物語る。18
翌日のこと。
その知らせは吉と考えるべきだが、厚かましい要望が添えられており、クランツ王家は苦虫を噛み潰した。
「……あの姫の」
アルカロが最後まで言わず、カイトと視線を交わす。
その場にはルキオもいた。
第一師団塔の一階応接室だ。
リリアナはいない。五階第二調合室の掃除中である。
「あの姫の結婚が決まったと伝えてきたんだ」
アルカロがルキオに告げる。
それだけなら、ある意味吉である。
「そうですか」
ルキオは無表情で返した。
「それで、向こうは呪い返しをしない『魔法契約』を頼んできた」
アルカロがグッと両手を握る。
『魔法契約』とは、契約内容を生涯反故にできない縛り魔法で契約すること。契約を破れば、契約者に被害が及ぶものである。
「いつ呪い返しされるのか、いつ反撃されるのかと、怯えてたわけさ、あの国は。つい最近、ルキオが『ドンッ』と魔力攻撃一回で暴君国を滅ぼしたから、怖くなって第三国を巻き込めるようにあの姫の結婚を決めたんだね、きっと」
姫を嫁がせれば、ルキオの矛先は第三国に移ると踏んだのだ。
ルキオを諦め、嫁がせるのだから、姫の幸せのため、呪い返しをしない契約をクランツに申し込んできたわけ。
姫が幸せなら、呪いは発動しなくなるはずだと。
怯えて暮らせば、その想いが呪いを発動させるからと。
「身勝手な言い分だよ、全く」
アルカロには珍しく表情がかたい。
「その契約のために、あの姫がクランツに来るんじゃ、迷惑そのものだね」
カイトも不満が顔に現れている。
『魔法契約』は当事者でないと結べないからだ。
「裏が丸見えだ」
ルキオはあの姫の思惑がわかる。
「ああ……ルキオに会いたいがための、だろうね。この機会でルキオに迫るのだろう。『願わざる結婚を強いられているから、どうかルキオが私を救って』なんて、ヒロイン全開でさ。それこそ、今回で駄目なら結婚させると言われているんだろう。溺愛する姫に最後の機会を与え、『魔法契約』まで持ち出して、どう転んでも姫が未来永劫不利益を被ることのないようにお膳立てしてるから」
アルカロがそう言ってルキオを窺う。
「『魔法契約』は断る。勝手に嫁がせればいい。あの女を私の視界の隅にでも入れようものなら、呪い返しを実行すると伝えてくれ」
ルキオは立ち上がる。
すると、
ボワッとドス黒い煙が出現した。
「ルキオ!」
カイトが慌てて近寄ろうとするが、ルキオは手で制した。
全身を締め上げてくる茨の棘が、ルキオに苦痛を与える。
「だ、い……じょう、ぶだ」
ルキオはポケットから万能魔法薬を取り出して、一気に飲み干した。
途端に、茨の棘がスッと消えて、ドス黒い煙だけがルキオの周囲を所在なさげに漂う。
そこまでくれば、ルキオは簡単に煙を祓った。
「良かった。やっぱり、リリアナ君の万能魔法薬は効果抜群だね」
カイトがホッとしている。
「ルキオ、その調合はできそうか?」
アルカロが訊いた。
ルキオは首を横に振る。
「素材全部使い切って、万能魔法薬をありとあらゆる棚に置かれた。調合は見てない」
ルキオはフッと笑う。
その表情は楽しげで、ここ数年ルキオの表情から消えていた笑みだった。
「いいんだ。あれの好きにさせている」
「でも、いつか万能魔法薬はなくなる。リリアナ君に魔術師団に残ってもらうように手配しようか?」
アルカロが提案した。
クランツ王家の力を持ってすれば、リリアナを足止めすることは可能だろう。
「断る」
ルキオははっきり言った。
それがリリアナと同じ台詞と雰囲気だと、アルカロとカイトは気づく。
同じ実力者同士の波長にも似た。
「あいつを縛り付けるような真似は、あの女と同じになってしまう」
アルカロとカイトがハッとした。
「……確かに、そうだね」
カイトが苦笑する。
アルカロも自身の発言を恥じた。
「『魔法契約』は断固として拒否する。だが、使者の訪問は断りづらい。きっと、あの姫もついてくる」
アルカロがルキオ窺う。
「ああ」
ルキオは頷く。
「その間、西の城エリアを封鎖してほしいぐらいだ」
「それは、ちょっと」
アルカロが無理だと言い淀む。
「使者滞在中は、第一師団塔は封鎖魔法するけどな」
ルキオは決定事項のように言い切った。
「なら、第三師団には伝えておいてくれよ」
アルカロが許可を出した。
「使者との面談は、ルキオの意向を必ず通す」
そこで、三人は話を終わらせた。
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