表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/47

第5話 ボス戦?お邪魔しました…

「さて、ボス戦と行きますか。華怜さんはこの扉の前で待っていて。ボス戦は一人で挑むよ」


「ダメですっ。回復は、いざという時に使ってください。カナタさんは、心置きなく戦闘に集中して、回復は私に任せてください。」


 回復魔法も覚えたし、危険を共にするのは避けさせたいんだけどね。

 正直なところ、華怜さんの的確なサポートがあると、回復のタイミングを自分一人で計らなくても済むのは、とても心強い。


 ボス扉の前の広場には、所々だけに咲く花々が未完成な花畑を形作っていた。

 そして、俺は視線をボス扉に向け、深く呼吸を一つついた。

 冷たい金属に指先を触れると、その冷たさが戦いの予感のように指先へと伝わった。横では華怜が、戦況を見据えた静かな表情で回復魔法の準備を整える。


 扉を開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、戦場の混沌そのものだった。複数の冒険者たちが、傷だらけの姿で必死に戦闘を続けている。剣を振るう者、魔法を放つ者、それぞれが限界を超えた動きで敵に立ち向かっていた。地面には砕けた武器や血の跡が散らばり、空気には緊張感と焦燥が渦巻いている。その中で、ひときわ大きな咆哮が響き渡り、ボスの圧倒的な存在感が場を支配していた。


「えっ?この状況はどうなっているんだ?」


 ボス戦の扉は、一つのパーティーが進入すると、原則として他のパーティーは入れない仕組みになっている。つまり、誰かが助けを求めたか、あるいは別の理由により、進入が許可されている状況ということか?


 だが、混沌の奥から一際切実な声が届いた――


「助けて…お願いです!」


 その声は、ただの絶望ではなく、必死に命を繋ごうとする意志そのものだった。周囲では、仲間たちが血と傷にまみれ、互いに救い合おうとするも、連携は乱れ、崩れかけた陣形が次々に崩壊している。鋭い剣の閃きが途絶え、防御の盾さえも砕かれる中、彼らは己の限界に挑んでいた。戦況は一見、敗走を免れているものの、その背後には時間と己の力の限界による焦燥感が漂っていた。


「華怜さん!行くぞ!」

 怒り狂うミノタウロスに対峙するように、剣を抜き前に出た。

 それを見た華怜さんは反応し、パーティーの元へ駆けて行く。


「すまない。時間を稼いでくれ」

 と男が声を掛けて来た。

 激しい戦闘で、白髪交じりのオールバックの髪は乱れているが、この中でも落ち着いた風格を持ち、冷静な声で後ろにいる少女たちを気遣うようにしていた。


 荒れ狂うミノタウロスは、大きな斧を高々と掲げ、空気を切り裂くかのような轟音と共に、一撃必殺の威力を誇示するかのように、俺に向かって薙ぎ払ってきた。


 だが、俺は動揺することなく、ミノタウロスの動きを冷静に見極めた。

 その巨体が振り下ろす斧は、地面を砕くほどの威力を秘めていたが、俺の剣はその隙を正確に捉えた。

 刹那のうちに放った一撃が、ミノタウロスの胸元を貫くと、巨体が一瞬硬直し、次の瞬間、地響きを立てて崩れ落ちた。

 ミノタウロスの屍から、光を放ちながら一つのアイテムが落ちていく。

 華怜さんに目を向けると、赤いローブの女性のそばに寄り添いながら治療を施していた。その視線がこちらに向けられ、柔らかな微笑みが浮かんだ。

 その場にいた冒険者たちが、驚きと安堵の入り混じった表情でこちらを見つめているのが視界の端に映る。


「す、すごい。」

「ええ、本当に……」

 ダンジョンの隅で、年の頃は高校生ぐらいの男装した少女が声を漏らす。戦いの疲れと、どこか芯に秘めた熱意が、彼女の眼差しにうかがえる。

 その子に寄り添う、艶やかな赤いローブをまとった二十歳くらいの女性。彼女は、そっと少女を気遣うように頷きながら 、静かに応じた。


「あ、ありがとうございます。あっあのボクのことを覚えていますか?」

 少女は、勢いよく俺のもとへ駆け寄り、両手でしっかりと俺の手を握りしめ、お礼と共に尋ねて来た。


 ボクっ子だ。男の子として接した方がいいのかな?

 と、それより覚えていますかって、なんのことかな?


「ご主人様、お礼ならわたくしも……」

 そういうと、赤いローブの女性が俺の手を取り、またもお礼を口にしてきた。

「あの?覚えていませんか?」

 彼女も少女と同じことを聞いてきた。


 う~む。あっ!昨日、柄の悪い連中に絡まれていた人たちだ。


「ええ、思い出しました。覚えていますよ」


 彼女たちは、ほっと安心したような表情を浮かべた。


「それなら、わたくしめも……」

 白髪交じりのオールバックの紳士までもが、俺の手を取り――

 その瞬間、ミノタウロスを一撃で屠ったときよりも早く、俺は身を引いた。


「さっ、さすが身のこなし……」

 白髪交じりの紳士は、こほんと一息ついて姿勢を正すと、深々と頭を下げた。

「本当にありがとうございました。助かりました。」


 彼は、俺の視線を受け止めるように顔を上げると、穏やかな声で続けた。


「私は佐々木慎吾。そしてこちらが、私が仕える主人の京極あおい様です。」


 紹介を受けたあおいちゃんは一歩前に出て小さく頭を下た。続けて、赤いローブの女性も嵯峨あかねと名乗った。


 そのタイミングで、華怜さんが俺の両手を勢いよく握りしめる。

「カナタさん!本当にすごい!」


 ほめ倒した後、彼らに向き直り、得意げに言い放った。

「こちらは、カナタさんです。本当にすごい人ですよ!私はカナタさんの専属受付嬢の久遠華怜と申します」


 いつの間に俺の専属受付嬢になったんだ?両手を握りしめてきたのもそうだが、まさか執事の慎吾さんに対抗しているのか……?

 両手を握りしめる時に、同時にモンスターが落としたアイテムも渡してきた。さっそく専属受付嬢のお仕事?(疑問符)もしているね。

「アイテムの鑑定も済ませておきました。」さすが、専属受付嬢の仕事ぶりは抜かりない。「外れアイテムで、使用すると自分のスキルを封印してしまいます」

 いや、専属受付嬢としての鑑定が悪い訳ではないんだけどね。

 このアイテム自体を封印だね。


「はぁ受付嬢だぁ?」

 その瞬間、場の空気を壊すように、いかにもゴロツキ然とした3人衆の一人が声を上げた。お嬢様3人と共にしていた彼らは、こちらを見下すような視線を投げかけてくる。


 こんな奴らとパーティーを組んでいたの?いかにも訳ありって感じだな。


 3人衆の一人がニヤリと笑いながら、こちらに一歩近づいてきた。その態度には、明らかに挑発の意図が込められている。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ