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物語る。  作者: 桃巴


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物語る。16

翌日。


どんよりした表情でカイトの後ろについていく。


ルキオには、今度はお前が苦労しろ、と言わんばかりの優越感増し増しの態度で見送られた。


「リリアナ君。流石に表情に出すぎだって」


カイトが苦笑する。


「だってさ。王家の謝罪なんて、マジで面倒くさいじゃん」

「いやでもさ、このままじゃあ、リリアナ君へのクランツの所業は、酷い印象のままでしょ。謝罪ぐらいはさせてほしいよね」


「それだって、クランツの体面のためでしょ」

「そんなあけすけに言われちゃったら、身も蓋もないけど」


そんな会話をしながら中央の主城に入った。


クランツの王城は、主城を中央に東西南北に(とりで)を構えている。城壁によって繋がっており、それぞれに城門がある。

主城からも東西南北の四城に通路が繋がっている。

五城によって巨大な設置型の魔法陣を展開しており、城内にも多くに魔法が仕掛けられた難攻不落の城である。


この城壁に囲われた城内の西の城エリアが魔術師団の本拠地であり、東の城が騎士や兵士の本拠地になっている。


その双方を統括する司令塔がクランツ王であり、指示して動かす指令塔がクランツ王太子となる。


「それで、今回の件は王家を代表して、王太子アルカロが謝罪することになってね」


そんなカイトの説明をリリアナは半分聞き流していた。


いかにも重厚な扉の前でカイトが止まり、扉番に目配せした。

扉番が魔法具を使い、カイトの訪問を中に告げる。

通せとの指示が出て、カイトとリリアナは部屋に入った。


重厚な扉でもわかっていたが、中はこれぞ王族の部屋といった感じの豪華さだ。


「兄上、リリアナ君を連れてきました」

「ああ、よく来たね。私はクランツ国王太子アルカロです」


柔和な言葉で、アルカロがリリアナに微笑んだ。


「あ、はい。リリアナです」


リリアナはペコッと頭を下げる。


「どうぞ、座ってくれ」

「いえいえ、すぐにお暇したく」


長居などしたくないからだ。


「そうだよね。私より、ルキオの所がいいよね。ルキオの側が恋しいわけか」

「こちらでゆっくりさせていただきます!」


リリアナは反射的に答えていた。

のせられているとわかっているが、どうしようもない。

はい、そうです、などとは口が裂けても言いたくない。


アルカロとカイトがクッと笑った。


「私たちしかいないから、気軽にしてくれて構わないよ」

「そうそう、無理に丁寧な言葉を紡ぐ必要はないからね」


アルカロに続きカイトが言った。


「じゃあ、早速」


リリアナはさっさと椅子に座った。

変わり身の早さはリリアナの長所である。


アルカロもカイトも気にすることなく着座する。


「さてと、まずは謝罪から。第九師団の女性魔術師が君に嫌がらせをし、魔法具まで使って監禁したと報告が上がっている。加えて、第四師団長自ら君を手に入れんと第一師団塔を魔石爆発したことも。さらに、第四師団が君の住まいを荒らしたことは、弁解の余地もない。そして、クランツの制度とはいえ、第二師団が追いかけ回し、普通に生活していた君には迷惑をかけたことだろう。加えて、魔力溜まりで第二師団を助けてくれたことも、感謝したい」


アルカロがリリアナに目礼した。


「えーっと、謝罪を受け入れます? って、言うんだったっけ。特に私に被害はなかったし、気にしてないんだよね」


リリアナは前に置かれていたお菓子に手を伸ばした。

気軽にといって、本当にそうする者など少ないだろう。

アルカロがリリアナを物珍しそうに眺めている。


「ね、兄上、リリアナ君って面白いでしょ。あのルキオにも食ってかかってたしね」

「なるほど……ルキオの話し相手ができたことは喜ばしいね」


「わー、面白い冗談だわー」


リリアナは棒読みで応じておいた。


「ハハハ、それでね。興味はないかと思うけれど、それぞれの処遇を伝えておくよ」


アルカロが続ける。


「第九師団の女性魔術師たちは、リリアナ君の件も含め、ルキオに媚薬まで盛ろうとしたから、除隊させた。ただ、表向きは自主退団。地方貴族出だったから、保護者には厳重注意もした。城都へも来られない」


アルカロがこれでいいだろうか? との視線を向けてくるから、リリアナは頷いておいた。

魔術波動を登録しているから、自動的に排除されるそう。


「問題の第四師団だけど、上の指示に従わざるえない団員を罰することはできない」

「うん、そりゃあそうでしょ」


リリアナはアルカロがお伺いを立てる前に言っておいた。


「承知してくれて助かるよ」


アルカロもカイトもホッとしていた。


「上たる第四師団長にして第二王子と副師団長には、二つの選択肢を与えた。一つは、私への隷属魔法具のピアスをつけるか、もう一つは魔封じの腕輪をつけて東の城配属か」


隷属魔法具は、主の許可なく魔法魔術が使えない。主は隷属者の魔法魔術を自分のものとして使える。

魔封じの腕輪は、その名の通り、魔法魔術が封じられる魔法具で、解除はつけた者しかできない仕様である。


つまり、どちらも王太子アルカロの支配下に置く処置ということだ。


魔術師にとって、どちらを取っても筆舌に尽くし難いわけ。会得した術が封じられ奪われるのだから。


「つまり、第二師団の緊急事態と同じ状況にさせることが目的だよ。魔法や魔術が使えない状況を、身を持って体験させないと、第四師団が担っている素材採集と供給の意義をわかってもらえないから」


アルカロが淡々と話す。

柔和な口調だが、話す内容に少しの情も感じられない。

冷たく言い放つ判断より、穏やかに告げる処遇の方が、有無を言わさぬ恐怖を抱かせるだろう。


それが王太子、つまりは覇権者の持つ覇気と言える。


「んー、じゃあ、わかってもらうためってことは」

「そう、後々復帰を視野に入れている。師団長、副師団長を勤められる実力はあるんだよ。魔術師団は身分で役職は決まらない。第二王子は……少し拗れてて、正常な判断ができていないだけ。副師団長も第二王子の幼い頃からの友だから」


リリアナはルキオが不機嫌を増す理由が復帰ありきの処遇にあるとわかったし、五日も会議が長引いたのもこの処遇のせいだろうと察した。

師団長第二王子は魔封じの腕輪を選択し、副師団長は隷属魔法具になったそう。

二人が同じ処遇を選べないともしたから、それぞれ一人で苦労することだろう。


「それで、住まいからの押収品なんだけど……」


アルカロが姿勢を正す。


「返却はできない」

「……あー、はい」


なんとなくわかっていた。


「リリアナ君の魔法薬は効果が突出している。別格の代物だ。そんな特効薬ともいえる代物を王家は手放せない」


アルカロの目が申し訳ないと訴えている。


「どうぞどうぞ」


リリアナは気にもとめていなかった。

アルカロがホッとしている。


「相応の対価は支払うから」

「ラッキー」


リリアナはそこで立ち上がった。


「じゃあ、話は終了だよね」

「いや、まだだ。リリアナ君に頼みたいことがあってね」


カイトが帰ろうとするリリアナを止めた。

リリアナは小首を傾げる。


「まあ、座ってよ」


アルカロが眉尻を下げながら言った。

カイトも手を合わせている。

その様子から、頼みが私事だと感じた。


「で?」


リリアナは座り直し、簡潔に訊いた。


「滞在する六ヶ月で、万能魔法薬をできるだけ多く作ってほしいんだよ」


アルカロが頭を下げた。

カイトもそれに倣う。

王太子と第三王子が頭を下げたのだ。

それは、立場を度返しした頼みということ。


「……『魔女への依頼』ってことで合ってます?」

「ああ、そのとおり」


頭を上げたアルカロとカイトの瞳は真剣そのもの。

リリアナは小さく頷いて、二人に続きを促した。


アルカロとカイトが視線を交わす。

先にカイトが口を開く。


「ルキオは……ある病、を患っている。治すことはできない病で、その病に対処する手立てを探していたんだ。ルキオは神鏡で病祓いができると調べ上げた。だが、まだ神鏡は見つかっていない。いや、伝説上の神器が存在するとは極めて可能性が低いだろう。そんな中、ある万能魔法薬が我々の手元に届いた」


カイトがリリアナを見る。

リリアナが馴染みの行商人に卸した万能魔法薬だ。


「その万能魔法薬は、ときおり発作を起こすルキオの状態を回復させたんだよ」


アルカロが話を引き継いだ。


「その病で死ぬことはないが、死すまで付き合わざるを得ない病で、ルキオの心身への負担は相当なもの。その原因は、我々王家のせいでもあって……だから、リリアナ君の万能魔法薬をできるだけ多く作ってほしいのだよ」


リリアナは押し黙る。

さて、どうしたものか、と。

二人が口にするある病とは、先日見たドス黒い煙のことだろう。


「ちゃんと対価を支払うよ」


何も反応のないリリアナに、アルカロが窺うように言った。


「素材と調合を教えてもらえれば、六ヶ月以降はルキオが自身で対処できるしね」


カイトも続ける。

だが、リリアナは黙ったままだ。


「断る」

「リリアナ君!?」


リリアナの返答に、カイトが腰を浮かせた。


「ただ、薬を作ってほしいだけの依頼なんだよ。行商人に卸すのと違いはないし、なぜ?」


アルカロの表情が少しだけ強ばっている。断られるとは思っていなかったのだろう。


「なぜ? って、『魔女への依頼』は隠し事がなしだってのが基本。隠し事のせいで、魔女が間違った介入をしちゃったら問題になるでしょ。何より、そっちの隠し事を引き出せない私の力不足もあるし。亡くなった師匠が言ってた。全て話してもらわなきゃ、依頼を受けちゃいけないって。本当の解決に導けないからだってね」


今度は、アルカロとカイトがは押し黙った。


「王家が原因って口にしたのに、私事で依頼するって、なんか……揺れてる依頼ってことでしょ? 王家内でもどうするか決めかねているみたいな」


アルカロが小さくため息をついた。


「ああ、そのとおりだよ。どうしていいかわからない」

「だから、口にできる可能な依頼を二人で考えたんだよね」


カイトが苦笑した。


「二人には悪いけど、中途半端な依頼は受けない。それに、この五日間で万能魔法薬は第二調合室のありとあらゆる棚いっぱいに作っておいた。そういういたずら」


「は?」とアルカロ。

「え?」とカイト。


「だから、断った。言われるまでもなく作っちゃったから。ねえ、もういい?」


テーブルにあったお菓子をリリアナは掴んで立ち上がった。


「対価はいただいたぜぃ」


リリアナはニッと笑ったのだった。





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