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物語る。  作者: 桃巴


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物語る。1

「そういや、うちの国滅んじゃったぞ」


青天の霹靂、なんて思わなかった。


「へえ、そうなんだ」


リリアナはのほほーんと答えた。

馴染みの行商人が続ける。


「まあさあ、立君、聖君、賢君、平凡君、盆暗君、暴君って感じで継承されてきたらしいし、亡国は既定路線だったよな」


「だね」


リリアナは同意した。

ずーっと続く国なんてものは存在しない。いや、ずーっと続く王朝は存在しない。過渡期が訪れて崩壊するものだから。


「下々の暮らしは変わらないし。こんな僻地ならなおさらよ」


リリアナの住まいは、一番近い村まで一刻はかかる山の奥地。

魔法使いは、そういう場に住むのが常だって、師匠に教わっていた。

そう、リリアナは魔法使いである。


「ちょっとの混乱期さえ過ぎれば元に戻るだろうよ。まあ、だから落ち着くまで遠出の行商でもしてくらあ。しばらく、顔出せねえからな」


行商人がニヤッと笑って親指を外に向けた。


「それって、どの国を指してるのよ?」


「うちの国を滅ぼした『クランツ王国』」


リリアナは行商人が笑んだ理由がわかった。


「魔術国かあ」


クランツは、魔法と魔術の先進国である。


「そう、魔法使い、魔術師の国。その国の逆鱗に触れて、王城は『ドンッ』て、魔力攻撃されて一瞬で崩壊」


「理由は?」


興味はそこまでなかったが、訊いてみた。


「クランツの見目麗しい姫君に、色ボケ暴君が目をつけて、妾に貰ってやるから寄越せってかましてさ。もちろん、断られたわけ。で、攫おうとしたっていうから」


「大馬鹿じゃん」


呆れた理由に乾いた笑いしか出てこない。


「じゃあ、今うちはクランツ国なの?」


「ああ。属国でも自治領、自治区でもなく、完全に呑み込まれた感じ。けっこう離れた飛び地だけどな」


大河や山、荒野とか海によって、国は分け隔てられているが、明確な国境線はない。

ただ人が住む地が、どこの国に属するかだけは決まっている。

そうでない所は……山賊やら野盗のねぐらだろう。


「これからは、まともな国になるだろうさ。俺は見聞ついでに、クランツ本国に足を伸ばしてくる」


「へえ、ご苦労なことだね」


リリアナはズズズーとお茶を啜った。


「婆さんみたいだな」


「失礼な。二十歳になったばかりなのに」


リリアナは年頃の二十歳だ。

こんな僻地に住んでいなければ、縁談の一つや二つあっただろうが。いや、普通の娘なら結婚していてもおかしくはない。


「おお、そうだったな。死んだ嬢ちゃんのお師匠様から、二十になったら渡してくれって頼まれてたんだ」


行商人が包みをリリアナに差し出した。


「なんだろ?」


包みを開こうとするが、行商人が慌てて止める。


「俺が去ってからにしてくれ。魔法使いの継承事かもしれねえだろ?」


「あー、ごめんごめん。そうだね、いきなり何か発動したらヤバいか。師匠、そういうのやりそうだもんね」


リリアナは師匠を思い出して笑った。

行商人も笑っている。

破天荒な師匠と行商人は、旧知の仲だったから。

行き倒れた行商人を、気まぐれで師匠が救ったって聞いている。


「さてと、そろそろお暇するか。いつものやつ頼む」


行商人が薬棚を一瞥した。


「嬢ちゃんの魔法薬は最高級品だ。お師匠様よりも優れてる。今回は、クランツ本国で行商するから、少しばかり多めに仕入れさせてくれ」


「毎度あり!」


リリアナは、病気や怪我に効く万能魔法薬を売る。

瀕死状態じゃない限り、リリアナの万能魔法薬は有効だ。軽いものなら一発で、重いものでも長期間服用すれば、回復に向かうほど。


「じゃあな」

「またね」


行商人を見送って、リリアナは包みを開いた。


「これ……」


包みの中に入っていたのは、魔力が込められた宝石のネックレスと文。


リリアナは真っ赤な宝石が連なるネックレスを持ち上げてマジマジと見つめる。


「師匠の魔力……だけじゃない。ってか、こんなに魔力を込められる宝石があるんだ」


リリアナは、ネックレスを首にかけ、文を開く。


***

継承魔力

何代にも渡って弟子に継ぐブツだ。

お前さんも魔力満充填にして、次へ継いでくれ、頼んだよ。

そいつには、魔力満充填で緊急避難が六回できる術式が施されている。

『緊急避難術式発動』って、念じればいい。

安全な場へ一瞬で移る。

まあ、発動させる緊急事態がなく過ごせればいいんだがね。

魔法使いに緊急事態が起こらない一生はないもんだ。

あたしゃあ、三度使った。

お前さんは何度使うんだろうね?

このネックレスの魔力は継承者以外は感知できない仕様になってる。

それから、継承者の元に必ず戻ってくる仕様にも。

何代にも継がれてるから、継ぎ忘れの事柄もあるだろうさ。

感じ取って使ってみろ。

あたしからは以上だ。

いや、もう一つあった。

二十歳おめでとう。

***


「うわっ!」


文が発火して、跡形もなく消えた。


「……師匠らしいや」


リリアナはフッと懐かしむのだった。





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