35.終幕
「デッケェ。子爵と公爵の違いを思い知らされるぜ」
「馬鹿なこと言ってないで、早く行くわよ」
サムディとオーレリー。2人がやってきたのはランレイグ家邸宅。迷惑をかけてしまったことへの謝罪のために訪問しに来た。
使用人の案内を受け、2人は中庭へと向かう。道中キョロキョロ田舎者丸出しなサムディの耳を引っ張りつつ、オーレリーは深呼吸した。
中庭では、アルドラの他に、マナ、レレイラ、ベルモットの3人も走っていた。アルドラに続いてマラソン中である。
「もう、キツ」
「およ? マナがダウンか。無理を口にしなかったことは偉いし、距離が以前よりも伸びている。凄い! よくやった!」
「え、エヘヘ」
照れ笑いを浮かべるマナは、そのまま木陰に沈んだ。クッションからアームが伸び、パタパタ煽いでいる。
「相変わらず理解できぬ技術だ。一体どうなっているのかさっぱりだ」
木に凭れるように座るアナスタシアは、その基外具を見ながら嘆息を吐いた。
「お、来たね、2人とも」
「は、はい」
「オウ!」
物怖じしないサムディの挨拶を咎めるように、オーレリーが睨みつける。アルドラはそれをあえて無視してレレイラ達に指示を出す。
「2人とも休憩しよう。その後は食事特訓して、また運動だ!」
「はい」
「分かりました」
何年も繰り返してきたことで、2人からは驚きも文句もなくなった。
「あの、アルドラ様」
「ん?」
「本当に申し訳ございませんでした!」
少し声の大きめな謝罪を受け、目を丸くする。
「私のしてしまったこと、何も弁明、言い訳いたしません。どうぞ罰則をお与えくださいませ」
右足を引きずりながら合流したアナスタシアとアルドラが目を合わせる。
「罰則か」
「そういや忘れていましたね」
「え!?」
サムディもオーレリーもその一言に驚きを隠せない。忘れるなんてこと、ある?
「人的被害は」
「なかった」
「闘技場は?」
「もともと改善する予定で取り壊し準備を進めていた」
「そもそもの原因は」
「悪魔」
「お前への罰は」
「ないんじゃね?」
1つ1つ確かめるような2人のやり取り。最初から予定されていたかのような問答。サムディとオーレリーは互いに目を合わせる。
「しかし困った」
「何が困ったんだ~い?」
「え?」
小芝居はまだ続いているようだ。
「このままお咎めなしではいろいろとマズいだろう」
「ホホゥ」
「立場やら印象やら」
「う~ん、じゃあ、どうしよっか~~」
アルドラがコミカルに頭、目、指をくるくる回している。何だろう、この茶番。
「囚牢塔を使う」
「な、何だって~~」
「えっと」
サムディでさえ反応に困っている。
「囚牢塔とは、最近造られたばかりの、貴族用の牢獄だ。本当に立てたばかりゆえ、未だ1度も使われておらず、本当に使えるのかさえ謎だ」
「そこで君達には囚牢塔に入り、試運転に協力してもらおうって話。……3日くらい」
「達って、俺もですか?」
「うん。まぁ、罪状なんていくらでもでっち上げられるんだけど、一応皆が納得できるものを用意したよ」
「でっち!? ……何ですか?」
「不敬罪」
何も言い返せなかった。同時に3日で済むんだとも思う。
「さぁ! お腹空いちゃったし、ご飯ご飯~~」
「……ところで、あの小芝居は必要だったのか?」
「えぇ~~、だってそのまま淡々ととか怖くないですか?」
「罪状を言い渡すのだから怖くていいと思うのだが」
アナスタシアは口をへの字に曲げ、眉を顰めた。
「ささ、そんなことより、2人もどう? ご飯食べてかない?」
「え?」
「お前という奴は、本当に自由な奴だ」
「えぇ、そうですとも。僕は逍遥自在、自由気儘を胸に生きていますから!」