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5.道場

 朝4時前。1日の始まりに心をワクワクさせる。今日はお忍びで町へ行く日。行きたい場所のリストアップだって済んでいる。

 いつもの朝練にも力が入る。何と言っても、今日行くのは強いと噂の道場だ。今まで対悪魔用の訓練ばかりやっていて、対人戦のことを考えていなかったのだ。


 そして、全てを省いて、僕は道場へやってきた。


 バァン! と勢いよく扉を開ける。壊れてしまったが、気にせず入っていく。


「おいおいおい、何者だ、お前」

「何の用だい?」


 近づいてくる2人を、手首を掴んで回して落とす。

 一気に道場内がざわつき始める。そして明らかに強そうな上裸な男性が出てくる。


「かましてやるよ」

「やぁやぁ、僕は闘いに来ているんだ」

「私は黒豹のレファス。よろしく」

「僕はアンジェラ。女の子だけど手加減しないでくれよ?」


 一応偽名を出しておく。バレたくないし、手加減されたくないし。


 僕もレファスも打撃系の構えを取る。僕はどっしりと構え、レファスはたったっと上下に跳んでいる。

 そして、遠慮なしの顔面へのフック。その出鼻を挫く僕のジャブ。


「ヌッ!?」


 レファスは拳の連撃を繰り出してくるが、僕は全て丁寧に捌いていく。そして、わざと打ち切らせてから距離を潰し、胸を殴る。

 胸を押さえながら後ろに下がる。そのうえで、レファスは速く鋭い前蹴り。油断していれば内臓を揺らされていただろう。

 しかし、足の長さを見極め、射程外まで紙一重で逃れる。カウンター対策か、レファスはすぐに離れていく。


「やるねェ!」


 レファスは再び両拳の乱撃。全てが決め手に欠くジャブ。僕の意識を上に向けているな? このままタックルが来るな?


 1秒後、レファスはタックルしてくる。分かっている攻撃の対処は楽勝でできなければアナスタシアに勝てない。

 掴まれないように腰を引きながら、レファスの両肩を上から潰す。


「ぐ!?」


 動かない。再び力を入れ直そうとレファスが一度力を抜いた。そこを見逃さず、僕はレファスの背に回って体全体で押さえる。

 これでも僕が10歳の女の子だ。体格で勝てない。だからすぐに落とす。

 スリーパー。大の大人さえ解けない、鉄さえ歪める極め技。

 レファスの意識は一瞬にして落ちた。やっていることはほぼ首吊りの絞首刑だからな。


「……儂が出ねばならんか」

「師匠!?」


 出てきたのは、見るからに強い、道場の長。目立たぬくすんだ金髪に、黒のインナーカラー。少しだけ生える髭がチャーミングさを出してくる。


「連戦でいいよ。僕は無傷だし」

「言わせてしまったかな?」


 同時に肉薄してくる。タックル。喧嘩ルールかよ。始めの合図なかったぞ!?

 咄嗟にサイドステップで躱して距離を作る。無駄。なら、そのタックルに合わせて左のジャブ。


「ナ」


 被弾は覚悟の上か。拳を押し切られ、がっちりと胴体に絡みついてきた。素早く足を絡めて倒そうとしてくる。

 僕は師匠の背に腕を回して腰当たりの布を掴み、わざと自分から尻餅をつく。同時行う柔。


「師匠が手を離した!?」

「ありえん。どういうことだ!?」


 手で跳ねた師は両膝を着いたまま開手で構える。


「……不思議な技だ。見たことのない投げ」


 油断はない。その目から明らか。警戒している。当然だ。僕の技は何があるのか分かっていない。

 僕が両手を固めて前傾となる。師は組みを意識した開手で前傾。

 今度は僕から詰めていく。鉄の拳を繰り出すが、丁寧に捌かれていく。この師は打撃系の技を使わないタイプだ。捌くことに特化させている。

 超防御型。さっきのレファスとスタイルが違うが、いったいここは何の道場なんだ。


 そして、捌いて、捌いて、捌いて、捌いて……。捌ききってのカウンター。右手首を掴まれ、肘関節を逆に曲げられる。

 ビキッと骨が折れる錯覚をする。痛みに我慢しながら肘関節を押す手を殴る。


「イッ!?」


 身を引こうとする師の手へと追撃。師は顔を歪めながら左手を睨んでいる。左拳の追撃は上手くガードを挟まれてしまう。

 無理矢理こちらの体勢を崩すように体を傾けられる。さらに師はこちらを押し倒すようにタックルしてくる。


 ここか。このタイミングか。


 矢継ぎ早に体勢を入れ替える。この師の戦い方的にグラウンドは師の領分だ。

 そして、首への絞め。チョークスリーパー。完全に極まったスリーパーから逃げる方法はない。今は指1本を挟むことでまだ耐えている。


「ヒュー」


 呼吸はできる。ここから奇跡が起こると思うかい?


 起こらないよ。そんなもん。


 だからこそ、実力を出すんだろ?


 ミシッグチィィィイイイイイイ。


 「グァッ!?」


 師が離れる。師の右腕には僕の指の跡。僕の指から端の血が滴り落ちる。

 フィニッシュホールドを破られた焦燥が、思考を鈍らせた。

 僕の三日月蹴りがモロに刺さる。奥歯を噛み締めながら、師は耐えた。そこへ、飛び膝。自然に後ろへ倒れようとする師の腕を掴み、一気に引き込む。そのまま一本背負い。ここで僕も跳べばよりダメージを与えられるがそうしない。これで終わりだからだ。


 床に叩きつけられた師が気絶する。


「このタイミングか。ありがとう。これからも通わせてもらおうかな」


 パンと手を叩いて汚れを落とした。

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