物語る。21
分析爆発から一週間が経ち、第三師団から見張りの目を終わらせるとの通知があった。
ときおり所在不明になっていた詳細は訊かないとも。
さらに、聞きたくない知らせも届く。
あの国の使者とあの女が三日後に着くと。
ルキオは久々に転移魔法を使い、第一師団塔屋上に出る。
屋上へは転移魔法でしか行けない。
ルキオが施した魔法陣を起動させる。
塔内の魔力が素早く反応した感覚に、ルキオは流石だな、と素直に思った。
すぐに、リリアナの元に転移する。
第二調合室で、酔い止め薬を調合していた。
「何したのお?」
リリアナに緊迫感はなく、それが気を軽くする。
あれだけの魔法陣が起動し、それを感知したというのに慌てないのは、肝が据わっている……というよりも、経験済みなのだろう。
リリアナの師匠を鑑みれば。
「封鎖魔法、防御魔法を起動した」
「了解」
いちいち面倒くさい説明がリリアナには必要がない。
ルキオは上を指さす。
「屋上に行くぞ」
ルキオはリリアナの手を握る。
二人で転移するときは、この態勢が定着してしまった。
魔法陣を使わない魔法使いならではである。
「うわー、気持ちいいね」
すでに屋上だ。
ルキオはリリアナの手を離さない。
高所に腰を抜かす者もいる。
リリアナにその心配はないとは思っているが、突拍子もない行動をするかもしれない。
そういう理由にしている……自覚には、目を逸らしておく。
「よっし、私も負けてられない」
「は?」
リリアナが突如、魔法陣を展開させる。
頭上に現れたそれは、金色に輝いていた。魔法陣のほとんどが白光、銀光である。
ルキオは珍しい発光色に目を奪われた。
それが大きな傘のように、第一師団塔を包んでいき、半円になって止まった。
「何をした?」
ルキオは訊いた。
「特に何も効果はないよ」
「……は? はあ!?」
予想だにしない返答だった。
これほどの大きな魔法陣なのに?
「ほら、綺麗な虹を見るような、綺麗な魔法陣を発現させただけ。強いて言うなら、『綺麗』って効果」
そんな魔法陣など聞いたことがない。
ルキオはクッと笑う。
次第に腹の底からこみ上げてくる。
「クックッ、アーッハッハッハ」
ルキオは大笑いした。
「何よお。そんなに笑わないでよ。フェへへ」
リリアナは唇を尖らせるも、いたずらが成功したかのような顔である。
二人は結局、声を出して笑った。
だが、そんな派手なことをすれば、第三師団が訪れるわけ。
それでも、もう封鎖魔法が有効だから、入ってはこれない。
それこそ、目に見える金色の半円から内側には足を踏み入れなかった。
「魔法範囲の可視化か」
屋上旗を頂点とし、半径十五m直径三十mの範囲といったところか。
ルキオはリリアナの頭をポンポンと撫でた。
「そうなっちゃった、図らずも。師匠もそうやって、褒めてくれた」
なんとなくそうじゃない、とルキオは思い、リリアナの首根っこを掴み第三師団の前へ転移した。
「こいつの仕業だ」
ルキオはリリアナを第三師団長の前に差し出し、パッと離す。
「リリアナさんが来てから、第三師団に休む暇がありません」
「ご、ごめんなさい」
リリアナが身を縮こませて、ルキオの背後にヒュンと移動した。
猫のようにすばしっこいやつだ。
後は任せたとばかりに、ルキオの背をグイグイ押してくる。
「以後私たちは、第一師団塔に関与できないということですね?」
第三師団長がルキオに確認した。
「ああ。あの国の者が帰国するまでは」
「わかりました」
第三師団長がルキオの背後を覗き込む。
「リリアナさん、時間ができたら、また鑑定をお願いしたいのですが」
「へ?」
リリアナが自身を指さす。
「はい。リリアナさんの再鑑定です。一応、ルキオ師団長にもお伺いを立てておいたのですが、ほら、色々あって頓挫していたので」
リリアナが背後からルキオを上目遣いで窺う。
「人を盾にするな」
こそばゆさを感じたルキオは、リリアナの額をペチッと叩いた。
「第三師団に迷惑をかけてばかりなんだから、協力してやれ」
「ええ!? 迷惑をかけてるのは私じゃないじゃん!」
ルキオとリリアナはいつもの感じでやり合う。
と、そこで第三師団長がコホンと咳払いした。
「リリアナさん、協力してくれたら、新品の箒を準備しましょう」と第三師団長。
「ノッた!」とリリアナ。
「お前、どれだけ箒に固執してるんだよ」とルキオ。
ルキオは呆れていた。
「だって、魔女には箒が必須だもん」
リリアナがニッと笑った。




