様子も魔境に映し出される。
「呪い返しなんて必要ないの。そのペンダントでルキオと繋がっている限り、あなたはずーっと、ルキオが想う『醜い女』だもんね」
リリアナはペンダントを見て言った。
「っやぁっ! いやいや! ヤダヤダヤダァァ! こんなものっ、いらないわ!」
ベイリー姫がペンダントを取って魔境へ投げつけた。
リリアナはパッと手を出して、掴み取る。
「じゃあ、遠慮なく」
リリアナはそのまま首に通して、素早く金色の魔法陣の中に戻った。
「ぇ?」
ベイリー姫の視線がリリアナを追っていた。いや、集まっている全員の視線が。
これが、リリアナの策だったと気づく間も与えず、次の段階へと進む。
「この宝石の中に、皆を苦しめた『呪い』の記憶を封印するからね」
ーーさあ、始めなきゃ。『呪い祓い』を。




