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物語る。  作者: 桃巴


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物語る。11

ルキオが大展開させた魔法陣で、第二師団半数を引き連れ、山奥の小屋に転移した。


「あっ」とリリアナ。

「おっ」と馴染みの行商人。


転移した小屋の前に、馴染みの行商人が野営していたのだ。


「……やっぱ、俺のせい?」


行商人がコソコソとリリアナに問う。

この行商人がクランツ本国でリリアナの万能魔法薬を売ったのだから。


「ううん、クランツに魔術師登録が必要だったんだってさ。知らなくて、逃げ回っちゃった」


リリアナはテヘと舌を出す。


「魔術師団に入って、六ヶ月の奉仕勤務中」


リリアナは制服姿でターンした。


「良いじゃねえか。クランツの魔術師団なら安心だ。嬢ちゃんを頼んます」


行商人がカイトにペコッと頭を下げた。

カイトが行商人から、万能魔法薬のことを聴取したからだ。それが、なかなか捕らえられない魔法使いであると、繋がってやっとリリアナを見つけられたのだから。


「こちらこそ」


カイトにいつもの軽々しさはなく、柔和に応じた。

こういうときは、クランツ第三王子の体面を保っている。


「ちょっと、いいかい?」


行商人がカイトにまたペコッと頭を下げて、リリアナを手招きした。


二人で魔術師団らから少し離れて話し出す。

その様子を、ルキオやカイト、セレスが気にしながら見ていた。


『嬢ちゃん、どうする?』


行商人が小声でリリアナに問うた。


『うん、六ヶ月は動けない。その旨、とと様とかか様に伝えてくれる?』

『ああ、了解だ』


実家への言伝を、行商人に頼んだのだ。


『二十歳で修行期間が終わって、一度帰省しようと準備してたのに、追いかけ回されて、腐海の森には帰れなかったのよ』


リリアナの実家はクランツにも知られていない腐海の森にある。


『魔術師団での追加修行ってことでいいんじゃねえかよ。何か会得できるかもよ。お師匠様だって、見守ってくれるさ』


リリアナは行商人の言い様に引っかかりを覚えた。


『もしかして……師匠の入れ知恵?』

『ありゃ、バレたかい。俺への遺言のようなものだったな。できれば、魔術国に行かせてやりたいってポツリと言ったんだ』


『だから、クランツ本国に行って、万能魔法薬を売ったのね?』

『おおよ。絶対、目をつけられるってえ算段だった』


『まんまと嵌っちゃったわ』


そこで、リリアナと行商人は笑い合った。


『師匠の計らいなら、とと様もかか様も納得するはず』

『ああ、ちゃんと伝えてくるさ。六ヶ月頑張れよ』


リリアナと行商人は握手した。


「話はついたか?」


ルキオがそこで声をかけた。

待たされるのが気にくわないのか、憮然とした表情だ。


「へーい、お待たせしてすみませんねえ」


リリアナも、ふてぶてしい態度で返した。


「嬢ちゃん……その口調と態度、お師匠様が生きてたら、しこたま怒られるぞ」


行商人が呆れたように笑う。


「嬢ちゃん不在の六ヶ月、月一の小屋管理を頼まれただけさ。時間取らせて悪かったぜ」


行商人がリリアナに目配せし、ルキオに謝る。

そういう話にしておいたのだ。


「……いや、別に」


行商人に謝られ、大人気なかったとルキオが引き下がった。


「確かに、こちらの配慮が欠けてたね。着の身着のままでクランツ本国に連れてっちゃったし」


カイトがリリアナに『ごめん』と手を合わせた。

リリアナは首を横に振った。


「大丈夫。魔法使いは住処に愛着を持たないもん。いつだって、身一つで逃げ回れるようにしてあるから」


魔女への迫害から逃れるために。

力を欲する権力者から隠れるために。


「クランツは安全だからね」


リリアナの言葉の意味に気づかないカイトではない。


「うん。ルキオ以外全然脅威じゃないね」


グサリ


カイトもセレスも……第二師団員らも流石に心を抉られていた。

ルキオの不機嫌は直ったが。


「俺は嬢ちゃん待ちだったし、お暇するぜ」


行商人が帰り支度を始める。


「気をつけてね」

「ああ」


「じゃあね」


リリアナらは行商人と別れた。




「この山は魔力溜まりが点在するから危険なの。だから、訪れる者は少ない」


リリアナは先導しながら、説明する。


「だから、こんな山奥に住んでたってこと?」


カイトが訊いたから、リリアナは振り返って、ニッと笑っておいた。

ルキオは夢中で周囲を観察しているし、セレス筆頭に第二師団員も山の素材に目を輝かせている。


魔石はゴロゴロ転がっているし、珍しい薬草も生えている。魔法具の素材になりそうな大木やら、魔物や魔草がそこかしこにいるのだ。


「そろそろ、魔力が強くなるから、気を張ってね」


ズン


その境目を跨ぐと、重圧が心身を蝕む。


ガクッと第二師団員らの歩速が落ちた。


「これ……魔力酔いだ……」


セレスが息苦しそうに声を出した。

魔力持ちの魔法使いたちは、直に魔力の重圧を受け、魔術師たちは所持している魔石や宝石の異様な反応に平衡感覚を保てない。


「だよね」


リリアナは平然としている。


「酔い止め薬を一応準備しておいて良かった」


膝を崩した団員らは、リリアナの魔法薬を飲み、酔いから解放されると大きく深呼吸した。


「ここに、一日いるだけで修行になるよ」

「とんでもないね」


カイトが頬叩いて気を引き締めた。


「ルキオは……」

「問題ない。防御壁を展開しておいたからな」


ルキオの周囲には透明の魔法壁が展開されている。


「僕の失態だ。新領域への好奇心で浮足立ち、警戒を忘れていた。これじゃあ、第四師団は慎重だからなんて言っちゃいけないな」


カイトが苦笑した。


「……ねえ、リリアナさん」


セレスがリリアナを呼ぶ。


「何?」

「こういう場を避けて、逃げ回ってた? ここに逃げ込めば、逃げおおせたと思うんだけど」


皆の視線がリリアナに集まっている。


「もしかして、僕らはリリアナ君に助けられていた?」


カイトがセレスに続けて言った。

魔力溜まりに誘ってしまえば、動けなくなるのだから。


「違うよ。この素材場を知られたくなかっただけ」


リリアナは皆の視線から逃れるように、ツンと横を向く。その言動が物語っていた、カイトとセレスの指摘通りだと。


知られたくないなら、案内しなければいいし、今も逃げられる状況で、酔い止め薬まで気を回して持ってきたのだ。

こうなることをリリアナは予想して。


「カイト、今日は引き返そう。魔力溜まりに入らなくても、魔石は採集できるほどあったろ?」


ルキオが言った。


「ああ、そうする。失態して進むほど危険な行為はないからね。興味や好奇心の先が奈落ってのは往々にしてあるものさ。リリアナ君ありがとね、この山の危険性を教えてくれて。戻ったら、各師団に伝えるよ」


カイトの言葉で、リリアナは思い出す。

師匠に連れられてここに来た日のことを。この山の危険性、魔力溜まりのことを教わった。

その時点でも、リリアナは魔力酔いはしなかった。

師匠がリリアナの頭を嬉しそうに撫でたのを覚えている。懐かしい思い出だ。


「あ、そうそう。この山は昔、聖なる山って言われてて、頂には神鏡が鎮座し穢れを祓ってたんだって言い伝えもあるらしいよ」


リリアナはあの時の師匠の言葉を思い出して、ルキオに言っておいた。

それっきり、その話はしたことがなかったからすっかり忘れていたのだ。


「何!? なぜ、それを早く言わないんだ!」

「だって、今思い出したことだし」


「よし、行くぞ」

「引き返すんじゃなかったの?」


「それとこれとは話は別だ」

「もう、神鏡は頂にないって。それがあったら、魔物や魔草、魔力溜まりなんて存在しないじゃん」


リリアナの言葉に、動き出していたルキオの足が止まる。


「それもそうか……」

「ルキオ、今日は魔石採集だけにしとこう。ここは、第二師団でも長居できない場だしね」


カイトが言った。

慎重に判断したのだ。


「ああ、そうだな。気が急いた」


ルキオとカイトが視線を交わす。

何やら、ルキオが神鏡を探す理由があるようだ。

ま、関係ないし、とリリアナはなぜ神鏡を探しているのか訊かなかった。それは魔境部屋を案内されたときからで、興味がなかったから。


さてさて、一行は少し戻って魔石採集しクランツ本国に戻ったのだった。






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