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第四話 夢か現かここはどこ?

ようやくアチラに行けました。

「山頂じゃないけど◯ーラうめぇ〜♪」


 登り始めて1時間半ほどの山の中腹で俺は登山道から少しだけ逸れた岩陰で休憩をしていた。


「いてててて、さすがに普段やりもしない登山を15年ぶりにやるって言うのは無謀だったかな?」


 気晴らしに登る山にはもってこいだと思っていたのに、いざ登り始めると途端に自分の身体の衰えを痛感する事になった、若い頃60キロしかなかった体重は15年の月日を経て88キロまで増えていた。


 それでも30を過ぎる頃に始めた筋トレのおかげか下っ腹以外は実年齢より若いと言われていた、しかしながら体重が増えた分、それを支える足腰には相当な負担がかかっていたらしく、ここ数年はひと月に1〜2回近所の整骨院で施術してもらっていたのだ。


「やっぱり急な思いつきで山登りなんて辞めときゃ良かったかなぁ〜、膝も痛いし腰も少し痛くなってきちゃったよ」


 今日は平日、ましてやもうすぐ午後14時こんな時間に登山しているのは俺だけだろう、それを証拠に登山口の手前にある駐車場には俺の車だけが止まっていた。

 まわりに誰もいないと思うと独り言も止まらなくなるのはおっさんだからなのか?それとも寂しさを紛らわすためなのか?きっと前者であると思いたい。


「これから歩き出して山頂までは早くても1時間はかかるもんな〜、登って降りてきたらとっくに暗くなっちゃってるじゃん」


 どうせ思いつきで山登りしようとしていたし、もう登るの辞めようかな?


 タオルで汗を拭いながらぼんやりとそんなふうに考えていると、急にあたりに霧がかかり出したのだ


「うわ、マジかよ霧じゃん」


 山の天気は変わりやすいっておじちゃんが言っていた事を思い出しながら、ジュースとタオルをバッグに戻して、俺は下山するために登山道に戻ろうと歩き始めた。


「あれ?どんどん霧が濃くなってないか?」


 先程まで数メートル先の登山道が見えていたのに、いつの間にか足元すらよく見えないほどに霧が濃さを増していたのだ。


「最悪だよ〜とことんろくな事ないわ」


 悪態を吐きながら手を振り回し少しでも霧を晴らそうとすると、妙な違和感に襲われた。


「あれ?登山道だよな?」


 本来ならば登山道を下に向かって歩いているはずの俺は、なぜか平坦な道を歩いている事に気がついたのだ。


「マジかよ、まさか遭難したんじゃねーよな?」


 それからもしばらくの間歩き回ったが、ついには体力の限界が来て俺はその場に座り込んでしまった。


 こんな事になるならさっきの場所で霧が晴れるのを待っていれば良かったと、後悔していた。


「・・・本当、何やってんだろうなぁ」


 そう呟いた途端、俺の頬を涙が伝っていった。


 何故かはわからないが懐かしい記憶を思い出していたのだ、子供の頃の家族旅行、決してうちは裕福じゃなかったし今思えば貧乏旅行だった。

 日曜も休みなく朝から晩まで働いていつもはボロボロのトラックに乗っている親父が旅行の時だけ立派な高級セダン車をレンタルしてくれて、あてもないのにただただ遠くまでドライブするのが凄くワクワクした。


 中学生の時、反抗期真っ只中だった俺は風邪をひいたにもかかわらず母親の忠告も無視して夜遊びをして、次の日には熱が39℃を上回るほどに悪化してしまいベッドの上で幻覚にうなされていた時に母親がずっと俺の手を握りながら看病してくれていたらしい、後日そんな事を兄弟から聞かされた俺はやっぱり恥ずかしくて感謝の言葉も伝えなかった。


 結局両親に孫の顔も見せてやらなかった


 人生は積み重ね


 今の俺に何もないのは、俺自身が何も積み重ねてこなかったからだ


 とっくに気がついていたのに、ギリギリになるまで気がつかないフリをしていた自分が悪いのだ


 何度となく訪れたチャンスをスルーしてきた自分への後悔の念から、いつの間にか鼻水を垂らしながら号泣していた。


「もう一度、もう一度だけチャンスをください!今度こそ俺頑張りますから!」


 泣きながらその場で土下座をして、誰を相手にするでもないみっともない命乞いだった。


 ・・・・ん?


 何か聞こえた様な気がする

 どこかあたたかいような、それでいて厳かな雰囲気を感じるような


 音に表せはしないが、それは確かに『声』だった。


 もしかしたら、登山客の誰かが近くを歩いているんじゃないかと顔を上げると・・・


 目の前には驚くほど高い木々が生い茂る森が広がっていた


「え?ここどこ?」


先程まで泣きじゃくっていたはずなのに、もう涙も鼻水も止まっていた。












これからはアチラの世界のお話になります

よろしくお願いします。

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