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学園最弱冒険者の俺、五十年間魔力だけを鍛え上げた仙人が憑依したので、現代ダンジョンで最強をぶちかまします  作者: 甲賀流


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第7話 返済の条件



 朱莉を家に残して玄関から外に出ると、目の前には黒い車が三台と数人の黒服の男たちが立っていた。


 体格のいい者、細身な者、背丈もバラバラ。


 そして中央に立つ七十代くらいの男のみが、純白のカジュアルスーツを着ている。

 雰囲気的にコイツがボスにあたるのだろう。

 

 白スーツの男が、俺を上から下まで値踏みするように睨んだ。


「九十九家の長男か。手ぶらってこたぁ、オレたちに払う金を持ってきた様子じゃなさそうだな」


 周囲の男たちがニヤニヤと笑う。

 その笑いは、すでに獲物扱いしている人間に向けるものだ。


「金なら、月々決まった額を振り込んでいるはずだが」


 俺が淡々と言うと、男は鼻で笑った。


「それじゃ足りねぇんだよ。なぁ、ボウズ。金借りたらよぉ、時間が経つほど利子ってもんが増えるのは知ってっか?」


 利子。

 まぁ、分からなくはないが――


「それがこの請求額だ」


 男が差し出してきた書類を受け取り、俺は淡々と目を通す。


 瞬間、眉がぴくりと動いた。


 ふむ。

 不当にも程があるな。


 書かれている数字は、今までの返済額の十倍以上。

 到底あり得ない増え方だった。


「こんなもの、払えるわけがないだろう。ふざけているのか?」


 俺が書類を返すと、男は唇の端を吊り上げた。


「ふざけちゃいねぇよ。お前の親父さんがそういう契約したんだ。借りた金のケツは息子が拭く。世の中、そうなってんだよ」


 胸の奥が少しだけ熱くなった。


「ま、今さら失踪した父親がどんな契約をしたかなんて、お前たちガキに知る由もないだろうがな」


 男のそのセリフに、周りは再び大笑い。


「はは、ボス容赦ねぇ〜」

「子供には酷だろうが、これが大人の世界ちゅーもんだぜ」

「いい社会勉強になったな、九十九も長男よ!」


 そしてこの身体――穂高の記憶が疼く。


 母が死に、父が失踪し、穂高は残された朱莉と二人で必死に耐えてきた。

 さらには父の疾走まで利用して、まだ俺たちから搾り取ろうというのか。


 だが俺は一度息を整え、冷静さを保つ。


「不当な利子だ。応じる理由はない」


「……驚いたぜ。九十九の長男坊は、いつも怯えて声すら出せなかったはずだが?」


 男は一瞬目を細めるが、


「まぁ、所詮はガキの強がり」


 ニヤリと笑い、わざとらしく肩をすくめた。


「それならオレたち獅ノ目組(しのめぐみ)からお前に、一つ提案をしてやろう。金が払えねぇなら、代わりに働いてもらうってのはどうだろう?」


「働く?」


「そうだ。ちょうど近くにダンジョンがひとつあってな。そこで取れる素材が必要なんだよ。今は人手が一人でも惜しいんだ。それで借金全て……とまでは言えねぇが、利子分くらいはチャラにしてやる」


 ほう。

 

 その提案に、俺は思わず笑いそうになる。


 修行の機会を向こうから用意してくるとは。


「それは……好都合だ」


「は?」


「行こう。お前たちと一緒にダンジョンへ行けば、いいんだろう?」


 黒服たちが顔を見合わせる。


「お、おい……なんか余裕だぞ、このガキ」

「ビビって泣くと思ったんだがな……」


 男たちがひそひそ声で話す中、俺は淡々と続けた。


「借金が帳消しになるなら、朱莉の未来を守れるのなら、それで問題はない」


 そして――


「それに、ちょうどいい鍛錬になる」


 澄明としての本音も溢れる。


「はぁ?」


 黒服の男たちが眉をひそめた。


「……まぁいい。今すぐ乗れ。さっそく向かうぞ」


 ボスが合図すると、黒服は着々と乗車していく。


「ガキ、ほらさっさと乗れ!」


 黒服の一人にに指示されたのは、最後尾の車――その後部座席だった。

 

 俺は迷わず乗り込む。


 するとそこには、俺と同い年くらいの青年が座っていた。


 黒髪で切れ長の目。

 無駄のない姿勢。

 どこか、武術経験者のような軸がある。


 魔力の流れが綺麗だ。

 鍛えられた身体の芯から、濁りのない魔力が滲んでいる。


 俺が軽く目が合うと、彼は一瞬だけ目を揺らしすぐにそっぽを向いた。


 車が静かに発進する。


 隣の青年、おそらく同年代くらい。


 実は彼も冒険者学校に通っていたりするんだろうか?


 もしそうだとしたら、なぜこんな闇の深いような仕事をしているんだ?


 ってそんなこと、考える必要はない。

 街の灯が遠ざかっていく中、俺はふっと目を閉じた。


 今は確実にダンジョンを攻略するため、出来うる限り魔力を洗練させよう。


 俺は澄明の頃の修行を思い出しながら、穂高の中の魔力を練り込む。


 彼ら九十九家の借金問題を解決させるため、


 そして――五十年の修行で得た力を、さらに高めるために。


「……行くか」


 俺はそっと拳を握った。



 * * *



 一方、穂高の隣に座る少年――

 獅ノ宮京介しのみやきょうすけ は、静か隣を一瞥した。


 ボスから渡された資料の内容が、頭の中で自動的に浮かび上がる。


 ――九十九穂高、冒険者学校に通う一年生。


 ――父親がギャンブルで大敗し、借金だけ残して失踪。


 ――残された妹と家族ごと、負債を肩代わりさせられている。


 京介は拳を強く握った。


 父親のケツも拭けないような家は、同じ目を見るべき。

 それがボス、獅ノ宮獅童しどうの教えだ。


 小さい頃、路地で倒れていた自分を拾ってくれた人。

 名前を呼んでくれた初めての大人。

 居場所を与えてくれた人。


 だから京介はずっと従ってきた。


 返済能力のない人間から、体力・労力・時に命を搾り取る。

 それが正しいやり方だと信じて疑わなかった。


 偶然穂高と同じ学校、同じ学年である京介。

 

 しかし例え同級生でも、関係ない。

 俺は悪を裁くだけなんだ……と、何度も心の中で呟いていた。


 ――だが。


 隣で静かに目を閉じる穂高の横顔には、怯えも絶望も一切なかった。


 ただ、静かに呼吸を整えているだけ。

 その姿に京介の胸が、チクリと痛む。


 ……なんだよ、その落ち着き。


 普通は震える。

 泣く。

 事情を説明して許しを乞う。


 なのに、穂高はまるで――眠っているかのように目を瞑っている。


 だがこれは眠っていない。

 魔力を研ぎ澄ませているんだ。


 同じ冒険者として、京介は一目で分かった。


 あまりに洗練された魔力に、呆気を取られる。


「……本当に一年か?」


 思わずそう漏らしていた。


 同じAクラス、隣のSクラスにも九十九なんて姓はいない。

 だとしたらBクラス辺りか……。


 記憶を巡らすも、京介には見覚えがなかった。


 いた、何クラスだろうが関係ない。

 コイツはどうせ死ぬ。

 その運命は変わらない。


 俺は俺の仕事をしよう。


 今後こそ必ずボスに認めてもらうんだ。


 一人前だと認めさせてやる。


 京介はそう心に誓ったのだった。


 

 しかしこの後――自分の価値観を根底から覆す本物の力に出会うことなど、今の京介にはまだ知る由もない。


 車は暗く静かな郊外の道を進み、着実にダンジョンの入口へと近づいていく。

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