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学園最弱冒険者の俺、五十年間魔力だけを鍛え上げた仙人が憑依したので、現代ダンジョンで最強をぶちかまします  作者: 甲賀流


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第16話 決行の日


 指定された日は、あっという間にやってきた。

 そしてそれは静かな夜だった。


 時刻は二十一時前。

 校門前に立つと、昼間とはまるで別の場所のように見える。


 街灯は最小限。

 逆にその光が、学校の不気味さを引き立てているような気がする。


「……ここです」


 美鈴がスマホを操作しながら、小さく声を出した。


 画面には、地図アプリではない。

 校舎の裏手を拡大した写真と、男から送られてきたメールの文章。


『旧校舎裏』

『ここから入れる』


「……かなり具体的だな」


 俺が言うと、隣の夜継が面白そうに目を細めた。


「へぇ。僕も知らなかったよ」


「三年Sクラスでも?」


「うん。夜に忍び込む発想がないからね」


 軽い口調で夜継は笑ってみせる。


「……美鈴さん、大丈夫?」


 その傍で、紗和は美鈴に声をかけた。


「は、はい。大丈夫、です……」


 たしかにそう返事した彼女だったが、明らかに足が震えている。


 大丈夫なわけがないか。


 自分の身、家族の身を委ねているのが、自身ではなく他者である俺たち学生なのだから。


 しかも相手の戦力は未知数。


 いくらこっちに学園最強がいるとしても、敵はおそらく現役の冒険者。


 仮に相手の強さが全員、この前の『黒瀬』レベルなら、俺とてどうなるか分からない。


「大丈夫だ。今日でこの件を終わらせる」


 そう言うと、美鈴は小さく頷いた。


「……はい」


 とはいえ始まる前から心配しても仕方ない。

 だから俺は前向きな言葉を彼女に投げかけた。


 それから俺たちは、スマホに表示された手順通り、旧校舎裏へ回る。


 フェンスの一部が、わずかに緩んでいた。

 結界の継ぎ目も、確かに薄い。


 そして学校の監視カメラ。

 見たところ、ここを映すものはないように思える。


「本当に……詳しいな」


 俺が呟くと、夜継は楽しそうに笑った。


「卒業してからも学校を自由に使っちゃってさ、なんか嫌な奴らだよね」


 そう軽口を吐いて、フェンスを飛び越える。

 俺たちもそれに続き、そのままスムーズに校舎の中へ移動した。


 廊下の照明は半分ほど消えていて、足音がやけに大きく響く。


「……夜の学校って、雰囲気あるわね」


 紗和の囁きに、美鈴は彼女の袖口を掴みながら、何度も頷いてみせる。


「こ、こ、こ、こんなの、ただ暗いだけじゃねぇか! 全然大したことないって! ね、穂高さん?」


 京介もいつもより、言葉がたじろいでいる。


「まぁ、お化けでもいそうな雰囲気だな」


「や、やめてよ、穂高!」


「そーです穂高さん、ビ、ビビ、ビビらせないでくださいよ!」


「み、みなさん、そんなに騒いだら……相手にバレちゃいますよ……」


 そのとき。


「もう遅いと思うけどね〜」


 夜継の視線の先、


 前方の廊下に、人影が見えた。


 一人、二人……。


 最終的に、六人。


 壁際に散るように立つ男たち。

 全員が年上で、学生ではない。


「……風祭美鈴」


 中央に立つ男が、ねっとりした声で名前を呼ぶ。


「騒がしいなと思ったら、お前仲間を連れてきやがったのか」


「約束と違うだろ」


 別の男が、俺たちを見て目を見開いた。


「美鈴、お前を脅したのはアイツか?」


「……い、いえ、違います」


 そうだろうな。

 話に聞いていたのは、金髪の男。

 目の前の男とは、全く風貌が違う。


「……待て。あれ、白凪夜継じゃねぇか?」


 空気が一気に変わる。


「三年Sクラス……」

「ランキングバトル一位の……?」


 ざわめき。

 動揺。


 だが、すぐに別の男が吐き捨てる。


「ビビるな。俺たちはもう学生じゃねぇ」

「卒業してから、ちゃんと鍛えてきたんだ」

「六人いりゃ、相手が誰でも――」


 その言葉を遮るように、夜継が一歩前へ出た。


「うん、分かった分かった」


 気の抜けた声。


「ここは僕に任せてよ。これは……九十九くんが出るほどの相手じゃない」


「は……?」


「これ、倒していいんだよね?」


「お前、俺たちを一人で倒そうってか!? 学生のくせに舐めた口効くじゃねぇか。やれるもんなら、やってみ――」


「おっけー」


 次の瞬間。


 夜継の姿が、消えた。


 ――いや、消えたように見えただけだ。


 空気が裂ける音。

 壁が震え、床に亀裂が走る。


「ぐっ――!?」


 一人目が吹き飛び、

 二人目が壁に叩きつけられ、

 三人目が声も出せず崩れ落ちる。


 魔法名すら聞こえない。


 純粋な速度と、力。


「な、なんだよ……」


「話が……違――」


 最後の男が言い終える前に、夜継は立っていた。


 全員が床に転がり、動かない。


「……はい、終わり」


 軽く手を払う夜継。


 廊下には、割れた壁と沈黙だけが残った。


「……強すぎだろ」


 京介が、素直に呟く。

 紗和と美鈴も、息を呑み、夜継から目を離せないでいる。


 驚くのも無理はない。

 いきなりのことで俺も気を抜いていたとはいえ、夜継の動きがほとんど視えなかった。


 もしかしたらコイツ――現役の冒険者の中でも、すでにB級以上の力を持ってるんじゃないか?

 

「九十九くんどうしたの? なんか嬉しそうだけど」


「……いや、なんでもない」


 思わず頬が緩んでしまった。

 ランキングバトルで勝ち続けた先に、こんな強敵と相見えることができると思ったらつい。


「そ? じゃっ、先進もっか」


 そのとき、紗和が一歩前に出た。


「この感じだと、戦いは白凪先輩で事足りてるみたいですし、私は外で結界を張ってもいいですか?」


 たしかに、今の一戦だけで二箇所の窓が割れ、壁も少しめり込んでしまっている。

 結界魔法があれば、内外問わず、衝撃から学校を護ることができるからな。


「……結界、張れるの?」


 興味深げに夜継が紗和に目をやる。


「はい。それが小鳥遊家の得意魔法なので」


 小鳥遊紗和。

 彼女の家系は、代々結界術が得意とされている。


 黒瀬の重力と同様、遺伝的に刻まれないと発動できないタイプの魔法だ。


「……へぇ。君、小鳥遊家の末裔なのか。重要人物や文化遺産を護るような任務には、昔から小鳥遊家なしには成り立たないと聞く。さすが、九十九くんの友達なだけあるね」


 頬を赤らめた紗和は、満更でもなさそうな笑みを浮かべている。


「コ、コホン……ッ。ということで私は、外から結界を張りますので。あ……もしよければ、誰か結界中の護衛をしてもらえると助かるんだけど……」


「京介、護衛を頼む」


 結界を施している間、術者は完全な無防備になってしまうからな。


「任せてください!」


 京介が紗和の後をついて行く。


 

 そして残ったのは、俺と夜継と美鈴。


「行こう」


 俺は言った。


「呼び出し場所は、二階。一年Bクラスの教室だ」


 廊下の奥、ほのかに灯る明かり。


 そこに――本命がいる。


 二階へ続く階段を上る。


 夜の校舎は静かすぎて、逆に落ち着かない。

 靴底が床を叩く音だけが、やけに大きく響いた。


「……Bクラスは、ここだね」


 廊下の突き当たり。

 明かりが一室だけ点いている。


 一年Bクラス。

 ここは風祭美鈴の教室だ。

 おそらく敵はわざとここを指定したんだろう。


 好意を持っている分、より気色が悪いな。


 扉は、半開きだった。


 中から、誰かの気配がする。

 だが緊張感は薄い。

 まるで――待っていたかのような空気。


 俺は一歩前に出て、扉を押した。


 ――ギィ。


 教室の中は、薄暗い。


 夕方の名残のような灯りが、天井からぼんやり落ちている。

 机と椅子が影を作り、黒板には何も書かれていない。


 そして――


 いた。


 教室中央の列。

 その真ん中付近。


 そこに、男が座っていた。


 足を組み、肘を机に置き、頬杖をついたまま。

 まるで自分の席のように、自然に。


「……あぁ」


 男が顔を上げる。


 背筋が、ぞわりとした。


 年齢は二十代半ば。

 長い金髪、鼻根にピアス。

 美鈴から聞いた通りの特徴だ。


「やっと来たか。風祭美鈴」


 視線が、ゆっくりと美鈴をなぞり、


「……君の席で、君が来るのを待ってたよ」


 粘つくような笑みを向けてきたのだった。

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