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第3話 猫と癒しの魔法

「今です。チャンスですよ」

「ダメ、それじゃ無防備すぎる…」

「左からくる!気を付けて!」

「まずい…このままじゃ!」

「逃げちゃダメ…ここで踏ん張るの!」

「落ち着いて…冷静に対処するのよ!」

「あああ、また何もできずに負けっちゃいました」


 剣を振り下ろした最後の一撃が決まると、ゆっくりと刃を見つめた。血を拭い、鞘へと収める。静寂が訪れた。

 まぁ、華怜さんが黙っただけなんだけどね。


「華怜さんゴブリンの応援お疲れ様です」

  冷めた目で華怜さんを見つめ、皮肉交じりに言った。


「さすが、カナタさんですね。昇華された戦闘術に感服です!」

 彼女は頬を上気させ、微笑みながら水とドロップ品 を差し出してきた。

 さらに、指先でそっと髪に滲んだ汗をぬぐってくれた。


 ケガをして欲しくて、ゴブリンに声援を送っていた人とは思えない言動だね。

 この人の不思議なところは、ゴブリンへの声援がきちんと冗談として受け取れるところだね。

 これは、俺に対して芯の部分で信頼を置き、戦闘に対しても不安を微塵にも感じてないからだろう。

 この人は本当に俺と関わったことがあるのだろう。


「刃物を持ったモンスター、命のやり取りにも慣れてきたし、そろそろボス戦と行こうかな」


「初めての戦闘からまだ1時間も経っていませんよ。もう少しリスクを抑えてよろしいのでは?なんなら、別の日に改めても……」


「ボス戦ならばケガをするかもしれませんよ?」

 

 やはり芯の部分では心配もしてくれている。それを冗談めかしたセリフで返してみた。


「ダメですっ。ケガをしないことによって別の日の冒険にも私を誘って連れて行ってもらう作戦なんですよ」


 冗談を冗談で返してきたわ。

 回復魔法はまた別の日にお披露目作戦ということらしい。


「でも、もういくつかの戦闘を経験したら、ボス戦に挑んでみますよ」


「はい、大丈夫です。カナタさんなら指先ひとつです」


 どこまでが冗談なんだか、戦闘への信頼度が半端ないね。


「では、回復魔法を覚えてからボス戦に挑みませんか?」


 いくつかの戦闘が終わり、剣の響きとモンスターの呻きだけがこだまする戦場が徐々に静寂に包まれるころ、華怜さんが柔らかな声で話しかけてきた。


「カナタさん。ボス戦の前に、回復魔法を覚えてみませんか?」


 まだ、俺に回復魔法をかけてすらいない。

 信頼獲得の切り札すら簡単に捨てて、俺に回復魔法を覚えてさせて身の安全を図ろうとさえ考えてくれているのだろう。

 思わず口にしてしまった。


「お断りします」

「はい!どこまでも一緒に付いて行きます!」

 と、華怜さんは快活に応じた。


 ノリの対応はやっ。


「回復魔法は、光属性にしますか?それとも水属性?やはり王道の聖属性でしょうか?」


「属性?属性を選べるの?」


「はい、魔法はイメージが大事ですから。まばゆい光に包まれて、傷が癒されることを想像できるなら光属性。水の癒しに包まれるイメージなら水属性。信心から奇跡の癒しなら聖属性です」


「そんなイメージだけで回復魔法を使えるようになるなんて簡単すぎやしませんか?」


「そこは、ダンジョンが制限をかけてくるのです、実は簡単には覚えられません。例えば、光属性しか扱えない者、水属性しか適応できない者、希少な聖属性を持つ者などがいるのです。努力して覚える人もいれば、初めから与えられている人。奇跡的に与えられる人。ダンジョンですからやはりレベルで覚えるのが一般的ですね」


「で、俺はどうやって覚えるんですか?」


「カナタさんは特別ですから、イメージだけで習得できるんですよ。どんな癒しがお好みですか?」


 魔法はイメージですと言われれば納得はできる。

 想像から生まれるのが魔法だからね。

 ダンジョンによる習得の制限とは何だろう?

 やはりステータスやスキルがダンジョン内でのみ作用するからだろうか。


「俺はこたつで癒されますね」


「赤外線ですから、光属性?温かさは火属性?」

  口元に指を当て、はてなの表情を浮かべて華怜さんは考えているようだ。


「こたつだから猫属性じゃないですか?」


「なるほど。今は猫耳を持ち合わせてないので、残念ながら却下です」


  ただの猫好きじゃないですか、とツッコミされるのかと思っていたら、上をいきなさる。

  今度、猫耳を用意してからお願いしてみよう。


「精霊属性にしましょう」


  猫からの発想かな?猫は精霊属性ですか?


「回復する時に猫でも呼び出すんですか?」


「こたつの精霊の姿はずばり猫です。こたつと猫。最高の組み合わせではないですか?カナタさん」


  華怜さんは目を輝かせながら、身を乗り出して続ける。


「そうです!撫でると癒される、それこそ究極の回復魔法では?」


  瀕死状態で使えませんがな。


「では、お願いします」

「はい!どこまでも一緒に付いて行きます!」

  と、華怜さんは快活に応じた。


  いや、断っていませんよ?


「むむむっ。教えるにしても猫魔法は難しいですね」


  いや、猫魔法ではありませんよ?


「そもそも、俺が魔法を習得できることは置いておいて、華怜さんは魔法を作り出していませんか?そっちの方が凄いことなのでは?」


「イメージを構築した魔術の塊をお渡しします。その扱い方を教えるだけですよ。イメージ映像を作成し、見ていただいて、回復魔法と言うより基本的な魔法の扱い方をお教えするだけです。カナタさんの凄いところはそれだけで魔法習得に至るところですね」


 彼女は一息ついてから、イメージ構築の作業に戻ったのか、独り言を呟いた。


「ここは回復量に目を瞑って、猫の可愛さにステ振りすべきかもしれません」


  回復魔法から逸れた猫魔法習得はなかなかやっかいですね。

  ボス戦もその魔法で倒せませんか?


「茶トラでいいですか?その場合、魔力消費アップと詠唱速度低下どちらが好みですか?」

 ネガティブ要素選択に好みなんてあるの?そもそも、柄選びをネガティブ要素で補う?

 拡張パック追加はボス戦の後でいいかな?

 もう……華怜さんに回復してもらえば十分な気がしてきた。


「完成しました。今からカナタさんにお教えしますね。『猫巫女の祝福』です。」


 こたつ要素はどこいった?


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