[はやボク] 1-1.再登校の理由
ここが私立・零命学園。創立から五十年を超える伝統ある名門校、らしい。
とはいえボク程度の人間でも入学出来るのは、多様な若者たちに平等な学習環境を提供するのが――
というのは建前で、結局のところ少子化の煽りで一定数の生徒を確保しないと経営が成り立たない、営利目的の私立高校。だからボクはこれといった取り柄もないけど、この学園に入学できたってわけ。
学園の名前はちょっと物騒な感じがしないでもないけど、名前とは裏腹にそんな普通の学校だから案外みんな普通。制服も普通。皆んな普通の顔して、普通の時間を過ごしてる。
飛び抜けて何かに優れてる生徒も居ないし、飛び抜けて悪さをする生徒も居ない。何もかもが標準的。 何もかもが普通。ほんと普通過ぎて吐き気を催すくらいだ。
そして、ボクがこの校門をくぐるのは、去年入学してから一年間に数回登校したぶり。つまり、丸一年不登校ヒッキーからの復帰第一歩ってやつだ。
最後に登校してから寮に戻ったときは二度と学園に足を踏み入れる気になるなんて思ってなかったけど、なぜか今日、またボクはこの学園の校舎にいる。
なぜだか自分でも分からない。そもそも登校するのが嫌になった理由もよく覚えてない。何となく行きたくなくなった程度の理由しかないのだろう。
ただ何となく、ずっと寮に引きこもってるわけにはいかない、このくだらない無限ループから解放されたい、そんな気だけは間違いなくある。
でも――
たぶん《世界》って、そういうふうにできてるんだと思う。
我ながら冷めてるな。