第十話 おっさんまだまだ若輩者です
暑さやわらぎませんね
冷たい麦茶片手に読んでもらえると幸せです
あれから少しして俺の服を持って来てくれたのは、これまたどえらい美人さんだった。
彼女の名前はナイームさんと言って、神官と呼ばれる人たちの補佐や、この村の子供達に読み書きなんかを教えているそうだ。
出来る人ってだけではない、なんとなくだが優しさと落ち着きを感じさせる口調で俺が小学生の時に担任だった先生のような雰囲気もあり、子供達にも人気があるんだろうなと妙に納得してしまった。
ルファムさんから俺の世話係的な仕事を頼まれたらしいのだが・・・
『へぇ〜、サイトーさんって不思議な方なんですねぇ〜、ルファム様から絶対に失礼のないようにって言われたから、ワタシてっきり厳しい感じのお爺ちゃんみたいな方だと思ってましたよ〜、こんなに普通のおじさまだったんですね、緊張して損しちゃいました』
あれ?なんだろう?
『服も私たちが着ている服とは全然違っているんですね〜、こんなに作りがしっかりしているのに、軽いんですね〜、こんなところに金具がついていて?・・・へぇ〜、ボタンで留めるんじゃないんですね〜』
むっちゃ喋るなこの子!俺が敬語とか必要ないって言った瞬間から、最初の落ち着き払った雰囲気はとうに消え、今じゃ息継ぐ暇なく喋りっぱなしだ、せっかく持って来た服なのに俺の手元に戻ることなくナイームさんの膝の上で踊っている。
おかげさまで俺はいまだにベッドから出ることもなく半裸のままだ。
「な、ナイームさん、そろそろ服を渡していただきたいんですけど〜良いですか?」
俺の言葉に『あらやだ、ワタシったら!?』とか漫画のようなセリフを口にしながら、ベッドのフチに腰掛けていたナイームさんは立ち上がり、おもむろに俺の体を隠している掛け布団を捲ろうとしてきた。
「いやっ!?ちょちょちょ、ちょっと何やってんすか!?」
布団を取られたら中年男のだらしない体が白日の元に晒されると思い、俺は咄嗟に布団を身に寄せた。
『ちょっと、サイトーさん離してくださいぃ〜、何してるんですか!?これじゃお着替え出来ないじゃないですか』
何言ってんだこの子は?
「ナイームさんこそ離してください!私もいい歳した大人なんで着替えなんて自分でやりますから!」
『それじゃあワタシが困るんです!?ルファム様からサイトーさんの身の回りの世話を任されたんですから、何かあったらワタシが叱られちゃうんです』
「いやいや、それこそ私が困りますよ!こんな若い女性におっさんの裸を見せるわけにはいきませんから」
グイグイ引っ張るナイームさん、この子細く見えるけど力強いんだな!一応20年以上肉体労働を生業にして来た男にこれだけ均衡出来る女子がいるなんて・・・
『だったら大丈夫ですよ!サイトーさんが寝ている間に服を脱がせたのも体を拭いたのも、みんな私と同世代の女子の医務官ですから』
え?
〝ばっさぁ〜〟
ナイームさんから不意に発せられた言葉に思わず手に込めた力が緩んでしまい、俺の防衛基地はあっさりと突破されてしまった。
「ひぃーーっ!?」
情けない声を上げながら両手で胸と股間を隠す42歳のおっさんと得意げな顔で剥ぎ取った布団を掲げながらコチラを見下ろす長身金髪エルフ・・・企画物ならアリかもしれないけど、現実じゃ地獄絵図だな
『さぁ、サイトーさん観念して着替えましょうね』
ニンマリ笑いながら胸を張るナイームさん、こうなればあとは大人の威厳でこのピンチを凌ぐしかない!
「ナイームさん、申し訳ないんだけど、もう遊びに付き合っていられないんだ、私ももう42歳のおっさんなんでね、さぁ、コチラに服を寄越して、君は部屋の外で待っていてくれるかな?」
出来るだけ低い声で、それでいてハッキリとした口調で話す俺、ベッドに横たわる中年のおっさんに出来る精一杯の大人の威厳を示せたはずだ。
『・・・・』
あれ?ナイームさん俯いちゃった?あれ?
二十歳かそこいらのお嬢さんにはちょっと厳しめに聞こえちゃったかな?え?え?マジで?これハラスメント的な感じになってないよね?え?
『プフゥ!?』
おや?
『アハッ!?アハハハハハハハ!?』
勢いよく顔を上げながら声高らかに笑い出すナイームさん、どうしてこの子は笑っているのだろう?俺はひとしきり笑うナイームさんにどうしていいか分からずただ見上げていた。
『あー、可笑しい、なんだ〜そうだったんですね〜』
ナイームさんがその大きな目から流れる涙を指ですくいながら俺の目の前まで歩いてくる。
そのままナイームさんは私の両肩に手を乗せて、綺麗な顔を近づけて来た、ルファムさんの時もそうだけど、この村の女性はみんなこんなに異性に近づくものなのか?
また情けない声が出そうになるのを必死に堪える俺にナイームさんが放った言葉は
『サイトーさん、ワタシは260歳ですよ!サイトーさんよりもずっとずっとお姉さんなんです、だから安心してお姉さんに任せてください』
「マジすか?」
そのまま俺は最後の砦である布を剥ぎ取られ、されるがままに服を着せられたのだった。
それからしばらく放心状態だった俺だが、いつのまにか部屋から退出していたナイームさんの
『サイトーさん、祝勝会の準備が出来たようなので会場にお連れしますね』
と言う声で無理やり気合を入れて部屋から退出した。
『さぁ、行きましょう』
そう言って俺に手を差し出すナイームさんの雰囲気は先ほどまでとは打って変わって出来る女感丸出しだった。
「いや、先導だけしてもらえればついて行きますよ」
今さっき全裸を見られたからか、正直めっちゃ恥ずかしい俺はナイームさんの顔を真っ直ぐ見れずに横を向きながら答えた。
〝ガシッ〟
え?
『もう〜またそんなこと言って、サイトーさんの方が歳下なんですからお姉さんの言うとおりにしてください』
クスクス笑うナイームさんに強引に手を引かれ歩き出す俺
42歳のおっさんのはずなのに、なぜか学生時代に戻ったように青春しているようだった。
いつも読んでいただいてありがとうございます。
これからも1人でも多くの方に読んでいただけたら幸せです。




