表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

13/17

[はやボク] 1-12.聞き覚えのある薬

挿絵(By みてみん)


「ボトリミン、ボトリミン……あった」


 なんとなく個人のプライベートの事をステアに聞くのは、あまりにステアが本物の人間みたいでルール違反な気がして、パソコン実習室で慣れないネット検索でソラが落とした薬を調べていた。


「歯ぎしりを抑える薬? 筋肉の緊張を和らげる? そういえば、歯医者にポスターが貼ってあったような…… なんだこれ……?」


「なんだァ兄弟、ひとりでお勉強かー?」

 廊下からボクに気づいたソラが声をかけてきた。

「ソラ……筋肉の緊張って、どういうこと?」


 もうこれ以上ソラに踏み込んではいけない。頭では分かっているのはずなのに、心にザラっとした不快な疑問を聞かずにはいられなかった。


「ああ、調べちゃった? ダメだぜ、乙女の秘密は秘密だからこそ魅力的なんじゃない?」

 ボクは卑怯者だ。ボクを不登校から更生させるためにI.W.A.N.に当てがわれたソラが怒らないのを知っていて、意図的に踏み込んでしまった。


「私ね、先天性脳筋繊維弛緩症候群って病気で……」

「せんて、のうきん、え?」

「アホか! 誰が脳筋じゃボケェ! 先天性脳筋繊維弛緩症候群!」


 すぅ~っと深呼吸すると、ソラは話を続けた。


「あの薬でね、症状を抑えてるんだけど、いつ脳が硬直してそのまま動かなくなるか分からない不治の病なんだって。昼間眠くなるのも薬の副作用」

「その発作が起きるのが今日かもしれないし、明日かもしれない、来年かもしれない」



 ……背筋が凍った。


 ひきつった苦笑いを隠せず、思わず口をついてしまった。

「そ、そんな……だって、いつも普通だったじゃん。ゲームしたり、スイーツ食べたり、ピアノ弾いた…… あ……」


 そこで気づいた。気づいたけど、それ以上は言葉にできなかった。


「だってさ、ピアニストなんて目指したら志半ばで挫折するかもしれないじゃん? そんなの楽しくないしさ。私さ、毎日楽しく生きたいんだよね」


 ソラは笑ってそう答えた。


 ソラが《志半ば》なんて、真面目な言葉を使うことに驚いた。いや、驚くべきはそこじゃない。

「で、でも、ソラのピアノは、ソラの演奏は……」


 ダメだ。

 それ以上はただの傲慢な押し付けでしかない。


「そんなことより、今日はカラオケ行こうぜっ。私の《ダンバインとぶ》、最高にイカしてるからさ!」


 いつもと変わらず明るく振る舞うソラが、これ以上なく痛々しく見えた。

 違う。痛いのはボクの方だ。だから人と関わるのは嫌だったのに……

「ボトリミン」という薬は実際にはそんざいしません。

モデルにしたのは「ボツリヌス菌」というもので、歯医者さんのポスターなので見たことがある人もいらっしゃるかもしれませんが、筋肉の動きを弱めて無意識な歯ぎしりを抑制して歯が異常に削れてしまうのを抑えるための治療に使われるものです。


今回のお話は、前々回にも増して衝撃的な内容を入れ込んでみましたが、いかがだったでしょうか。

今後の展開も面白いものになっていくと自負していますので、よかったらブクマよろしくお願いします。

 (いつき) 修次(しゅうじ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ