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幕間その3 大神樹の護人

無茶苦茶長くなってしまって収拾がつかなくなってしまいこんな長文になってしまいました。


もうすぐお盆休みなので、帰省中や旅行中にもしもお暇な時間があれば読んでいただけると幸せです。

もちろん暑くて外に出たくない時に読んでいただいても幸せです。

 夢を見ていた


 これは私がまだ子供の頃の夢だ


 幼い頃から神官長になるための教育を受けていた私には、同世代の友達がいなかった。


 当時の神官長だった母様からもらったクリオスのぬいぐるみだけが私の話し相手だった。


 そんな私の楽しみは勉強の合間の休憩時間に社宮の資料室で昔話の本を読むこと


 そしていつも隣にはクリオスの〈ラチェル〉と、私の教育係だった父様がいてくれた。

 父様の膝の上が私の特等席だった。


『ねぇーねぇー、父様ー、大神樹のモリには本当に妖精さんがいるのー?』


『ん〜?あぁ、ルファムは本当にこの本が好きだねぇ』


『ねぇー、本当にいるのー?』


 父様は私の頭を大きな手で撫でてくれた。


『やぁー、くすぐったいよー』


 私は父様の大きくてあたたかい手が大好きだった。


『ルファム、大神樹の森には不思議なチカラがたくさんあるって前に習ったよね?』


『うん、大神樹のモリはアルムナダ様が色々な姿にカタチを変えて、大神樹を守ってくれてるの』


『聖守アルムナダはね、大神樹だけを護ってくれているわけじゃないんだよ、それは時に精霊として、またある時はヒトの姿になったりしてルファムが安心して暮らせる様に、この村を見守ってくれているんだよ』


『えぇ〜!?アルムナダ様はヒトになれるの〜?』


『そうだよ、アルムナダはヒトに姿を変えることもできるんだよ、アルムナダはヒトの姿になることで大神樹の森を出ることができるって言われているんだ、ただその姿は僕やルファムとは少し違うらしいんだ』


『えー!?違うのー?』


『でもねルファム、ヒトの姿になってもアルムナダは凄く強いんだよ、もしも大きな飛竜が現れてルファムを食べようとしても、1発で倒しちゃうんだ』


『へぇ〜、アルムナダ様すごいね〜、母様よりすごいのかな〜?』


『ハハハ、どうだろうね〜、お母さんも同じくらい強いかもしれないよ』


『父様いっつもあやまってるもんね〜』


『こら、そんなこと言うもんじゃありません』


『なんでぇ〜?』


『な・ん・で・も、もし他のみんなの前で言いふらしたりしたら、どこかから飛竜が飛んできてルファムを食べてしまうかもしれないよ〜?』


『キャハハッ!その時はアルムナダ様にタスけてもらうからいいも〜ん♪』


『ルファム、良い子にしてないと聖人様はいざという時に助けてくれないぞ?』


『聖人?様?』


『アルムナダがヒトの姿になった時の呼び名さ、使徒様とか御使様とも呼ぶんだよ』


『聖人様、使徒様、御使様、聖人様、使徒様、御使様』


『偉いねぇルファム、もう覚えたのかい?』


『うん、父様や母様に怒られた時に聖人様にタスけてもらうんだ!』


『さっきも言っただろう?良い子の所にしか聖人様は助けに来てくれないって』


『ちぇー、けちんぼなんだー、ね、ラチェル!』


『ほら、そろそろ本を閉まって、お勉強を再開するよ』


『はーい、ねぇ?父様、今日は母様も一緒にご飯食べれるかな?』


『そうだねー、お母さん今日ルファムと一緒にご飯食べるんだって張り切っていたから、きっと一緒に食べれるよ』


『わーい!やったー!アタシ今日はソライモのシチューがいいー』


『それじゃあ、今からのお勉強頑張った子だけがソライモのシチューを食べられる様にしよう』


『父様も、けちんぼー』


『言ったなー、そう言うこと言っちゃう子は飛竜に食べられちゃうぞー!』


『キャハハハ、やだー、タスけて聖人様ーキャハハハ』







 ハッと目が覚めた


 窓に目をやるとカーテンの隙間からはまだ朝日がのぞいていなかった。


 なんだかとても懐かしい夢を観ていた気がする、ハッキリとは思い出せないが、とてもあたたかい夢だった。


 私は少しだけ背伸びをしてベッドの上に手を伸ばし、ところどころつぎはぎだらけのぬいぐるみを手に取った。


 小さな頃からいつも近くにあったぬいぐるみ、糸がほつれて穴が開くたびに母に頼んで縫ってもらったぬいぐるみ、ここ400年は自分で直しているぬいぐるみ


『おはよう、ラチェル』


 今も私の部屋の中での話相手だ



 リンセンツたちによる宣戦布告から20日が過ぎた、村では決戦に向けて着々と準備が進められていた。


 あの日村民たちに大鐘楼の前の広場で、ノマークたちが2度とこの村に帰らないこと、そしてひと月以内にリンセンツたちとの戦闘になることを説明して、いざという時の避難場所として大鐘楼の地下室に逃げ込む様にと説明した所、多くの村民から反対された。

 村民たちにもノマークたちの仇を討たせて欲しいとのことだった。

 せっかくの申し出ではあったが、村民の命を最優先に考えた時にその選択肢は無かった。

 皆渋々納得してくれたが、説得するのに骨が折れた。


 それからは毎日神官や衛士たちはいつにも増して激しい戦闘訓練を行い、神官たちは騎竜師団の名に恥じぬ地動竜クリオスを巧みに操る騎乗訓練と、騎乗時でも緻密に練り上げた神力で、遠く離れた的を貫くほどの集中力を見せていた。



 また衛士たちも日頃の訓練よりもより実践的なフォーメーションを組んでの戦闘訓練に励んでいた。

 衛士長のフォッゾは、元々は神官になれるほどの神気の使い手だったが、神官試験の直前に衛士隊入りを直訴し、それからと言うもの圧倒的な戦闘能力と統率力で、わずか80年で衛士長の座に着いた傑物である。


『いいぞ、お前らぁ!どんどん動きが良くなってるぞ!イグニシアの何某の奴らに我々の力を見せつけてやるぞ!』


『『『『『はいっ!!』』』』』


 額から流れる汗もそのままに、一心不乱に槍を振るう衛士たちの姿は鬼気迫るものがあった。


 神官長ルファムそんな衛士たちの声を聞きながら、村の秘宝でもある聖杖を持ち、村のあちこちで防御結界を張り巡らしていた。


 あの時リンセンツが使用した漆黒の魔石の脅威的なチカラ、無詠唱だったとはいえ歴代の神官長の中でも最高峰の防御結界を得意とするルファムの結界を突き抜け軽傷ではあったものの自身にキズを負わせるほどのチカラを目の当たりにして、ルファムは村全体を防御結界で守れる様にと、この結界を村中に張り巡らしていた。


『ふぅ〜、ここで最後ですね』


 最後の結界に聖杖を向け、神力を注ぎ終えたルファムは昔よりほんの少しだけ感じる様になった疲労感に、声を漏らした。


 そんなルファムは先ほどから背中に注がれる視線に振り返りながらその視線の持ち主に話しかけた。


『マルナ、イオ、そんなところに隠れてなにをしているんですか?』


 ルファムの声にビクッとしながら塀の陰から姿を現したのは、村で農家を営むエイリアの双子の子供、マルナとイオであった。


『どうしたのですか?先ほどからコッソリと私の後をついてきていた様ですが、私に何か用ですか?』


 完璧だと思っていた尾行が最初からバレていたことに2人はあたふたしていたが、双子の姉のマルナがおずおずと話し始めた。


『あ、あのね、ルファムさまはワルイヤツとたたかうの?』


 まさかの直球な質問に内心苦笑いしながら、ルファムは答えた。


『そうですよ、私はワルイヤツをやっつけるためにたたかいますよ』


 そんなルファムの答えを聞くや否や


『でも、ワルイヤツはつよいんでしょ?おとうさんがおかあさんと話してるの聞いたもん、ナイームせんせいはだいじょぶって言ってたけど、ワルイヤツつよいって聞いたもん』


 姉のマルナにイオも続いた。


『マルナもイオも、もしかして私がワルイヤツに負ける思っているんですか?』


 するとマルナもイオも頭をブンブンと横に振りながらルファムの質問に答えた。


『ちがうの、ルファムさまはこの村でイチバンつよいってしってるもん、ワルイヤツなんかに負けないのしってるもん!』

『フォッゾのおじちゃんやルシウムのおじちゃんより強いってしってるもん・・・だけど・・ヒック、ヒック、ルファム様をタスけなきゃって』


 ルファムは俯泣き出した2人の目の前で膝を折り、大切な聖杖を地面に置き、両の手でその小さな体をギュッと抱きしめた。


『マルナ、イオ、こんなにも優しく素敵な子たちに心配してもらえるなんて、私は本当に幸せ者ですね、安心してください、私は絶対にワルイヤツなんかに負けませんから』


 マルナとイオが泣き止むまでルファムは2人を抱きしめていた。

 そうして2人がルファムの胸の中で小さな寝息を立て始めた時、通りの向こうからマルナとイオの名前を呼びながらこちらに走ってくるエイリアと妻のカーミラが見えた。


『はぁ、はぁ、はぁ、ルファム様、申しワケありません、ウチの子供たちがご迷惑をおかけしてしまって』


 そう言って、すぐに頭を下げるカーミラ


『お、お前たち、し、し、しばらくは家の外では・・アソ・・ぶなって言いつけて・・・』


 息も絶え絶えに子供たちを叱ろうとするエイリアにルファムは微笑みながら


『エイリアさん、カーミラ、この子たちは私のことを心配して来てくれたのです、けして叱らないでやってください』


 そう言うと、眠る2人を抱き上げエイリアとカーミラのもとに返した。


 カーミラは何度も頭を下げ、イオを抱いて帰っていった。

 マルナを抱いたエイリアはカーミラの後を追わずにルファムに話しかけた。


『ルファム様、オレがまだガキンチョの頃、悪さばっかりしていて社宮にある大切な文献を勝手に持ち出したのオボえていますか?』


『ふふ、ええ、覚えていますよ、あの頃の貴方は本当に手のつけられない暴れん坊でしたからね』


 ルファムがクスクス笑いながらそう返すと、エイリアは恥ずかしそうに鼻を掻いた。


『あの時、親父とお袋にこっぴどくシカられて、家を追い出されそうになった時に、庇ってくれたのがルファム様とノマーク様だったんです』


『貴方が人一倍頑張り屋で、あの文献もお家で農業の勉強するために持ち出したことは私もノマークもわかっていましたからね』


『俺、本当に嬉しかったんです、あの時お2人が庇ってくれたおかげでイマの俺がいるんです、なのに俺はまだルファム様にもノマーク様にもなんの恩返しも出来ていないんです』


『それは違いますよ、貴方が立派に家業を継がれたのは貴方の努力があったからですよ、私たちはそのおかげで美味しい野菜やお肉を食べられるんですから、感謝するのはこちらの方です』


『ノマーク様親子や衛士の皆さん、そしてマリーダ商会の従業員さんの仇をうってやってください!

 そのためなら俺にデキルことならなんでも協力します!』


 少し前まで、手のかかる子供だったはずのエイリアが、いつの間にかこんなにも逞しい大人になっていたことにルファムは改めて誓った。


『エイリアさん、いえ、エイリア、本当にありがとうございます、貴方の家族、そしてこの村に生きるすべての民のためにも、私たちは命を賭してこの困難に立ち向かいます』


 泣きながら首を縦に振るエイリアの姿に、やはり親子は似るものなのだとルファムは笑った。


 それからすぐにエイリア親子と別れたルファムは社宮に戻るため歩いていると、大手門の方が騒がしくなっていた


 ルファムはすぐに大手門へと駆けつけた。

 するとそこにはすでに数人の衛士と神官が集まっていて、門の上部にある櫓にはルシウム副神官長の姿もあった。


 ルファムが来たことを知った衛士の1人が櫓から降りてきて、ルファムに報告した。


『おそれながらご報告させていただきます、ただいま門番の衛士からゴブリンと思われる一団が接近中との報告を受け、確認したところゴブリン30体ほどがこの村に接近していることを確認しました、ただいまフォッゾ衛士長と衛士たち、そして神官5人が門の外で防備体制をとっております』


 その報告を聞いたルファムはルシウムの登っている櫓に登りその巨人の姿を確認した。


『あれがマリーダが目撃したと言うゴブリンですか・・・』


『ルファム様、村の内部の防備はかためました。しかしマリーダからの報告よりも数が少ないですね?』


『もしかしたら別働隊による陽動の可能性もありますから注意しなければいけませんね、間違いなくリンセンツ魔石を使用した者たちだと思われます、しかし何故このタイミングで我々の前に姿を現したのでしょう?』



 ゴブリンの一団は大手門から40メートルほど手前の地点で足を止めた。

 そこはルファムが施した防御結界の範囲だった。

 ただのゴブリンであれば、防御結界に気が付かず侵入して体の自由を奪われて動けなくなるのが関の山だが、この結界の有効範囲を見極める能力を持ち合わせているらしい。


 衛士長であるフォッゾは白銀の槍を構えながら、目の前に対峙したゴブリンたちを観察した。

 中でも一際目立つのは自分の体よりも巨大な斧を引きずる様に持つゴブリンだった。

 通常ゴブリンは魔物と呼ばれる種族の中でも非力であると言われていて、このゴブリンが持つ巨斧などは到底持ち運べないのだ。

 他のゴブリンも身の丈に合わないサイズの丸太のような棍棒を引きずっていた。


 それを見たフォッゾ衛士長がポツリと呟く


『どうやら並のゴブリンではないらしい』


 衛士長の呟きに若い衛士がゴクリと唾を飲み込んだ


 ゴブリンたちの大きく見開いた目は黒く染まり、耳まで裂けた口からは凶暴に尖った牙が生え、口の端からはボトボトと流れ落ちるヨダレが見えた。


 フォッゾは構えていた槍の切先を、その一際大きな巨斧を持つゴブリンに向けた。


『ここは大神樹の村である!私は衛士長のフォッゾだ!お前たちがリンセンツの言っていたゴブリンたちか!?あいにくだが、お前たちをこの村の中へ入れるわけには行かなくてな!悪いがお引き取り願おう!それとも今ここで私たちに切り刻まれたいか?』


 それに続いて他の衛士と神官も槍や杖を今にも飛びかかって来そうな残りのゴブリンたちに向け臨戦体制をとった。


 すると先頭で巨斧を持つゴブリンが薄汚れた布袋の中から黒い魔石を取り出し、それを大きく口を開けて放り込んだ。


 その瞬間、フォッゾ衛士長は疾風の如き速さで飛び出し先頭のゴブリンに突きを放った。

 それと同時にルシウム副神官長も櫓の上から青白い光の矢を放っていた。


 〝バチィッ!?〟

 〝ガキンッ!?〟


『『なにっ!?』』


 2人の声が重なった。


 近接戦闘において、他国から猛者揃いと言われる大神樹の村で最強であるフォッゾ衛士長の一撃、そして神力の扱いに長け、前副神官長ノマークから直々に抜擢されたルシウム副神官長が放った

 《ライト・アロー》がゴブリンの胸を貫こうとした時、ゴブリンの振るった巨斧によって弾かれた。


『衛士長、結界の中に戻りなさい!』


 その声に気づいた衛士長がステップバックして防御結界の中戻るのと、ルファムが展開した攻撃魔法がゴブリンたちに雨あられの様に降り注いだのは同時だった。


 〝ズドドドドドドドドドドーーーーーーン!!!〟


 青白い光の奔流と立っているのがやっとと言うほどの地響きに結界の中にいてもその威力が伝わって来た。


 立ちこめる土埃と耳に残る残響音に、ルファムを除く神官や衛士たちは、改めてルファムの圧倒的な強さを思い知らされた。


 代々、大神樹の村に住むエルフたちは大神樹の森から流れ出るそのマナを取り込み、神力と呼ばれる魔法を使用して来た。

 キズを治し、身を守り、時には争いにも使われた。

 大神樹の村人たちは生まれ持ってのマナの容量が、他種族と比べても多いことで有名だが、現神官長ルファムのそれは比べものにならないのである。


 櫓の上で白銀に輝く聖杖を掲げ、凛と佇むルファムの姿に、いつも近くで見ているはずのルシウムですら見惚れるほどだった。


 徐々に視界が晴れて来て、次に見えたのは体中がボロボロになり倒れ伏すゴブリンたちと、あちこちが抉れた地面だった。


 勝利を確信した若い衛士が浮かれた様にフォッゾの隣で


『や、やりましたね!さすがはルファム様だ!ゴブリンなんて相手にもならませんね!』


 若い衛士のその一言で、皆緊張の糸が切れたのか一様に安堵の声をあげるなか、衛士長のフォッゾだけは厳しい表情のまま槍を構えていた。


『おかしい、今のルファム様の攻撃を受ければ飛龍ですら無事では済まないはず、それこそゴブリンどもの体などチリ1つ残すことなく消え去っていてもおかしくはない・・・』


 その言葉にはしゃいでいた若い衛士がハッと周りを見渡すと、フォッゾの言葉を裏打ちする様に櫓の上ではルファムが聖杖を構えたままだった。


『ゴ、ゴブリンたちが立ち上がるぞ!』


 急な誰かの叫び声にハッとした若い衛士が先ほどまで倒れていたゴブリンたちを見ると、身体中ボロボロだったはずのゴブリンたちが黒い煙の様なものを纏いながら立ち上がっていた。


『なんだあれは・・・!?』


 〝メリッ、メリメリメリ〟

 〝ギチギチギチギチッ!〟


 ゴブリンたちの体がみるみるうちに大きくなっていったのだ、貧弱だった体が隆起し、各国の種族の中でも長身で知られる自分たちよりも遥かに高い身長になり、体の厚みは5倍くらいは違うであろう、深緑の皮膚と筋肉に覆われた肉体に変化していった。

 そうして体から黒い煙の様な蒸気をあげながら姿形を変えた変異体たちは一斉に雄叫びをあげた


『『『『グォーーーー!』』』』


 大気が震えるほどの咆哮に足がすくむ衛士と神官、ただ1人誰よりも早く行動を起こしたのはフォッゾ衛士長だった。


『衛士、並びに神官は速やかに退避、そして村の防備を固めろ!』


 得体の知れない相手との戦闘を回避して守りに徹すると言う判断は衛士長としての勘と経験に基づいた指示だった。


 櫓の上でその様子を見ていたルシウムが隣に立つルファムに問いかけた。


『ルファム様、アレらはいったい何者なのでしょう?』


 するとルファムは目線をゴブリンたちから外さないま答えた。


『私にもわかりません、長年色々な種族と邂逅して来ましたが、あのようなゴブリンは初めて見ました、おそらく先ほどゴブリンたちが口にした魔石の影響だと思われます、そしてあの変異した姿がマリーダの報告にあった謎の巨人の正体なのでしょう』


『それでは奴らがノマーク様たちを・・・』


 ルシウムは悔しそうに奥歯を噛んだ。


『とにかく今は、衛士たちの身の安全が最優先です、すぐに門を開いて撤退をさせましょう』


 櫓の上ではルシウムが大手門を開けさせて、衛士や神官たちを撤退させるよう指示を出していた。


 そして大手門が開くと同時に、ルファムが変異体たちに拘束魔法をかけた。


『この地を汚すものたちを拘束せよ!《ライトニング・バインド》』


 唱えると同時にルファムの持つ聖杖から青白い閃光が放たれ、次々に変異体たちの体に巻きついていった。

 その光は変異体たちの体の自由を奪い、分厚い皮膚を焼いた。


 衛士や神官たちが無事に村の中へ退避していく中、フォッゾだけが槍をかまえ変異体たちを警戒しながら後ずさっていた。


 そしてもう少しで大手門の中に入ろうかと言うところで振り返ろうとした背中に予期せぬ声が聞こえて来た。


『ニゲルノガ?ヨワムジ』


 フォッゾは驚きに足を止め振り返った。

 そして声の発信源であろう場所には他の個体よりも凶悪な笑みを浮かべた巨斧の変異体の姿があった。


 フォッゾはもう一度槍を構えた


『今話したのはお前か?』


 すると巨斧の変異体がより一層の笑みを浮かべながら話し始めた。


『ゾウダトモ、ヨワムジノミミナガァ!?ゴノテイドデニゲダズドハナザゲナイモノダァ!?』


 そう言うと巨斧の変異体はルファムにかけられた拘束魔法を力任せに振り解いた。

 焼け爛れていたはずの拘束跡の上に肉が盛り上がり、まるで何事もなかったかのようだった。


『イヂゾグイヂノゼンシ、ゴノ〈グワラ〉ガワザワザデムイタドイウノニタダガイモセズニゲダズドハ、センジヅゴロシダミミナガドモノホウガヨボドハゴダエガアッダワ!?』


 フォッゾの頭にカァーッと血が昇る


『貴様が、ノマーク様やイルズたちを!』


 頭の中に失った部下の顔が浮かぶ、そしてフォッゾの持つ白銀の槍が青白い光に包まれる


 そしてまさに、この瞬間フォッゾが駆け出そうとした時、巨斧の変異体の左腕が黒く光った。


 〝ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーン〟


 村全体を揺らすほどの衝撃が襲って来たのはほぼ同じタイミングだった。


『まさかこれほどとは・・・』


 ルファムは固く閉ざされた門の中で驚愕していた。

 自身の扱える神力魔法の中で最も得意とする防御結界、村の至る所に重ねがけしたその結界の4割近くが壊れているのを感じていた。


 ルシウム副神官が間一髪のタイミングでフォッゾ衛士長を〈ライト・バインド〉で拘束し無理やり門の中に引き込まなければ、大変なことになっていただろう。


 衛士や神官たちが騒然とする中、門の外からは耳障りな声が聞こえて来た。


『ギャッギャッギャ!ヤハリニゲダガヨワムジメ!』


『グワラ!ツヨイ!ミミナガヨワイ!』


『モウスグゴノヂハワレワレノモノダ!』


『スミガヲウバワレダノダウバイガエシデヤル!』


 ぎゃあぎゃあと喚き立てる声の中で1番大きな声が響いた。


『イマスグニデモキザマラヲミナゴロジニシデヤリタイガ、アノチビトヤグソグガアルガラナ!ホゴリダガキゼンジハヤグゾクヲマモルノダ!アズノヨルフタダビキダトギゴソゴノムラゴトデニイレデヤル!タノジミニマッデイロ!』


 そう言うとゴブリンの変異体たちはグルリと身を翻し、足音を響かせながら村を離れていった。 


 櫓の上で監視していた神官が、変異体の姿が確認されなくなったことを報告した。


 それを聞いた皆が一様に暗い表情を浮かべる中、ルファムだけは、いつも通りの凛とした表情のままだった。


 〝パン、パン〟


『皆さん、どうしたのですか?そんな暗い顔をして、私たちは誰ひとりとして怪我することなく、敵を追い返したのですよ?もっと胸を張ってください』


 そんなルファムの言葉にルシウムが同調する


『そうだぞ!みんな、こうしてフォッゾ衛士長も無事だったんだから万々歳だ!』


 そう言うルシウムの足元には〈ライト・バインド〉で拘束されたフォッゾが転がっていた。

 顔お真っ赤にしたフォッゾがジタバタと暴れながら

『ルシウム!もういいだろう!?いい加減解いてくれ!』と懇願していた。


 それを見ていた神官の1人から笑い声が溢れると、瞬く間に連鎖していき、大手門前の広場は笑いに包まれた。


 それから衛士、神官が手分けして被害状況の確認と補強、ルファムは夜遅くまで防御結界の修繕に当たった。


 明け方近く、ルファムは不思議な夢を見ていた。


 大神樹の森の中、ルファムは聖守アルムナダと対峙していた。

 アルムナダはその時々で姿形を変えるが、今回はとてつもなく大きなヘビの姿をしていた。

 本来ならば年に一度の収穫祭でしか入ることを許されない大神樹の森の中で、まさかアルムナダ自身と顔を合わせる事が出来たことにルファムは興奮していた。

 現在、村がおかれた状況をアルムナダに伝えようとするのだが、うまく言葉が出てこない

 まるで口の前に壁があるかのように声が出せなかった。ルファムが必死に話そうとしていると頭の中に直接アルムナダの言葉が聞こえて来た。


【承知した】


 たったそれだけの言葉を残して、アルムナダは巨大な体をくねらせながら森の奥へと消えていった。


 ルファムが追いかけようとした時にはルファムの目の前に霧が現れて、いつのまにかルファムの意識は遠退き、気がつけば神官長室の椅子に座っていた。


 昨日遅くまで決戦の準備をしていて、いつのまにか寝てしまっていたらしい


『結局、夢の中でもアルムナダに頼ってしまいましたね・・・』


 これから村の存亡を賭けた戦いをするとは思えないほど静かな朝だった。


 昼前には大鐘楼の前に戦いの準備を終えた衛士と神官たちが勢揃いし、エイリアとカーミラ夫婦は社宮前で炊き出しを行い村人たちに振る舞っていた。


 そして昼の訪れを知らせる鐘の音が聞こえた頃、聖衣に身を包み、白銀の仮面を被り、聖杖を携えた大神樹の村の神官長ルファムが白銀の鎧を纏った副神官長ルシウム、衛士長フォッゾを従えて姿を現した。


 その場にいた全員が腰を落とし片膝を立て頭を下ろした。


 給仕をしていたエイリアたちや炊き出しに並んでいた村人たちも、神官長への敬意を表するように全員が同じく平伏していた。


 するとルファムは大きくはないがよく澄んだ声で話しはじめた。


『皆さん、オモテをあげてください』

 そうすると皆一斉にルファムに顔を向けた

 神々しい光を帯びたルファムの姿にその場にいた全員が感嘆の声を上げた。


『まずは件の襲撃以来、村の皆さんにはご心配ばかりかけていることを神官長としてお詫びします、本当にすみませんでした』


 そう言うとルファムは深々と頭を下げた。


『しかし、そのような心配も今日で終わりです、大神樹の護人の名の下に、この村に害をなす者たちを蹴散らし、必ずや皆が平穏に暮らせるようそして犠牲になった者たちの無念を晴らすため命を賭して戦います』


 涙を浮かべる者、興奮に震える者、皆それぞれの感情が見てとれた。


 ルファムは被っていた白銀の仮面を外した。


『勝ってみんなで祝杯をあげましょう』


 そしてにっこりと微笑んだ。


『『『『『『『ウオォオオーーー!』』』』』』』


 地鳴りのような歓声だった。


 空の色が赤く染まる頃、村の中では最終確認が行われていた。

 まずは向かって来た相手を6頭のクリオスに乗ったルシウム副神官を指揮官とした騎竜兵が迎え撃ち、遠距離からの攻撃で敵を分断、そこにフォッゾ衛士長率いる衛士隊が防御結界の中まで誘い込み、相手を疲弊させたところでルファムや他の神官たちで集中砲火し、最後に残りの衛士たちでとどめを刺す。


 被害を最小限に食い止め、上手くいけば向こうの主力であり好戦的な〈グワラ〉を倒して相手の戦意を削ぐことが出来るという考えからだった。


 敢えて村の中に人員を多く残したのは、いざという時、大鐘楼の地下から大神樹の森まで抜けることが出来る地下道を村人たちに逃げてもらう時の護衛のためだった。


 大手門前に整列し、陣形を整えあとはルファムの合図を待つだけとなったルシウムとフォッゾ、その2人の耳に櫓の上で監視中の衛士から連絡が入った。


『なに?妙な見た目をした何者かがコチラに向かい歩いて来ている?』


 その連絡を受けた2人はすぐに櫓の上に登り謎の訪問者の姿を確認した。


『なんだアイツは?』


『なんて格好だ』


 その妙な訪問者は見慣れない形の服と、腿のあたりが変に太く足首のあたりで細くなったパンツを履いていた。

 背には何か袋のようなものを背負い、先の丸まった靴を履いていた。


 そして何より顔つきが変わっていた、やたらと低い鼻、変にパッチリとした目、小さな耳に小さな口、その周りにはうっすらと髭が生えていた。


『ゴブリンか?いや、ドワーフか?』


『微かに探知に反応があるぞ、ただの旅人か?』


『バカな、街道は奴らに見張られているはず、たった1人でここまで辿り着けるはずないだろう』


『お、おい、待て、見てみろよ』


 衛士たちが急に現れた来訪者について考察していると、何かに気がついた別の衛士が話を遮り、皆の視線を誘導した。


『あ、アイツ結界に入って来てるぞ・・・』


『ウソだろ?この結界になんの抵抗もないのか?』


 その来訪者は、ルファムが施した防御結界の中にあまりにもあっさり侵入して来たのである。

 そしてそのまま大手門の前まで歩を進めると


「すみませーん、どなたかいらっしゃいませんかー?モリでマヨっちゃって家に帰れないんですー!」


 その言葉を聞いたフォッゾがざわつく衛士たちに向け


『至急、ルファム様に報告だ!』


 フォッゾの言葉に1人の衛士が櫓を駆け降りて行った。


 同じ頃、ルファムは大鐘楼の前で聖杖を掲げ神力を高めていた。

 これを行うことで神力の効果を高め、より強力な魔法を使うことが出来る、代々神官長にだけ受け継がれる秘術でもある。

 しかし今日のルファムは、その体の中に巡らせたマナに少しの違和感を感じていた。

(なんでしょう?いつもよりマナの蓄積量が多い?いや、大神樹の森から流れてくるマナの量が多く感じるのはなぜ?・・・あの不思議な夢を見たせいでしょうか?)


 なんだかソワソワするような熱くなるような、そんな不思議な感覚を覚えていた。



 そこにフォッゾの命を受けた衛士からの報告が入った。


『ご報告いたします、たった今、大神樹の森から来たと語る者が結界の中に入り、大手門の前に現れました!』


『この結界の中に?』


 ルファムが衛士に詳細を尋ねようとした時


『『『敵襲だぁーーーーっ!』』』


 ルファムは聖杖を手に駆け出した。


 大手門に到着し櫓に登ったルファムの目に飛び込んで来たのは、立ち上る土埃の中ゆうに200を超えるゴブリン変異体の大群だった。


『これが敵の本隊でしたか・・・ん?あれは?』


 想定を超える敵の数に思案するルファムが視線を落とすと奇妙な姿をした人物が立っていた。


 後ろからフォッゾが説明した。


『アイツが先ほどの報告させた大神樹の森から来たと言っている者です、ですが得心がいかず敵の先遣隊ではないかとの情報もあります・・・ルファム様?』



 ルファムの視線はその謎の人物に釘付けになっていた。


『あの方は大神樹の森からやって来たと言ったのですね?』


『はい!そのように話していました』


 この村の窮地に大神樹の森からやって来たと言う自分たちとは違う人物、そして何よりも驚かされたのがその体を覆う純白のマナだった。


『なんと言うマナの純度・・・』


 その人物から流れ出るマナの量は少ないものの、その質はあまりにも自然すぎて、ルファムの防御結界内にまるで溶け込むように混ざり合っていた。

 普通ならマナを体内に取り込むと少なからずマナに濁りが生じるものなのだ、大神樹の村に住むエルフであれば体内で神力に返還させる時に青白い光となりる、しかしこの人物の纏うマナは限りなく透明に近い白、その結果なんの影響も受ける事なく結界内で動けているのだろう。


(なんと綺麗なマナなのでしょう)


 今まで自分が経験したことのない美しいマナの流れに、ルファムはここが戦場であることを忘れるほど見入ってしまった。


 しかしそんな時間も長くは続かなかった、敵の軍勢の中から一体の変異体が単独でコチラに向かって歩いて来たのだ。


 他の変異体よりもひときわ大きな体格、そして手には巨大な斧を持っている、間違いなく変異体のリーダー格である〈グワラ〉だった。

 グワラは昨日見た時よりも一回り大きくなっていた。

 そして昨日とは打って変わり、結界の中に悠然と侵入し、謎の訪問者と対峙したのだった。


『何っ!ヤツめ結界内に入ってきたか!?』


『やはりゴブリンどもを手引するための先遣隊でしたか!?ルファム様、ただちに出撃の命をお達しください!』


『2人とも落ち着きなさい』


 フォッゾとルシウムが興奮気味に話す中、ルファムだけは冷静にことの成り行きを見守っていた。

 グワラから放たれる殺気に、明らかに腰が引けている謎の人物、はたからは怯えているようにしか見えないのだが、その体から流れ出るマナの量がどんどん増えているのだった。

(ああ、なんと神々しい)

 その量と質は、離れて見ているはずのルファムですらたじろいでしまいそうなほどだった。


『なんだこのマナは、つ、強すぎる』


 フォッゾやルシウムたちですら受け切れないほどのマナが流れ込んでくる。


『ルファム様、このチカラは一体』


『聖人様です』


『『!?』』


『この村の危機を救うために聖守アルムナダが姿を変えて我々の前に現れてくれたのです!』


『は、はぁ』


 目を輝かせ、頬を赤らめながら嬉々として喋り出したルファムの顔は普段の清楚で凛とした表情からは考えられないほどで、まるで少女の様だった。


 そんな神官長の様子にフォッゾやルシウム、その他の衛士たちも皆唖然としていた。


 自分たちが幼い頃から神官長として皆を導き続け、尊敬され敬愛されてきたルファムの口からそんなお伽話のようなことを聞かされるとは思っていなかった。


『あっ!?』


 そんなルファムの気の抜けたような声が聞こえたと同時に白い閃光が走った。


 〝バチィィィィィーーーーーンッ!!!〟


 ビリビリビリビリビリィッ


 何か大きなものが弾けるような音の後に凄まじい衝撃波が大手門と櫓を揺らした。


 思わず目を瞑り身を屈めてしまったフォッゾたちが、閃光の発生場所に目を移すとそこには腕を頭の上で交差し佇むあの謎の訪問者の姿だけがあった。


 ルシウムが慌てて、ルファムに尋ねた


『い、今の光は一体なんだったのですか!?』


 ルファムは目を見開き、空を指さした。


『あ、あれを見てください・・・』


 ルシウムたちがルファムの指差す方向を見るとそこには、さっきまで地上にいたはずのグワラが回転しながら空高く舞い上がっているのが見えた。


『グワラが聖人様にあの恐ろしい巨斧を振り下ろした瞬間に、信じられない量のマナが噴き出しグワラを弾き飛ばしたのを私はハッキリと見ました・・・あぁ、なんと言う美しい輝きなのでしょう』


 自分たちが崇拝に近い感情を抱いていたルファムの変貌ぶりに、ルシウムたちは呆然と頷くことしかできなかった。


 天高く打ち上げられたグワラの体がきりもみしながら変異体の群れの奥に落下していくのを見届けたルファムは、今までに見たことのないほど喜色に満ちた顔でルシウムたちに振り返った。


『さぁ、皆さん、今こそ好機!聖人様、御使様、使徒様が我々にはついています!今こそ蛮族を蹴散らすのです!大神樹の祝福と聖守アルムナダの加護があれば、私たちには勝利が確約されたようなもの!今すぐ開門の上、全身全霊を込めて突撃するのです!』


『『『『『はっ!』』』』』


 その言葉にルシウム、フォッゾは櫓から飛び降り

 各部隊の指揮を取り突撃準備に入った。


 それを確認したルファムは全身に巡らせたマナを神力に変え、聖杖に注ぎ込んだ。


『ホーリーライト・ストレングス!』


 ルファムがそう唱えると、優しくあたたかい光が降り注ぎ、騎竜兵団と衛士隊を包み込んだ。

 この魔法はルファムの持つ神力のほとんどを分け与え、与えられた者の能力わ底上げすることが出来ると言う、代々の神官長に受け継がれてきた技である。


『これはルファム様の秘術!』


『体からチカラが溢れ出してくる!』


『行ける!行けるぞ!今なら何者にも負ける気がしない!』



 興奮しつつもしっかりと隊列を保ち今か今かと前のめりになる神官と衛士たち、そこにルファムからの勅命が下った


『勇敢な大神樹の民よ!我々には聖守アルムナダの加護が付いています!今こそ悪しき狂気の族どもを打ち払うのです!』


 大手門が開くと同時に烈火の如く突撃していく大神樹の護人たち、その波の先頭を走る白光の使徒、ルファムは肩で息をしながらその光景に涙を浮かべ歓喜していた。


『嗚呼、聖人様が我々を導いてくださっています・・・父様、母様、あのお話は本当でした』


 飛竜を一撃で倒すと言うのも頷けるほどに体格差をものともせず、おもしろいように変異体たちを蹴散らしていくその姿に心が躍った。

 ルファムからチカラを分け与えられた騎竜兵団と衛士隊も存分に活躍し、みるみるうちに敵の数を減らしていった。


 あまりにも一方的な戦況に、門の中からも大歓声が起こっていた。


 そうこうしているうちに最後の変異体が倒され

 フォッゾが勝利の報告のために村の中に駆け込んできた。


『御使い様のお導きとルファム様の加護により、見事蛮族の討伐を果たしました!』


『『『『『『『ウォオオーーーッ!』』』』』』』


 皆が喜びを分かち合い歓喜の声をあげている

 よく見ると村人たちまで神官や衛士たちと抱き合っていた。


 ふと見た先で、村人避難誘導の責任者ナイームがこちらに笑顔で手を振っているのが見えた。

 ルファムは少しだけ責めるような目線を送った。


『まったく、貴女と言う人は・・・』


 イタズラがバレた子供のようにこちらの顔色を窺いながら近づいてくるナイームに、ルファムが手を振り返そうとしたその時


 ゾクッ!?


 ルファムは背後から凄まじい殺気に満ちたドロドロとしたマナの流れを感じたのだ。


 振り返ると遠くに片腕を失い、満身創痍の状態でコチラに左腕を突き出すグワラの姿が見えた。

 探知阻害など関係ないとばかりにただただ怨嗟の塊のようなマナがグワラの手のひらに集約されていた


『いけませんっ!?』


 ルファムが駆け出そうと一歩踏み出そうとすると、膝から崩れ落ちてしまった。


『ルファム様っ!?』


 フォッゾが駆け寄りルファムの肩を支えた

 ルファムは神力を限界まで使用したことで、自分の許容量以上のチカラを放出していたのだ


(なんと情けないこんな時こそ私が皆を護らなければいけないのに・・・)

 悔しさと自分の不甲斐なさに涙が地面に落ちようとした瞬間


『ルファム様、あ、あれを』


 肩を支えてくれているフォッゾの声に泣き顔のまま顔を上げたルファム、涙で歪む視界が捉えたのは、グワラから放たれた巨大な黒い光の射線を遮るように立ちはだかる小さな背中だった。


 巨大な闇に飲み込まれそうになりながらも、一層に強さを増す白き光を見て再びこぼれ落ちる涙を拭うことなくルファムが声を振り絞った。


『皆さんっ!?聖人様に持てるチカラの全てを託すのです!そしてこの村の、大神樹の護人の役目を果たすのですっ!』


 すでに余力のないはずのルファムの気丈な姿に鼓舞された神官たちが、残り少ないチカラの全てをその背中に注いだ。


 黒い光に押されていたはずの白い光が大きく揺らぎ始め、その揺らぎはいつしか炎のように立ち昇り始め、遂にはそこにいた全員が息を呑むほどの莫大なマナが黒き光を飲み込んでいった。


 そしてその時はきた。


『俺は○☆$#〆♪%々〒だぁーーーッ!』


 〝ズッゴォオオオオオオーーーーン〟


 突然の咆哮とも詠唱も取れない叫び声と共にあたり一面が真っ白な光に照らされた。






 夢を見ていた



 これはまだ父様と母様が生きていた頃の夢だ


 いつもは私が眠っている時間に帰宅する母様が、父様と一緒に夕食の準備をしている


『父様、母様、アタシねぇ〜大きくなったらアルムナダ様のおヨメさんになるの!』


 私の大好物のシチューの味見をしていた父様が盛大に咽せた。


『ゲッホ、ゲッホ、ゲホ、ルファム、突然どうしたんだい?』


 父様の背中をさすりながら母様が笑っている


『アッハッハッハッハ、アナタとんでもないライバルが現れたわね〜、あ〜おもしろい』


 そう言って母様は片手に持ったぶどう酒の入ったグラスをグイッと飲み干した。

 母様の言った言葉の意味を知らなかった私は首を傾け聞き返した。


『ライバル?』


『そうよルファム、お父さんはね、アナタが前に大きくなったら父様と結婚する〜って言ったものだからその気になって大好きだったタバコもお酒もやめて長生きするんだ〜って言ってそれからずーっとどちらも我慢してるのよ、それなのにアナタがアルムナダと結婚するなんて言うものだからお父さんはアルムナダを倒さなきゃならなくなったのよ〜♪』


『ちょっ、ちょっと、何をおかしなことを言ってるんだい?ぼ、僕はそんなつもりでやめたわけじゃないよ!?ルファムが大きくなって結婚する時まで健康でいられるようにと思ってやっているんだよ』


『あら〜、そうだったかしら?』


『そ、そうだよ、君も僕を見習ってお酒やめた方がいいんじゃない?かわいい娘の晴れ姿を見れなくなっちゃうよ?』


 母様の目がスッと細くなる、村一番の美人と呼ばれる母様が怒った時の合図だった。


『何よ?それはどう言う意味?私はルファムの花嫁姿を見る前に死んじゃうって言いたいの?』


『あ〜あ、母様怒っちゃった父様イケナイんだ〜』


『え?え?ちょと待ってよ、僕が悪いの?先に変なこと言ってきたのは君じゃなかったか・・な?』


『もう良い、知らない!今日の夜ご飯は私とルファムで食べるから、アナタは晩ごはん無し!』


『そりゃないよ、今のはお互い様だったはずだって、な、なぁルファム〜、今のはセーフだよねぇ?』


『アタシが父様のブンもシチューおかわりしてあげるからね〜』


『そうねルファム、い〜ぱい食べようね〜』


『悪かった、悪かったよ、謝るからそんなこと言わないで3人で一緒に食べようよ、ね?』


『しょうがないわね、反省してるなら食べさせてあげるわ』


『・・・僕がほとんど作ったのに』


『何?何か文句あるの?』


『い、いやぁ、何でもないって!?ほら、お皿用意しなきゃね』


『キャハハハハッ、やっぱり母様は父様よりも強いんだ〜、父様、聖人様にタスけてもらうの〜?』


『ん?ルファム、なんの話?』


『ルファムが好きな本に出てくるお伽話だよ、ル、ルファム、お皿並べるの手伝って!?』


『キャハハハハ、ハーーーイ』



 結局、父様と母様に晴れ姿を見せることは出来なかったな・・・


 でも、私は見れたんだあの美しい光を

 お伽話なんかじゃなかった

 私たちに迫る脅威から救ってくれた


 あの・・・



 ハッと目が覚めた。


 体を起こそうとするがやけに体が重く、頭もボーッとしていた。

 どうやら私は気を失って自室に運び込まれていたらしい、その証拠に枕元には幼い頃からずっと一緒にいるつぎはぎだらけのぬいぐるみが置いてあった。


 そして


『・・・スー、スー、スー』


 ベッドの脇には椅子に座り舟を漕ぐナイームの姿があった。

 きっと彼女が寝ずに看病してくれていたに違いない、少しおっちょこちょいな所はあるけど、明るく優しく、面倒見の良い、優秀な


『んー、ルファムさま〜、ワタシのドンドナ食べないでくださいよ〜、スー、スー』


 私の友だちかもしれない


 しばらくナイームの寝顔を眺めていたかったが、私にはどうしても優先的に確認したいことがあった。


『ナイーム、ナイーム、おきてくださいナイーム』


 急に声をかけられたナイームが椅子から滑り落ちそうになりあたふたしながら目を覚ました。


『ル、ル、ル、ルファム様ぁ!?お目覚めになられたんですね、良かったぁ、ワタシ心配したんですよ!もしかしたらルファム様ずっと眠ったまま起きないんじゃないかって!もう、あんな無茶するからこんなことになるんですよ!だいたい』


 ナイームは素直な良い子ではあるが、少し頑固なところもあるのだ


『心配をかけてすみませんでした、心から反省しています』


 ナイームの話を遮るように反省の弁を述べると、ナイームが私の手を取り、両手で胸の中に抱え込んだ。


『ルファム様がご無事でなによりでした』


 ナイームが眩しいほどの笑顔を見せてくれた。


『それよりもナイーム、聖人様は?聖人様はどうされましたか?』


『聖人様?』


 可愛く首を傾げるナイーム


『私を、いえ、私たちを悪鬼の大群から救ってくれた救世主様ですよ!?』


『あぁ、あの方ですか?あの方ならルシウム様の命で医務宮の特別室に運ばれたはずですよ』


 私はパッとベッドから飛び起きた。

 すぐに姿見の前に行き身なりを整える、汚れてボロボロだったはずなのに、いつのまにか体を綺麗に拭かれて寝間着に着替えさせられていたのには少しだけ驚いたが、そんなことはどうでも良かった。

 すぐにクローゼットからそれなりにの上着を取り出して、寝間着の上から羽織った。


『ルファム様どうしたんですか?そんなに慌てて』


 どうもこうもなかった私は呑気にそんなことを言うナイームにこう告げた。


『ナイーム、今すぐ医務宮に向かいますよ!』


 ええっ!?と驚くナイームを引き連れて部屋を出る私の目にくたびれたぬいぐるみの姿が映る

 私は小さく呟いた

『行ってきます』


 私の親友は無言で見送ってくれた。





























































































次からはようやく本編?の続きを書いていこうと思います。

幕間で引っ張りすぎた分、サクサク進められるように頑張りたいと思います。


色んな人に読んでもらえたら幸せです。

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