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6.人形

 ゴッ。ゴッ。ゴッ。

 ただひたすらに。

 ゴッ。ゴッ。ゴッ。

 ただひたすらに。

 ゴッ。ゴッ。ゴッ。

 ただひたすらに巻き藁を殴る。


 殴る。蹴る。突く。

 皮の破けた拳を見つめながら、息を整えていく。冷やそう。流水が欲しい。


 僕は流水を求めて山に入る。かなり熱を放出しているようで、僕の体から湯気が出ている。

 少し屈んで手の甲に水を当てていく。傷に沁みていく。体が冷えていく。


 今日はもう鍛錬を終わらせよう。この後、庭師と種子が届く。胸が浮いている。ワクワクしている。悪魔は僕の中でおとなしくしている。

 ようやくだ。ようやく僕の願いが始まる。夢への道に傾斜がつく。土台ではなく、基礎にシフトできる。


 僕は汗の処理を終わらせ、畑へ向かう。そこにはすでに木箱が12個置かれていた。1つ1つはティッシュ箱くらいの大きさだが、12個もあれば相当な量だ。


「これ、全部がそうなの?」

「はい。ロマンシェの実です。運んできた者は現在屋敷内で契約を結んでおります」

「成る程ね~~。待ってれば来るの? 屋敷に行った方がいいの?」

「お嬢様はお待ちいただければ、こちらに連れて参ります」

「は~~い」


 僕は庭師を待ちながら四股を踏む。何をしているのか分かっていない使用人が、止めようかどうか悩んでいる。ドレスではないが、大きく股を開いているのは公爵令嬢としてどうなのかということだ。

 ちなみに相撲は五穀豊穣を願う儀式の一面がある。四股には邪気払いのためにその土地を清める役目がある。

 足裏を太陽に向けるようにI字バランス。一気に打ち下ろす。膝は90度に曲げる。息を細く吐きながら次の四股の準備をする。


「お待たせいたしました」

「初めまして、アルドラ様」


 第一印象は優しそうなお爺ちゃん。実際ゲーム内のキャラクターとしては一切裏のない優しいお爺ちゃんである。植物に真摯であるいいお爺ちゃんだ。


「初めまして、アルドラ・ランレイグです。来てくれて感謝する。一緒にロマンシェの実を育てよう!」

「えぇ、よい土壌を育てましょう」


 使用人が後ろからついてくる中、僕と庭師は畑の予定地へ向かう。


「どうでしょう?」

「土壌のことを考えて、いろいろと試してみましょう」

「一応いろいろと用意してあるよ。どれかが良ければいいんだけど」


 畑の脇には動物の糞や落ち葉、油分の多い植物の種子が大量に用意されていた。


「ロマンシェの種は大量に用意しております。試してみましょう」

「ハイ!」


 少しだけ雑草抜きを行い、マナー講習のために屋敷に戻った。

 大変退屈な講習を意識半分で聞き流す。


 そして、午後の暇な時間。いつもなら鍛錬に充てるが、今日は違う。

 布や綿、針に糸を用意している。本当は石膏型と粘土を用意したかったが、できなかった。いや、用意したのだが、粘土の量が足りなかった。悲しいが、仕方ないことだ。


 チクッ。


「あっ」

「大丈夫ですか!?」


 控えていたメイドが救急箱片手に慌て始めた。とりあえず指を銜えながらメイドを見つめる。

 いい加減諦めろ。僕はいつまでもこの調子だぞ。5年経ったのによく変わらないな。まぁ、僕もだけど。

 マナー講習を受けておきながら一切言動が変わらない。好き勝手やらせてもらっている。流石公爵令嬢って感じだろ?


 コンコンと扉がノックされる。


「な~~に~~?」

「失礼いたします」


 使用人が1人入ってくる。自分の指を銜える僕と、何もできず適度な距離を保って慌てているメイド。両者を交互に見て、使用人は溜息を飲み込んだ。


「実は、旦那様が帰ってくるそうです」

「……父様が? いつ?」

「3日後を予定しております」

「うわっ」


 僕はわざとらしく嫌な顔をした。

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