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7.姫様

 ゴトゴトと揺れる。ここは馬車の中。いるのは僕と父の2人のみ。ちょこちょこ会うことはあっても、まともに会話をしていない。挨拶すら交わしていない。

 こうして対面するのは、少なくとも5年以上ぶりだ。僕が転生してからは1度もない。何を話しゃいいんだよ、マジで。とりあえず怒られるのは嫌だからおとなしくしているけど、ちょっと走りたくなってきたな。父が絶対許すことはないけど。とりあえず王城まで我慢するかぁ。

 王城が近づくにつれ、中にいる憤怒の悪魔が元気になってくる。仲間がいるからだろうか。仲間という意識があるのか、そもそも。


 そして、王城に着くと、そこそこ広いサイズの会議室へ通された。


「アルドラ、分かっているな?」


 父の鋭い目が向けられる。何がとは言い返せる雰囲気ではない。


「これからアナスタシア第2王女がいらっしゃる。必ず良い繋がりを持つのだ」

「はい」


 説明されて助かった。本当に何のことか分からなかったから。


 アナスタシアを仲良く? 当然するさ。何のためにここまで体を鍛えたと思っているの? このためだとも!

 数分後、現国王とアナスタシアが部屋に入ってきた。空気が一変する。ビリビリと震えている。父はその威圧に気圧されて呼吸が浅くなっている。

 凄い威圧感だ。確か<高威圧>のスキル持ちだっけ。高位の精神攻撃耐性スキル<明鏡止水>を持っていても貫通してくるタイプだった気がする。まぁ、<明鏡止水>のレベルが高ければ何とでもなるんだけどね。だから僕は優先して伸ばしたよ。

 <高威圧>は相手の行動を90%以上抑制するスキルだ。父のようになるのは当然といえば当然。

 ちなみに現国王も<明鏡止水>持ちであり、抗うことができる。


 アナスタシアがこちらに視線を向けてくる。僕はニッコリと微笑みを返した。


 15時頃、場所は道場へ移っていた。王城の敷地内にある、騎士団の訓練場も兼ねている施設。そのため、僕達が訪れた時も、騎士団員がたくさんいた。

 アナスタシアが入室した途端、団員は目を逸らし縮こまる。アナスタシアは堂々と道場内を横切り、刃の潰された模擬剣を取った。1本をこちらに投げてきた。剣が僕の1歩手前で落ちる。


「え」

「剣を取れ。名はアルドラだったな」

「え」


 それは予想していなかった。はじめましての段階でこうなるなんて。


 立ち合いイベント。アナスタシアルート発生のタイミングからランダムで発生する。好感度上げのイベントだ。RTA走者の僕が、どんなに最適化しても2回目の出会いからでしか発生させられなかったイベントだ。

 初対面で発生するなんて。……何でだ?


 とりあえず剣を拾う。父から、接待しろのオーラをひしひしと感じるが、無視する。接待? 僕なりにするさ。


 左手を腰裏に回し、右手の剣を相手に向ける。伝統的な剣の構え。

 アナスタシアが距離を詰め、剣を振り上げる。始めの合図があった直後のことだった。好戦的すぎない? このお嬢様。

 僕は剣を横にして受けながら、適度に力を抜く。模擬剣が斜めとなり、それに沿って姫様の剣は滑る。目を見開くアナスタシアに1歩近づきながら剣を抜き、上段から振り下ろす。

 アナスタシアの綺麗な鎖骨に添えた。


 そのあまりにも流れるような美しい所作に、誰もが時を止めた。


「僕の勝ち、ですかな?」


 父から、なぜお前が勝っているんだ的な視線を感じるが、無視する。


「あぁ、お前の勝ちだ。しかし、ここでおとなしく引き下がれるほど、私は大人ではないらしい」

「では、もう1本?」


 互いに、最初の位置、最初の構えとなる。

 またしても初手に仕掛けてくるのはアナスタシア。今度は横に振ってきた。僕は柄を天井に向けるように縦にして受け止める。そして、剣を時計回りに回転させながら、僕は屈む。

 姫様の剣を往なした僕は左手で床を弾きながら立ち上がる。右手は剣を切り返し、アナスタシアの細い腰に優しく当てる。


「まだやります?」

「ッ!? あぁ、もう1本だ」


 互いに、最初の位置、最初の構えとなる。


 待ち。2回とも自分から仕掛けて負けてからか、今度は慎重となっている。なら、こっちから仕掛けるか。

 僕は剣を振り上げると、1歩踏み出しながら振り下ろし投げた。


「ナッ!?」


 アナスタシアは慌てながら剣を弾く。剣を投げることを想定していなかったらしい。そりゃそうか。

 僕から視線が外れている隙をついて肉薄し、アナスタシアの腰へタックル。テイクダウンに成功する。アナスタシアの腰に乗っかりながら、両手首を片手で押さえる。


「抵抗、いたしますか?」


 脱出しようと少しばかりの抵抗を見せるが、ビクともしない。やがて抵抗するのを止め、僕の顔をじっと見てくる。やっぱアナスタシアって美人だなぁ。


「……参った」


 その声には悔しさと同時に嬉しさも混ざっていた。そして、僅かな笑みを見せてくる。


 おいおい。僕の堕とし方を知ってんじゃねぇの。

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