[はやボク] 1-4.爆弾娘《ソラ》
「はろはろっ! 私、ユン・ソラ。ソラって呼んでねっ」
「えっとあなたの名前はなんていうの? よろしくね」
「あなたのそのピアス、すごく素敵だね! それどこで買ったの?」
……いるよね、こういう子。
人懐っこくて誰とでも仲良くなれるふうで、実際は誰とも深く関わらない、皆んなと仲の良いフリをする、器用な人。
見たことあるよ、こういう子。正直ちょっと苦手。
「お! キミのそのメガネ、似合ってるじゃん」
「あ……うん。どうも」
存在を消そうとしてるボクにも、もれなく声をかけてくる。マメな子だな。
でも、あまり関わらないでおこう。
この手のタイプは表面的にはいい顔するけど、心の中では何て思われてるか分かったもんじゃないし、 仲良くなってもその場限りの安い関係にしかならないから。
もっとも誰かと深い関係になりたいわけじゃないし、誰とも関わりなんて持ちたくないけど。
「ほら、出席とるぞ。皆んな席に着けー」
HRを始めるために教室に入ってきた担任が適当な感じで皆んなに促す。託児所の先生、ご苦労様です。
担任の言葉に従ってか自主的にかは分からないけど、さっきまでワラワラと教室内を立ち歩いていた生徒たちがそれぞれの席に着き出した。
そして事もあろうか《例のあの子》がボクの隣の席に座った。
彼女――ソラって言ったか――
ユン・ソラ。
ちょっと変わった名前だな。綺麗な響きだけど留学生? なのかな。
うん、いや、でもこれは嫌なフラグが立ったらヤバいな。なんか、もう、波乱の予感しかない。とにかく話しかけないでくれオーラ全開で対処するか。
「ねぇねぇ」
早速《例のあの子》ソラが小声で話しかけてきた。いきなりATフィールド強引にこじ開けようとしてきたよ。
「キミ、ゲームとかやる人?」
「ま、まあ……たまにね」
ったく何でそんな話題振ってくるかな……
人と深く関わらない系じゃなかったのか、この子。ていうか、ゲームくらいやるに決まってるだろ。こちとらむしろゲームくらいしかやることないんだわ。ヒッキーなめんなよ。
「じゃあさ、今からゲーセン行こ! 私、格ゲーとかちょー得意なんだ!」
「え? い、今から!? えっと、授業……は?」
「んー、受けた方がいいのかもだけど、つまんないし、受ける意味なくない?」
……え、何この子。想像してたより、ずっと……ヤバい。残りの二年を平穏に過ごして学園からオサラバするために渋々登校して来たのに、なんて事を!
しかも、この手の子は教室にいるときだけ仲良くするフリして波風立てないでいい子と思われたいタイプだと思ってたのに、絡んできた挙句に授業バックレてゲーセン行こうって、どういうこと?
人を見る目にはちょっと自信があっただけに少々ヘコむ。これはハズしたか? いや、大ハズしか?
「はい、決まり! 行こ行こー!」
「あ、ちょ、ちょっと待っ……」
ソラはこっちの返事もろくに聞かずに、手をぐいっと引っ張ってきた。
「先生!私たちちょっと腹痛なんで保健室行ってきますね!」
元気そうにそう言い放ったソラはボクの手を掴んだまま教室を出る。
「おぅ、お大事にな」
え、先生、それでいいの? 二人で腹痛って不自然じゃね? 止めないの?
というか止めて差し上げて――。
……なんか、再登校初日から、とんでもない爆弾カードを引き当てた気がする。
これ、今後のボクの学園生活、大丈夫?
《はやボク》1-4までお読みくださりありがとうございます!
物語はここから急展開していく予定です。
よろしければブックマークをお願いします。
樹 修次