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第4話 しゅ・く・ふくぅ!ですって

「こっ…こたつの祝福です」


 嘘だろお前といった目を、取り繕ったように言い直した華怜さんに向ける。


「え~っと。猫巫女のしゅ・く・ふくぅ」


 ごまかしなのか、突然、大きな声で叫んだ。

 どこからともなく透明な鈴の音「しゃらんしゃらん」と響き渡る。


「「えっ?」」

 二人の驚きの声が重なった。


 目の前には、巫女服をまとった三毛猫が、神楽鈴を手にして静かに佇んでいた。

 猫は柔らかく「にゃ~」と鳴く。

 まるで日差しに包まれたかのような温かな光が体中に広がった。


「あ~っ、これ、こたつだわ」

 その温もりに、俺は無意識に「癒される~」と口走る。


「ふふふっ。驚きましたか?猫巫女のイメージに合わせて三毛猫 にしたのです」


 驚いたところ、そこじゃないけどね。

 俺に習得させる魔法を、結局、自分で発動させたよね。


「結局、猫巫女の祝福ですか?」


「こっ…こたつの祝福です。けっ…けっして 、作成途中で夢中になってこたつを忘れたわけではありません。忘れようがありません!」


「でも、癒しの温かさはこたつでしたよ」

 しかも、癒しの効果で、こたつ猫のことをうやむやにしてもいい気分だしね。

 すごいよ。猫巫女の祝福。


「そうですよね。決して偶然、こたつのような暖かさが実現されたわけではありません」


 ――あっ偶然だったんだ。

 彼女の自信なさげな、どや顔の態度がそのことをよく表している。


「この魔法、ぜひ覚えたいです。教えてください。華怜先生」


 華怜さんはにこっ、と微笑むと、

「では、猫巫女のしゅ・く・ふくぅと、叫んでみてください」


 少しためらいながらも、力を込めて口にした。

「猫巫女の祝福!」


 その瞬間、どこからともなく「しゃらんしゃらん」と鈴の音が響き、俺の体中に温かなこたつの温もりがじわじわと広がるのを感じた。


「……違います。『猫巫女のしゅ・く・ふくぅ』です」


 ――「しゃらんしゃらん」


「えっ? 『猫巫女の祝福』でいいじゃないですか」


 ――「しゃらんしゃらん」


「しゅ・く・ふくぅです。そうでないと、この魔法発動しません」


 ――「しゃらんしゃらん」


「祝福!」


 ――「しゃらんしゃらん」


「ええい。お前ら、いい加減にするのにゃ!」


 ――「しゃらんしゃらん」


 驚いて足元を見ると、俺と華怜さんの間に巫女服をまとった三毛猫がこちらに向かって強い眼差しで睨みながら大声をあげていた。


「猫さん……最後のタイミングで「しゃらんしゃらん」は、必要ないのでは?」


 つっこみどころは、そこですか華怜さん……。


「お前らが一言一言魔法を発動させるせいで、小町がしゃべるだけで魔法が発動してしまったのにゃ」


 ――「しゃらんしゃらん」


 律儀に答える。猫巫女の小町ちゃん。

 名前あったのね。猫に名前付けるの苦手だったから良かったわ。華怜さんが付けたのかな?でも、猫さんって呼んでいたよね。


「ダメですっ。『猫巫女のしゅ・く・ふくぅ』でないと、魔法は発動禁止です」


 ――「しゃらんしゃらん」

 魔法は何度も発動し、その度に鈴の音がも鳴り響いていた。


「その音、神楽鈴から鳴っているのだから手で振るのをやめたら?」


 ――「しゃらんしゃらん」


 ……今のでも発動するの?


「カナタは、熟練度上げるのが早すぎなのにゃ」


 ――「しゃらんしゃらん」


 一回力を込めて叫んだだけなのに……。

 それにしても、見た目も完全に猫なのに、よく器用に鈴を振ってるね。

 んっ?器用に振っている?


「はい、お手」


「にゃあ~」

 小町ちゃんが、ゴロゴロと喉を鳴らしながら甘えてきた。


「おっ?止まった」


「小町は犬じゃないにゃ。そこは、普通は猫じゃらしで止めるところにゃ」

 ――ゴロゴロ


 猫じゃらしか……、

「思いつかなかった」

 ――ゴロゴロ


「だと思って、妥協したにゃ」

 ――ゴロゴロ


「うわ~っ、こたつ猫の小町ちゃん、可愛すぎますね」

 華怜さんも参戦する。

 ――ゴロゴロ


「ダメだ。鈴の音が、ただ置き換わっただけな気がする」

 ――ゴロゴロ


「満足するまで、やめるのは禁止にゃ」

 ――ゴロゴロ


 しばらく、華怜さんと一緒に、小町ちゃんを散々かまった後、小町ちゃんは満足そうな顔をしていた。


「精霊属性すごいな。しゃべる猫まで呼び出せるなんて」


「正確には、精霊術ですね。魔法とは別の技術が必要です。たぶん、カナタさんと相性が良かったのではないのでしょうか?」


「カナタと華怜の二人が相性良かったのにゃ。二人の掛け合いが、意図せず儀式魔法として発動したにゃ。精霊の姿が見えたり、話ができるようになったりするほどの高度な技術まで組み込まれていたにゃ」


 とんでもない魔法技術だね。

 しかも、魔法出し終わった後も、小町ちゃんは帰らずに目の前 で残っている。

 俺が、レベルアップせずに魔法習得できることは特別なことらしいが、創造と習得を同時にやりのけた華怜さんはもっと凄いってことだよね。

 尊敬の眼差しを華怜さんに向けると……。


「これがカナタさんの力……思っていた以上です。尊敬せずにはいられません!」


 華怜さんは小さく頷きながらも、瞳はどこかきらめき、息遣いがわずかに高揚しているのが感じ取れた。柔らかな笑みを浮かべた彼女は、俺の肩に軽く手を置き、熱っぽい眼差しで優しく俺を見つめてきた。


「いや、俺よりも華怜さんがしたことの方が凄いですよ。もしかして、華怜は自分の凄さを認識してないのでは?」


「カナタさんは、自分自身で何を行ったかを認識してないからそんな言葉が出るんです。あなたの方こそ自分の凄さを認識してないようです」


「俺がしたことは魔法習得だけですよ?華怜さんは魔法創造まで行ってるじゃないですか!」

 改めて、華怜さんの凄さを言葉にして伝えた。


「私は、カナタさんに心象魔法すらお渡ししていませんし、魔法発動の基礎すらお教えしていませんよ。それに魔法創造をしたのはカナタさんです。」


「えっ?」


「そうにゃ。華怜は魔法を創造してないし、発動すらさせてないにゃ。華怜の言葉に合わせてカナタが発動させたのにゃ」


「それより、巫女のイメージに合わせて三毛猫ってなんのなのにゃ?白か黒猫じゃだめにゃ?」


「招き猫……、幸運の象徴です。巫女姿という趣もあり、日本情緒を感じさせる伝統のなかでは、やはり三毛猫こそがぴったりなのではと……。ところで、小町ちゃんは、白か黒のどちらかがお好みでしたか?」


「日本の…伝統ですか……」


「カナタは黒猫がタイプみたいにゃ」


「それってつまり、私のイメージ通りの三毛猫を選んでくださったということですね?」


「俺が選んだの?イメージを伝える魔法。心象魔法ですか?その魔法すらもらってないのに……」


 すると華怜さんは、突然思い出したのかのように、

「そうだ!せっかく作った心象魔法が余ってしまいました。私の思いが込められているのでもらってください」


 そういうと、華怜さんは淡く輝く魔法の玉を差し出した。すると、かすかな波紋とともに、別の光がその玉に重なっていくのが見えた。


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