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物語る。  作者: 桃巴


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物語る。27

それからの三日間は、昼間はルキオが調合、リリアナが素材採集で、夜は魔力溜まりの案内が続いた。


結局、ハンモックはいつもリリアナが暖炉側で、ルキオが出入り口側だった。何も言わず、ルキオはそっちで寝たから。リリアナがうなされるときは、起きて手を握り頭を撫で、深い眠りに落ちるまで寄り添った。


そうすることで、ルキオ自身も安堵の眠りにつけた。


四日めには、魔法薬は出来上がり、納品を待つばかりとなった。

リリアナも素材採集に行かず、小屋でルキオを眺めている。


「ねえ、ルキオ」

「あー?」


ルキオは試薬を調合しながら生返事をする。


「今日は力場を案内する」

「力場?」


「そう。師匠がそう言ってた所。言い方を変えるなら、パワースポット」

「パワースポット……それはどういう場だ?」


ルキオは手を止めて、振り返る。

リリアナがジーッとルキオを見つめている。


「……なんだよ?」

「んー、そこが最後。案内終わっちゃうんだ」


「そうか」

「うん、そう」


それは、小屋暮らしの終わりを意味する。山を案内するために、滞在していたから。


「明日、帰るか」


言葉にするとわかる。

この生活への未練があることを。

心の奥が燻る。

同じ燻りでも、こうも感情が異なるものなんだ、とルキオは内心で苦笑した。


「フフフ、私にしてみたら、ここが帰る場なんだけどね」


リリアナも眉尻を下げて苦笑している。

なんとなく、同じ気持ちなのだと通じた。諦めにも似た……夢の終わりを理解した。


「お前も私もここの一部なんだろ?」


師匠の魔法具、砂時計でルキオも小屋に入れるようになったから。

この小屋の一員なのだ。


「そう。この小屋では元通りになるもんね」

「ああ、私もここに帰ってくるさ」


ルキオとリリアナは自然に手を伸ばす。

そうして、二人は小屋を出て、星空の下を歩き出した。




夜の力場は美しい。

光が螺旋状に天空へと繋がっているから。

漆黒に浮かぶ光の柱。

視える者には視える。

それが、リリアナの秘密でもある。

リリアナはチラリと横の温もりを確認した。


「どうした?」


ルキオがリリアナに問う。

ルキオには視えていない。

リリアナはコクンと頷いた。


「『可視化』」


リリアナはルキオの手を離して、両手を天空に向けて伸ばしていく。

可視化の魔法で、金色の輝く光の螺旋柱が出現した。


「こ、れは……」


ルキオの視線が天空へと上がっていく。


「力場」


リリアナはルキオにニッと笑った。


「『無効化』」


リリアナはすぐに可視化魔法を解いた。


「ちゃんとルキオに継承したからね。覚えといてよね」


ーー私のことは忘れても。

リリアナはチクリと胸を痛ませるが、口角を上げてルキオを見る。

ルキオの手を引いて、力場に促した。


「たぶん、神器神鏡が遺した場だと思う。あの小屋も、この場に倣って師匠が遺してる」


ルキオが目を瞑り、力場に身を預けている。視えなくても感じているはずだ。

ルキオはあの時……朦朧としながらもこの場を目指していたから。


「元に戻ろうね、ルキオ」


リリアナは呟いた。


「……お前、何を隠している?」


ルキオが言った。

リリアナの呟きを拾ったのだろう。


「私は……」


リリアナは、つま先立ちをしてルキオの耳元に近づく。


「……」


だが、告げたい言葉が出てこない。

リリアナは泣きたくなった。

秘密が苦しい。

『聖女』であるという秘密が。


ふわりと体が包まれる。

ルキオの吐息がリリアナの耳をくすぐった。


「ルキオ?」


リリアナはおずおずとルキオの背に手を回す。


「私は『好きな者』の名も呼べぬ『呪い』にかかっている。醜い女の呪いだ」


その告白に、リリアナはグッとルキオを抱き締めた。

もう、告げなければならない。

ルキオの心に触れたから。

ルキオとリリアナを隔てる壁は、もうないのだから。

その証拠にルキオはとても温かい。


「私は『聖女』だよ、ルキオ。元に戻ろうね。私がルキオの『呪い』を祓うから」


ーールキオから私の記憶ごと祓うことになっちゃうんだけどね。そうしなきゃ、祓えないんだよ。

リリアナの胸は締め付けられた。

だけど、笑う。

ルキオに笑ってみせる。

少し体を離したルキオが、びっくりしている。


「お前……いや、ああ、納得だ。そうか……そういうことか……金色の痕跡も、金色の魔法陣も。薬も……魔法薬じゃないってことか。それに、第三師団長が」

「うん、魔眼の鑑定で違和感があったんだろうね」


リリアナはルキオの頭に手を伸ばし、ポンポンと撫でる。

師匠がそうしてくれていたように。


「さあ、弟子ルキオ君、師匠私リリアナからの継承事は終わったよ。弟子の窮地は師匠がなんとかするものさ。さあ、帰ろう! 第一師団塔に」


いつもの調子でリリアナは、ルキオを煽った。

ルキオがその手をペチンと払い、リリアナを抱き上げる。


「婆さん師匠を小屋に運ぶのは、弟子の仕事だ、うん」

「二十歳のピチピチちゃんだよ、私!」


リリアナは文句を言いながら、ルキオの首に腕を回した。


その日、二人は小屋で最後の夜を過ごしたのだった。




翌朝。

やって来た行商人に魔法薬を納品してから、二人は第一師団塔に転移した。


「ニセッキオ、久しぶり!」


リリアナは、私室のソファで足を組むアンニュイなニセッキオに抱きついた。


「おい、こら、止めろ」


ルキオがリリアナの首根っこを掴んで、ニセッキオから離す。

いつもの二人に戻ったのだ。


「なんでよ!? ニセッキオは私の箒だもん」

「自分に抱きつかれている光景を、自分が見てるんだぞ! 気味悪いだろ!?」


実際、ルキオは背筋がむず痒い。……それ以上に、嫌なのだろう。リリアナがルキオ本人以外にくっついていることが。

つまりは、嫉妬である。


「へーい、旦那」


リリアナはルキオに抱きついておいた。


「お前、止めろ! くっつくな!」


その時、


ギシ

ギシギシ


ルキオの表情が歪む。

冷や汗が全身から流れ、息苦しさで膝が崩れた。


「ルキオ!?」


リリアナは咄嗟にルキオを支えて、私室の寝台へと運ぶ。

横たえると同時に、ドス黒い煙にルキオは包まれた。


「だ、い……じょうぶ、だ」


ルキオが言った。

大丈夫なわけがない。

リリアナは、ドス黒い煙に手を伸ばす。

『聖女』の手を避けるように、ドス黒い煙は移動する。

リリアナは、思いっ切り煙を手で払って、祓っていく。


煙の先に見えた光景に、リリアナは息を呑んだ。

ルキオの心の臓あたりから、茨の棘が伸びて、蔦のように全身を絡め取っている。

それが、ルキオにギシギシと喰い込んでいるのだから。


リリアナは両手をルキオにかざす。


「『聖なる力よ、安穏へ導き給え』」


途端に、茨の棘蔦がルキオの心の臓に戻っていく。

だけど、これは対処療法でしかない。


ルキオが大きく息を吸った。

そして、リリアナに手を伸ばす。

リリアナは膝をつき、ルキオの手を握った。


「泣くな」

「……泣いてないもん! 煙が目に染みただけ」


「やせ我慢め」

「それを言うなら、そっちでしょ!」


散々二人ともボロボロなのに、笑い合った。

でも、笑みは続かない。

真顔へと変わっていく。


「あの女が近くにいる」


ルキオが言った。

言った瞬間に胸を押さえた。

リリアナはすぐにルキオの胸に手をかざす。


「大丈夫。もう、考えないで。わかってるから」


リリアナの聖なる力が、発動しかけた『呪い』を沈めた。


「私のことだけ考えて」

「すごい殺し文句だな」


「そ、私、ルキオ殺しにかかるから」


ーー私の記憶のあるルキオを。

リリアナは軽くウィンクしてみせる。


「今から、私、第三師団長の所に転移するね。魔眼に『呪い祓い』を手伝ってもらいたいから。一緒に戻ってくるから、待ってて」

「……ああ」


ルキオがリリアナの頬を撫でる。

リリアナは少しだけその手に寄りかかった。

それから、おもむろにネックレスを外し、ルキオに預ける。

師匠から継承された真っ赤な宝石のネックレスだ。


「これは?」

「『緊急避難術式発動』って念じれば、安全な場に逃がしてくれる。私から弟子に継承しとくね。私も師匠から継承したからさ。私が戻ってくるまでの間……耐えないで、念じて」


きっと、小屋か力場にルキオは緊急避難することだろう。


「待つさ」


ルキオは力強い視線をリリアナに向け

る。


「ここで、お前を待つ」


ルキオがネックレスを握った。


「うん、わかった。じゃあ、行ってくる」


リリアナは、第三師団塔私室へと転移した。





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