第2話 お断りしますをお断りします!
俺のスキル名を告げた後、受付嬢の華怜さんが少し心配そうに俺を見つめてきた。
彼女の心配を打ち消すかのように、
「よし、切り替えて行こう。元々ケガをしないように立ち回るつもりだったからね」
「さすがの切り替えですね。ご安心ください、私の魔法であっという間に、痛みも跡形もなく元通りにします」
華怜さんは笑顔を取り戻し、胸を張って心強い言葉をかけてくれた。
彼女自身がまさに癒しそのものだな!彼女の回復魔法が、すでに俺の心に染み渡っている。
あれ待てよ?これって――つまり、彼女が俺と一緒に冒険に付いてくるってことだよね?
「お断りします」
俺が口を開くと、
「はい!どこまでも一緒に付いて行きます!」
と、華怜さんは快活に応じた。
……うん。話がかみ合ってないね。俺、今あなたとの同行を断ったよ?
ほんの一瞬の沈黙の後、華怜さんは何かに気づいた様子で、
「ダメですっ!お断りしますをお断りします!初めての戦闘にリスクを覚えたのですよね?せめて今日だけでもお試し期間として採用してください。必ず、お役に立ってみせます!」
ぐいぐい来るな。さすがに俺のスキルを見抜いていることだけはある。
あれ?どうして俺のスキルを知っているんだ?
ステータスやスキルって秘匿性のあるもので、基本的に他人は知ることができないのでは?
「華怜さん、なぜ俺のスキルをご存じなのですか?」
今更ながらに疑問をぶつける。
「はい、同行を同意前提でお答えいたします。それは私のスキル名と同じだからです。」
衝撃的な言葉と共に、同行同意をさらりと混ぜてくる華怜さんって強者だな。
その一言に計り知れぬ自信と覚悟が感じられる。
スキルについて考えてみる。まず、身近に同じスキルを持つ者がいるということは、ありふれたスキルなのかもしれない。
このスキルは、相手のステータスやスキルを確認できるのだろうか?それで俺のスキルを確認したのかもしれない。
それとも、同系統のスキルは同じスキルを持つ者を特定できるのだろうか?あるいは、このスキルに限って同系統同士だから特定できるのか?
まずはスキルを使ってみるか?その方が早い。
そんな思索に没頭していると、突然、華怜さんの声が俺の耳に届いた。
「カナタさん。まずはダンジョンに潜りませんか?スキルの説明はそこでしますよ」
彼女の同行を自然に同意する流れになったな。
この誘導は、女神様じゃなくて悪魔のなせる業だよね?
◇◆◇◆◇◆
単純な動きをする初心者向けのモンスターがいる層を素通りし、人型のモンスターであるゴブリンの層までやって来た。
低階層は10階層まであり、人型、大型、複数で行動するモンスター、罠やダンジョン環境など、ダンジョン攻略に必要な要素をチュートリアル的に学べる仕組みになっている。
しかし、学べると言っても難易度はその限りではない。
初心者向けの難易度は3階層までで、それ以降はモンスターも強い。
実は中堅以上の冒険者用チュートリアルダンジョンなのだ。
あくまでも、ケガや死を恐れる必要がないからこそ学べる。
その面倒な危険がない環境は、すべての冒険者に頼もしい味方となるといった感じだ。
「このダンジョンは冒険者に優しいシステムだよね」
「カナタさんには適用されていませんが、その優しいシステムの代替がわたくし久遠華怜なのです」
回復魔法使えるもんね。自分のことを優しいとまで、あからさまに売り込んで来ていらっしゃる。
明らかに、この彼女の親切は俺に対して特別だと感じざるを得ない。
その一途な振る舞いには、ただの優しさでは表現しきれない奥深い情熱が感じられる。
だからこそ、その疑念を素直に彼女にぶつけることにした。
「どうしてそんなに親切にしてくれるのですか?」
「実は、かつてカナタさんにとても助けられたことがあるのです。でも、それを機に恩返しをしよう としているのではありません。急にこんな話を持ち出して、あなたに私を無理に信頼してほしいとは思っていません」
彼女は、深い瞳でじっと俺を見据え、その視線の奥に、切なさと真摯さが混じる様子を浮かべながら続けた。
「言葉で私の気持ちを全て伝えるのは難しいです。だから、まずはこのダンジョンを共に進む中で、私がどんな存在であるか、少しずつ感じ取ってほしいのです」
あっこの人すごいわ。華怜さんの真摯な心情の吐露に素直に感動した。
彼女への信頼の芽が見え始めた瞬間に俺は思えた。
さっきは悪魔にたとえてごめん。華怜さんは悪魔じゃなくて天使だわ。
「カナタさんの信頼を勝ち取らなければなりません。まずは早くケガをしてください。私の優しさがバーストするところをお見せします」
彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべなら言った。
はい、この一言で男を惑わせる小悪魔に決定です。彼女への信頼以外の評価が、一瞬にして固まった瞬間だった。
「罠にかかったら、罠があることをお知らせしますね」
この人信頼してもらうつもり無いよね?
既に、あなたがどんな存在かは十分感じ取れましたよ?
評価はいかほどとも口にしませんが……。
俺は彼女をかつて助けたことはないことを断定できる。
彼女とのつながりはない。
彼女が俺のスキル名を言い当てた時に、彼女への信頼よりも疑惑が先行した。
これだけの材料だけなら、彼女を信頼するしない以前に、評価の対象にするなんて考える必要はない。
むしろ、彼女が何者なのかを探る必要まである。
内心、俺は彼女の正体に疑いと興味の両方を抱かずにはいられなかった。
だが、彼女は俺と同じスキル名であることについては確信が持てた。
彼女に教わってスキルを使ったからだ。
もうひとつ、このスキルを身に付けていることで確信を持てたことがある。
彼女が何者であるかの疑念に関係なく、これから彼女の味方である立場となる関係性を築き上げることだ。
「キャーッ!」
背後から鋭い女性の叫びが響いた。
振り向くと、見事、落とし穴にはまっている華怜さんがいた。
この子罠にかかってるよ……。
「ダメですっ。罠にかかってしましました」
あんたが罠にかかるんかい!
いや、ここは俺が罠にかかってケガをする前提の流れだっただろ……。
そうだよね。誰が罠にかかったら、誰に知らせるのか、その主語が曖昧だったもん。
笑いながら、俺は華怜さんに手を差し伸べるのだった。
「ケガはないですか?華怜さん」
「手に手をとって協力し合う関係ってこういうことですね。カナタさん」
「違いますよ?」
この人転んでもただでは起きあがらないね。
俺の笑顔は、苦笑いに代わったが、悪い気はしないね。