物語る。15
ちょいと前に遡る。
リリアナは魔力溜まりを抜け、力場に入った。
力場とは、自然が持つエネルギーが循環する所。
螺旋のようにエネルギーが上昇するその場に、リリアナは身を委ねる。
心身の悪しきモノが剥がれ、自然と深い呼吸が紡がれる。力場の作用で心身が循環し、古い気が排出され新しい気力で満たされるような。
リリアナは目を瞑り、しばしそこで佇む。
退くタイミングは、力場が教えてくれるから。
ギシ
耳慣れぬ音をリリアナは拾った。
ギシギシギシ
それは近づいてくる。
実音ではないと察する。
ゆっくり目を開けると同時に、力場がリリアナにそれを視せた。
ドス黒い煙に包まれたルキオを。
力場が視せた光景だとわかる。
リリアナはルキオに駆け寄り、体を支えた。
苦悶の表情を浮かべている。
ドス黒い煙はリリアナを避け、ルキオに執拗に纏わりついていた。
「ルキオ、大丈夫?」
声をかけるが反応はない。
ルキオの焦点は定まっていなかったが、力場の方を目指していることは明らかだった。
不安定な防御魔法をリリアナは補強し、なんとか力場へとルキオを連れていく。
力場に入った途端、ドス黒い煙は逃げるように霧散し、ルキオの膝が崩れた。
「ルキオ!?」
どうやら、意識を失ったようだ。
煙が消えた瞬間、全身に絡みつく禍々しい蔦が視えたが、力場がそれを祓ったのだろう、消えている。
ルキオほどの者が抗えない何かがあるというのか? との疑問が浮かんだ。
「何だったの?」
リリアナは、ルキオを支えながら横たえた。
力場のエネルギーがルキオの気を循環させているが、顔色は優れず、にじみ出る嫌な汗が髪をべっとりと額に張り付かせていた。
「……」
リリアナは周囲を窺う。
ルキオ以外誰もいないことを確認し、覚悟を決めた。
「『癒しを!』」
リリアナの紡いだ言の葉が、ルキオの全身を巡っていく。
魔法でも魔術でもないそれは、ルキオの状態を回復させていった。
リリアナの第三の力だ。
穏やかに呼吸しだしたルキオの頭をソッと起こして、膝枕をする。
べっとりと気持ち悪そうな髪を優しく乾燥魔法をかけながら撫でた。
「ルキオ、あなたも私と一緒で、秘密があるみたいね」
リリアナは、ホッと一息つく。
ルキオが……少しだけ近くなったように感じた。秘密を持つ同士を得たような感覚だ。
「まあ、共有はしていない秘密だけどね」
互いの秘密の内容は知らないからだ。
踏み込みはしない。
魔女は依頼がないと、秘密には介入しないから。それも師匠からの教えである。
リリアナは鼻歌をしながらルキオが起きるまで髪を撫でた。
少し経ち、ルキオが意識を取り戻す。
魔法薬を含ませたと嘘を吐き、変わらぬ口調で話した。
ルキオも異変を口にしない。
自身も何をしたかを口にしない。
たぶん、互いにそういう流れを汲んだわけ。
そして……第一師団塔に戻ると、見知らぬ者だらけで居心地が悪かったし、王家の謝罪とかなんとか言われて、各師団長に挨拶されるやらで、リリアナは引きつり笑いを浮かべるしかなかったのであった。
結局、翌日から五日ほどルキオは魔術師会議やら、王家からの呼び出しやらで第一師団塔を留守にした。
ルキオは、日に日に不機嫌を増して帰ってくるが、反対にリリアナは、自由気ままに過ごして快適な日々だった。
「おい、明日はカイトが迎えにくるからな」
「へーい、明日も頑張ってねー」
リリアナは明日も一人時間を満喫できるとほくそ笑む。
「お前を迎えにくるんだ」
「え、なんでよ?」
「王家の謝罪だ」
「それ、断ったのに!」
リリアナは絶賛ご遠慮願いたかった。
「ま、せいぜい猫を被っておけよ」
ルキオが楽しげに言った。
「箒どこだっけ?」
偽リリアナを向かわせられるから。
「残念だったな。第四師団にくれてやったぞ、オルゴール付きで。魔石爆発までして欲しかったモノらしいからな」
なんて嫌みな対応だっただろう。ルキオらしいといえばルキオらしいが。
「そういえば、第四師団のこと、どう決着がついたの?」
「それも、カイトが伝える」
「ふーん」
「トンズラするなよ?」
「バレたか」
「お前が考えることなどお見通しだ」
「え? ヤバいヤバい! 第二調合室にいたずらしたのもバレてるの!?」
「……」
こめかみに青筋を立てたルキオに首根っこを掴まれたリリアナは、第二調合室に連行されたのだった。
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