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物語る。  作者: 桃巴


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25/36

物語る。25

その頃、第一師団塔では……。


リリアナは第二調合室から顔を出す。

今日はまだルキオを見ていない。


「……つまんない」


そう呟いて、ため息をつく。

私室の扉はルキオとリリアナを隔てている。

いつもは開くはずの扉が、壁のように感じる。


「うーん……あの扉を開ける理由を作れば……」


リリアナの視界に箒が映った。

第二調合室を綺麗にした戦利品である。


「よっし! まだ、成功はしていない魔法に挑戦してみよっ。成功したら、ルキオに見てもらうっていう口実ができるじゃん。ヒッヒッ、私って、天才」


リリアナは箒を手に取り、魔法の鍛錬を始めた。


「師匠はどんな物でも変身させてたなあ。どんな人にも変身できてたし。……師匠が生きてる間に成功できなかった。ちょっと、悔しいよ」


そんなことを言いながら、リリアナは箒を変身させようと、魔法を練る。


リリアナは自分の変わり身の魔法はできる。だが、変身魔法は修得していない。


変身させたいブツを観察する眼力が、リリアナには足りない、と師匠にはよく指摘されていた。


リリアナは思い描く。

最初の出会いから今までを。


背筋が凍るほどの魔力、師匠にも劣らない存在に胸が震えた、思わず対峙し魔力放出してしまうほどに。

そんな存在がいたことが嬉しかったのだと思う。師匠が亡くなり、一人で居たから。

魔術国という新たな場と魔術師たち。

魔女の生活から魔術師の生活へ。

第一師団塔暮らし。

日々、何かしらのことが起こり、そこには必ずいた存在。

魔力溜まりを抜けた力場で、介抱したときのあれはなんだったのか。

自分にも秘密があって、だから、より近づいた感じがした。

だから、知らされた秘密の忍耐を頭の片隅に留めた。

師匠の小屋に招いたのは、知ってほしかったから。どんなに荒らされても、元に戻る方法はあると。

繋いだ手は心地よく、安心できた。

師匠とは違った安心感。

背中を追った師匠と、横に並んで同じ景色を見る存在。

なんの効力もない魔法陣を褒められたのは、嬉しかった。


……ねえ、今呼吸できてる?

苦しんでいない?

一人で耐えているんでしょ。


リリアナは今までの観察全てを練って魔法を箒にかけた。




ルキオは朝から『呪い』に耐えている。断続的に襲われ、心身休まる暇がない。

あの女が城内に入ったときから、続いていた。


せめて、リリアナに『籠るから』とでもひと声かけてやりたかったが、その時間も与えられない。


「ゥッ……クソッ……」


あの女の激情がそのまま『呪い』となって、ルキオを蝕む。

嫌な汗を全身に掻いている。


万能魔法薬を手にし飲み干す。

耐えて耐えて耐えて、今日やっと一本目の万能魔法薬だ。

全身からあれが排除され、元に戻る感覚。自分を得た実感。

束の間の安息を得て、上着を脱いだ。



バッターン!



「ルキオ、成功した!」


リリアナが突入してきた。


「なっ、お、お前!?」


まさか、魔法陣で閉ざした扉を強行突破してくるとは思ってもいなかった。

リリアナだから、開けられたのだ。


「おっ、いい体」

「こんの、痴女め!」


ルキオは汗を掻いた上着をリリアナに向けて放った。

リリアナの視界を奪っている間に、サクッと着替える。


リリアナが上着に顔を埋めている。


「おい」


ルキオは上着を掴み剥ぎ取った。


「……どうした?」


少しだけ潤んだ瞳があった。


「へへへ、成功したから、一番に見てほしかった。入ってきて!」


リリアナが扉を向く。


コツコツコツ


足音がした。

おかしい、封鎖魔法で不可侵であるはずなのに、とルキオは警戒する。

だが、それが視界に入った瞬間呆けた。


「……は? はあ!?」


驚きを通り越す。

そこに自分がいたからだ。


「変身魔法が初めて成功した!」


リリアナが、別の自分を引っ張ってくる。


「偽物ルキオだよ」

「……」


絶句だ。


「偽ルキオだから、偽ッキオ。ニセッキオってどうかな?」

「……」


駄目だ、全然理解が追いつかない。


「ねえ、ルキオ。箒のニセッキオに留守を任せて、お茶しに行こうよ」

「……ん」


無意識にルキオは答えていた。


「ジンジャーティーが……飲みたい」


口からついて出た。


「ん、わかった」


ルキオとリリアナは手を繋ぎ、山奥の小屋へと転移した。



息が楽になる。

あの女から離れたからだけじゃなく、この山奥の小屋だからだ。ここは何かに護られているような力が巡っている。

きっと、リリアナの師匠が施したのだろう。弟子を遺して逝った師匠が。


リリアナは奥でジンジャーティーを淹れている。

ポケットの中に万能魔法薬は二本。

『呪い』がきたら耐えて平静を装い、リリアナの目を盗んで飲むしかない。


明かしてしまえばいいのか……。

そんな考えが浮かび、ルキオは自嘲した。


『呪い』を背負うのは自分だけでいい。

明かしてしまえば、対処策が万能魔法薬しかない状況で、リリアナはルキオの側から離れられなくなる。それは、ルキオがリリアナを囚えてしまうことに他ならない。

いや、あっさり去られるかもしれない。私には関係ないもーん、とでも言って。

ルキオはどっちにしろ、自身を情けなく思うだろう。


「淹れたよー」


あいかわらず、気の抜けた態度でリリアナがお茶を持ってきた。


「どうぞー」

「ん」


ズズズー

ズズズー


爺さん婆さんのようだ。

ルキオはホッとした。

こんな生活が続けばいい、と。


「でね、ルキオ。数日ここで生活してみない?」

「……」


思っていたことを読まれたような提案だった。

なぜ、そんなことを言ったのだ? と、真意を探るようにリリアナの瞳を見つめる。


「んっとね、第二師団と第四師団とのあれこれで、この山の案内が途中だったって気づいてさ」

「あ……そうだったな」


「魔力溜まりの位置とか、ルキオに伝えておかなきゃって。ルキオ以外はへたばっちゃうじゃん。ルキオが把握しておけば第二なり第四師団に位置情報を伝えられるでしょ? ここ、もうクランツだしさ」


地元民は、この山の危険性を知っているから、安易に入山しない。

今後、この山の管轄は魔術師団になるだろう。


「確かに」


ルキオは考える。

第一師団塔に居る必要などないのだ。

あの女と離れていた方が、『呪い』の影響は弱まる。

この二年間は、月に二、三度の『呪い』に耐えていた。

あの女が近ければ近いほど、『呪い』が強まり、頻度が上がる。

それは昨日から顕著だった。


今、この小屋では燻ぶりを感じる程度に収まっている。

ルキオの思考があの女に囚われていたと気づく。いや、アルカロ含め、魔術師団が。

リリアナだけが通常運転だ。


この山を調べることは魔術師団事案。

それも、第一師団以外は担えないから、ルキオが担うべきことだ。


いつものルキオであるべきだ。

パーンと視界が晴れた気がした。


「私からルキオにこの山を継承する」

「ああ、任せてくれ」


こうして、ルキオとリリアナは山奥の小屋暮らしを始めた。



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