物語る。24
第二王子が来るまでの間、しばし休憩に入る。同室内ではあるが、双方離れてコソコソと話し合う。
アルカロは第三師団長に目配せした。
第三師団長が封耳魔法をかける。
これで、相手にこちらの話は聞こえない。
「はあ、謝罪を口にしたことは、私のミスだ」
アルカロは小さく息を吐き出した。
「第三師団長、ブツはわかったか?」
「はい。ペンダントです。赤い宝石の中に、ルキオ師団長の魔力を感知しました。宝石の中に、ルキオ師団長の髪を閉じ込めているのでしょう」
アルカロはスッとベイリー姫を一瞥する。
「だが、あれを奪ったところで解呪はできないのだろ?」
「はい、残念ながら。呪いが未熟なため、始動素材になっただけです」
だから、ルキオからベイリー姫が遠ければ遠いほど影響が少なく、近ければ近いほど影響を受ける。
「可能なら奪還したいが」
ルキオの一部だからだ。
「こちらがその希望を口にすれば、あちらも代わりに要望を通すように交渉してきましょう」
アルカロは苦々しい思いにかられる。
「呪い返しを許可したい気分だ」
「ナチャン国からの宝石輸入を手放せば」
それが、第二王子とベイリー姫の婚姻の背景だった。
魔法の源たる宝石を、クランツはナチャンから輸入しているのだ。
「父上は渋っている。だが、私に判断を任せている」
それが、アルカロがブレない理由でもある。
「なんなら、ナチャンの方から宝石輸出停止を引き出したいよ」
「それは、ナチャンにとって最大の切り札にして、最大の弱点ですから、口に出せないでしょう」
「ああ。ナチャンがそれを口にしたら、心置きなく呪い返しも『ドンッ』もできるから」
「両国、ある意味八方塞がり状態です」
この息苦しい状況から、ナチャンは脱却したく、現状打破を目論んだのだろうが、目に余る要望である。
要望を最大限にし、妥協点を探る交渉だろうが、わかっていても鼻につく。
何かしらの成果なく、使者は帰国できないはずだ。
クランツが提供できるとすれば……第一師団塔を一見させることぐらいだろうか。
だが、それ自体、きっとルキオを苦しめることだろう。
ベイリー姫の想いは『呪い』となってルキオに飛ぶはずだから。
だが、封鎖魔法を展開させている第一師団塔に、ベイリー姫は入ることは不可能。
どんなに願ってもルキオは姿を現さないはずだ。
それで、諦めて帰らせるしかないか、とも考えていた。
そのタイミングで、カイトが弟第二王子を連れてきた。
第三師団長と目配せし、封耳魔法を解く。
「召集だと伺いまして」
アルカロは頷いた。
魔封じの腕輪は袖口内に隠されている。
「お久しぶりですわ、マルロー様」
ベイリー姫が第二王子マルローに笑顔を見せる。
その言動に、アルカロは警戒する。
何か嫌な予感がした。
「マルロー、こちらへ」
アルカロはベイリー姫から離すように、マルローを呼ぶ。
「お待ちを」
ベイリー姫がマルローの手を掴んだ。
マルローの体が固まる。
「私、私……やっと、気づいたのです。結婚話が出て、一番に浮かんだお顔は、マルロー様でしたの」
ベイリー姫は何を言っている? さっきまで、マルローのことなど思い出すこともしなかったのに、とアルカロは不審感を募らせた。
「マルロー、ベイリー姫が謝罪するというから呼んだ。カイトから背景は聞いているな?」
アルカロはマルローを見つける。
「はい」
マルローがベイリー姫の手をソッと払った。
「いいえ、私はマルロー様を離しませんわ」
ベイリー姫がまたマルローの手を掴み、涙を潤ませた。
「あれは、魅了されていただけ。離れてわかったのです。私の心に残っているのはマルロー様だと。どうか、別のお方との結婚を強いられる私を救ってくださいまし。私をマルロー様の隣にいさせて。どうか、クランツ王家の一員にしてくださいませ!」
「何を!?」
流石にアルカロも動揺を隠せなかった。
「そうですな。元通りもよろしいかと」
使者がまーったりと笑みを浮かべた。
やられた! アルカロは腸が煮えくり返る。
まさか、マルローを待つ間に、呪い返しもされず、ルキオの側に居られる策をひねり出していたとは!
ベイリー姫が王家の一員となれば、クランツ魔術師であるルキオは絶対に呪い返しができなくなる。
それは、追放されても同じで、呪い返しを実行すれば、クランツはルキオを大罪人として追わねばならなくなるだろう。それが、いかに理不尽であろうとも。
アルカロはマルローを見つめた。
ナチャンの意向を退けることは可能だ。マルローさえ、ナチャンの話に乗らなければ。
拗れた感情がどうマルローを動かすのか。
「いいよ。婿入りでクランツから離れてもいいならね?」
マルローがベイリー姫を覗き込むように言った。
「それでいいんだよね。俺が心に残っていて、俺の隣がいいって言うなら」
「私が輿入れしてきますわ、マルロー様」
ベイリー姫が引きつり笑いで答えた。
「いや、婿入りじゃなければ、この再打診は受け入れない。婿入りする俺は君と一緒に各師団に挨拶に行く。もちろん、第一師団にも。その機会を棒に振る?」
マルローはベイリー姫から視線を外さない。
その尋常ではない様子のマルローに、アルカロは息を呑む。
マルローはベイリー姫が自身を利用しようとしていることをわかっていて、発言しているのだ。自嘲にも似た笑みを張り付けて。
「なあ、どうする? いや、どうなるかな? 第一師団長は今ご執心の団員がいる。寄宿舎でなく師団塔で一緒に寝泊まりしてさ。見に行こう。俺たちは『幸せになります』って宣言しにさ!」
マルローこそ、一縷の望みをかけた最後の賭けをしているかのようだ。『俺を選んでくれ』と悲痛な感情が見え隠れする。
だが、ベイリー姫の瞳は、マルローの言葉で憎悪に染まっていく。
「ふざけるなああぁぁーー! あの方の隣は私よ! 許さない許さない許さない!」
ベイリー姫がマルローをドンッと押して、絶叫した。
「クックックッ、やっぱり、俺など眼中にないか。ハハハ、いいぞ。もっと憎め! 苦しめてやれ!」
マルローのギリギリの精神が決壊したのだ。
最悪の展開に陥ってしまっていた。
面談は翌日以降にも繰り越されることとなった。




