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9.生育

 朝、屋敷を出て中庭へ駆ける。そのまま無駄に迷路となっている花垣へ。迷路となっている理由は、侵入者の進軍を少しでも遅らせるためらしい。侵入者ならこんな生垣、突き破って進行するだろと思いつつ、もう覚えてしまった迷路を踏破する。

 そこにあるのは畑。安心安全の自家栽培用の野菜や果物が生っている。僕はその横を通り、畑のとある一角を目指す。


「おじいちゃん、どう?」

「あ、アルドラ様!? はい。こちらの畑はすでに収穫可能となっております」

「……早くない?」

「通常の3,4倍は早いかと」

「栄養が薄くなっていると困るんだけど」

「それは調べてみませんと分かりません」


 赤いブドウのような身を手に乗せ、庭師が困り顔をする。


「他の畑は?」

「おおむね通常通りです。この地でここまで育つなど奇跡です」

「僕はこれを奇跡で終わらせたくない。量産できる?」

「おおよそ可能かと」

「結構。じゃあ、収穫後、すぐに量産できる体制を整えて」

「仰せのままに」

「お、お、お嬢様~~!」


 庭師との会話が終わる頃、メイドのメアリーが慌てて走ってきた。


「どうしたの? そんなに慌てて」

「あ、あ」

「あ?」

「アナスタシア第2王女が~~!」

「は?」


△▼△▼△▼△▼△▼


 まさかの立ち合いイベントが発生した。初対面の時以来2回目である。

 アナスタシアの立ち合いイベントは何回も発生する。勝敗によって好感度と、アナスタシアに憑く悪魔の浸食度合いが変わってくるのだが、こんな頻繁に起きていた印象がない。


「来たな」

「はい、呼ばれましたので」

「お前を知ってしまった私は、もうお前でしか満足できない体となってしまった」

「わぁ、情熱的ですね」


 アナスタシアルートのハッピーエンドのためには、アナスタシアの好感度が100中80必要なのだが、もう達成してしまいそうだ。まだゲーム開始前だというのに。


 とりあえず訓練場へ案内する。

 アナスタシアはいつもの伝統的な構え。僕も同じ構えを取る。


「は、始めェ!」


 メアリーがビクビクしながら開始の号令をかける。瞬間、アナスタシアが距離を詰める。2歩だけ。膝を曲げ、前傾姿勢で止まっている。

 今の接近で僕を釣ろうとしたのだろう。残念ながら僕はそう簡単に釣られないよ。アナスタシアの脚の筋肉の動き的に、攻撃が届く範囲まで近づいてこないと分かっていたから。

 アナスタシアは前傾姿勢のまま、横にすり足で移動し始める。僕の周りを、円を描くように。隙を見つけようって? 見せるつもりなんかないよ。


 僕も少し前傾となる。アナスタシアが動きを止めた。


 沈黙。


 そこで、何かに反応したアナスタシアが剣を振った。空振り。目を丸くする。顔を上げると、剣を振り上げた僕。

 アナスタシアが何かをするよりも速く、僕はそのまま振り下ろし、アナスタシアの頭を軽くコンと叩いた。


 アナスタシアは流れに逆らわず、四つん這いとなる。


「い、今のは何だ? 私はお前を切ったはずだが?」

「いやぁ、アナスタシア様が強くて助かりましたぁ」

「珍しいな。嫌味か?」

「いえいえ、本音ですよ?」


 下から睨みつけてくる。怒った顔も美人だな、アナスタシア。


「今のは、相手がある程度強くないと使えない一発芸でしたので」

「フム?」


 アナスタシアが体勢を変え、片膝を立てて座る。僕は目線を合わせるために座る。


「アナスタシア様、相手の気配を感じ取れますよね?」

「ウム。次の動作を読み切らねば1本取られるからな」

「僕はわざとその気配を飛ばしたんですよ」

「成る程。私はまんまと罠に嵌まったわけか」

「理解が早いですね」


 納得したようで、アナスタシアは天を仰いだ。


「ところで、どうされたんです? 急にこちらにいらして」

「今日婚約者が10歳となってな」

「おぉ、おめでとうございます。アナスタシア様に婚約者がいらしたんですね」

「どういう意味だ?」

「おっと」


 僕はわざとらしく口を手で覆いながら目を逸らした。3秒ほど沈黙の激睨みタイム。

 アナスタシア様は溜息とともに睨むのを止めた。


「そういうお前だって公爵家らしく婚約者ぐらいいるだろ?」

「どうなんですかね。いるとは思いますけど、会ったことも聞いたこともないです。お父様もお母様も全然帰って来ないので」

「……深く聞かない方がよいな」

「え、別にいいですよ? 笑い話にしているので」


 紛れもない本音だ。そもそも僕は両親に興味がない。アナスタシアとの橋渡しをした。それ以上でもそれ以下でもない。


「それで、その婚約者がどうされたのです?」

「あぁ、どうも怖がられていてな」

「ほう」

「立ち合いを申し入れたのだが、相手は震えるばかり」

「ありゃ」


 まぁ、そうだろう。誕生日おめでとう。10歳になったんだね。じゃあ立ち会おっか。恐怖しかないだろ、この発言。しかも、発言者はこの国の騎士団長より強い。震えるよ、そりゃ。


「ついには粗相をさせてしまってな」

「泡噴いて倒れなかっただけ偉いですね」


 再び3秒間の激睨みタイム。


「気付いていないようですので進言しますけど、アナスタシア様の威圧感凄いですからね。野生動物なんて即座に逃げ出しますよ」

「そこまでか?」

「それ以上です」


 アナスタシアが珍しく縮こまる。もしかして気にしてた?


「なぜお前は平然としていられるのだ?」

「僕の方が強いですから」

「ム」

「それに」

「それに?」


 アナスタシアの顔をじっと見つめる。向こうは先を促すように見つめ返してきた。


「僕はアナスタシア様が心優しき乙女だと知っていますからね」

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