物語る。23
「さて、挨拶は省略しましょう。無駄な時間ですから」
アルカロは、初っ端から飛ばした。
ナチャン国の使者とベイリー姫が口を開く間を与えなかったのだ。
西の城門前での昨日は、明日挨拶を受けると言い、今日は挨拶は省略と言ったわけ。
使者の眉がピクッと反応したが、笑みを絶やさない。
ベイリー姫は面談参加者にルキオがいないことに、不服顔だ。
クランツはアルカロを筆頭にカイトと第三師団長。もちろん、近衛騎士を配備している。
ナチャンは使者とベイリー姫、そして、従者だ。帯剣はさせていない。
ルキオがベイリー姫から被った『呪い』は王家と、各魔術師団長、副師団長は知らされている。
だから、魔術師団はナチャン国には冷ややかである。
何より、事情を知らなくとも、ベイリー姫のルキオへの執着は、目に余るものがあった。
今回の訪問も、迷惑以外何ものでもない。勝手に嫁がせればいいものを、との心情なのである。
「面談叶いましたこと、安堵致しました」
昨日の今日ですから、との嫌みともとれる使者の発言だった。
「いえ、全然」
アルカロがすぐに反応する。
「(そっちが)帰国叶いませば、こちらは安堵ですから」
安堵など全然してねえよ、さっさと帰ってくれたら安堵するんだけど、との言い回しである。
「安全な帰路まで心砕いてくださり、ありがとうございます」
場馴れした使者たる返答だ。
ナチャン国が、優秀な使者を遣わせたことがわかる。
初戦は互いに笑みを称えて終了した。
「どうぞ」
アルカロが着座を勧める。
「おかしいですね、当事者がいないようですが?」
使者が参加者を見回して言った。
「なぜ、第一師団長がいらっしゃらないの?」
ベイリー姫はここぞとばかりに口にする。
「では、早速お伝え致しましょう。一言一句間違うことなく正確に。
ーー『魔法契約』は断る。勝手に嫁がせればいい。あの女を私の視界の隅にでも入れようものなら、呪い返しを実行すると伝えてくれーー
とのことですよ。どうします? 呪い返しをご希望なら招集しますけど」
アルカロがジッとベイリー姫を見つめた。
ベイリー姫が唇を噛み目を潤ませる。恐怖、悔しさ、悲しみ、恋情、様々な感情を滲ませている。
「こちらからは以上です」
アルカロは組んだ手に顎を乗せて、使者に言った。
「……では、こちらからですが」
使者が続ける。
「ベイリー姫の心の安らぎこそが、『あれ』を落ち着かせられましょう。そのためには、『魔法契約』が」
「先ほど返答済みです」
アルカロが使者の言葉を遮って答えた。
「ベイリー姫、どうぞお幸せに」
「ぃやょ……」
ベイリー姫が小刻みに首を横に振る。
「このようにベイリー姫は心中穏やかでなく、このままでは『あれ』が続いてしまいましょう」
使者がベイリー姫を気遣いながら言った。
「こ、のまま、会えずに……嫁ぐぐらいなら、未来永劫ずっと! ずーっと、苦しませるわ! 私の心の苦しみをずっと味わってもらうから!」
ベイリー姫が胸元のペンダントを握りしめた。
「ええ、お好きにどうぞ」
アルカロは動じずに言い放った。
「なっ!?」
ベイリー姫がアルカロを睨みつける。
「そうなさい。そうすれば、本望でしょう。未来永劫、彼に思ってもらえますよ。嫌われ憎しみ続けられてね」
バンッバンッバンッ
ベイリー姫がテーブルを叩く。
「うるさいうるさいうるさい!」
「姫、落ち着いてくださいませ」
「うっわああぁぁーーん」
興奮し泣き崩れるベイリー姫を、使者が宥める。
そして、使者は顔をあげる。
「どうか、ご慈悲を。ベイリー姫に一見の機会をお与えください。快く嫁ぎ先へ送ってください。『幸せに』とひと声でいいのです。姫にけじめをつけさせてあげてください。それでいいですよね、姫?」
使者がベイリー姫の背中を擦る。
「フッ」
アルカロがそんな二人を笑った。
「一見でいいと言った先から、声かけも望むのか? 被害を被っているこっちがなぜ、謝罪も口にしない加害者に気を使わなくてはならないのだ!?」
アルカロが立ち上がる。
「いいか、よく聞け! クランツ魔術師団に在籍しているから、呪い返しをできずにいるだけ。国外追放にでもすれば、真っ先に呪い返しだけでなく、『ドンッ』とやれるはずだ! こちらの我慢を踏みにじるな!」
使者がグッと喉を鳴らす。
頭を回転させて、返す言葉を考えているようだ。
「……謝罪をしましょう、ベイリー姫。もちろん、本人に」
使者の言葉に、一縷の望みが開けベイリー姫が顔を上げる。
しまった、とアルカロは舌打ちしそうになるが、表情は二人を見下したまま。
「どうか、謝罪させてくださいませ!」
ベイリー姫が叫んだ。
謝罪さえも口実にするこの女に反吐が出る思いだ。
そう、この女のせいで未来有望な弟が拗らせ、魔術国クランツの誇りであるルキオが蝕まれた。
「いいだろう、弟を呼ぶ」
「え?」
アルカロの発言に、ベイリー姫も使者も戸惑った。
「何を不思議がっているのだ? 忘れてはいまいな、弟を足蹴にしたことを」
元々は、第二王子とベイリー姫の婚約は整っていたのだ。
それが流れたのはルキオに一目惚れし、執着するベイリー姫のせい。
忘れ去られた被害者である。
「……え、ええ。呼ぶまでもなく、第四魔術師団塔へ伺いますわ」
そうすれば、西の城エリアに行けるからだろう。
「弟は今、武官修行で東の城にいる。謝罪後、そのままご帰国されればよろしいでしょう」
「……いえ、呼んでくださいませ」
アルカロはベイリー姫の言葉を嘲笑した。なんとしてでも留まり、本望を叶えようとする見苦しさに。
「何をどう足掻こうと、第一師団長には会えませんよ」
会わせないのでなく、会えないのだ。アルカロとて。第一師団塔は封鎖されているのだから。
だが、その情報も教える筋はない。
アルカロはカイトに第二王子を連れてくるように指示した。




