14.監視
親の干渉がないというのは非常に良い。好きなことを好きなだけできるからだ。
僕には余裕が出てきた。家庭教師から教わることが少なくなってきたのだ。おかげで時間ができた。
徐々にロマンシェの実の量産体制が着実に、確定的に整ってきた。そしてレレイラの元へ卸せるようになってきた。
ここいらで1回、きちんと調べておかないといけないんじゃなかろうか。何をって? 主人公さ!
まだゲームが始まっていないが、主人公は何をしているのか。僕ですら知らないことだ。気になる。
ということで、だ。主人公の元へ行くことにした。
まず僕がすることは名前を調べることだった。サムディ・クロッツェルというデフォルトネームが存在する。しかし、自由に名前を変えることができるため、この世界でもその名前であるのか不明だ。
ちなみにデフォルトネームだった。
僕は普通に何も考えず、無策でクロッツェル領に向かった。変装すらしていない。陽の光が熱くて嫌なため、帽子くらいか。
「アチ~~」
「お? ボウズ、見ねぇ顔だな。クロッツェル領は初めてかい?」
胸元を摘まんでパタパタ煽いでいると、門衛のおっちゃんが豪快に笑いながら言ってくる。確かに今の僕は少年のような恰好をしているが、こちとら乙女だぞ?
いや、怒る気はない。僕の年は現在11。少女だとしても声変わりが起こっているのか絶妙な時期だ。
「この辺りは風が少なくて結構暑いからな。日陰を利用しろよ」
「ありがとね、おっちゃん」
都市の南西部、その一角に建つ建物。そこに領主館がある。広い敷地を有する住宅だが、零細子爵だ。基本思考が武に寄っているため、お金が集まらないのだ。
「お、ここいいじゃん」
そこそこ大きな木が生えている丘の上。ここからであれば領主館が見える。
黒髪の少年が屋敷の外に向かって走っている。塀の向こう側にいるのはオーレリー・クルカーン。クルカーン子爵の秘蔵っ子であり、サムディの幼馴染だ。
僕は丘の上から2人の接触を確認していた。何を話しているのかここからでは分からないが、内容は想像できる。無理矢理遊びの約束を取り付けたサムディに、オーレリーガ嬉し恥ずかし叱っているのだろう。
少し恥ずかしがっていることなど一切気付かない少年は、強引に少女の手を引き、中庭を駆けていく。オーレリーはサムディのそういうところが好きらしい。おそらくもう惚れている。
サムディは物置小屋から訓練用の剣を持ち出し、呆れるオーレリーに渡す。お家デートに誘われちゃったよ、やったー! なところで、相手からそんなつもりありませんと断られたようなものだから、怒っていい。というか、僕ならキレる。そんなこと考えたからか、僕の心の中の悪魔がアップを始めた。座ってろ、面倒だから。
サムディがはしゃいでいると、後ろから筋肉モリモリマッチョマンなお爺ちゃんがやってきて、その頭を殴った。設定上にしか存在していないゲームキャラクターのバウワー・クロッツェル。サムディの武の師匠であり、実のお爺ちゃんである。
あ、サムディがバウワーと戦うことになった。
クロッツェル家は武功で成り上がった貴族であるためか、武を貴ぶ傾向にある。つまり、クロッツェル家は全員が強く、また遺伝的にも強くなりやすい家系なのだ。
サムディが覚醒する前にゲーム本編が始まる。どういう方向に覚醒させるかは、プレイヤー次第だ。武力に振って脳筋にするも良し。知力に振ってインテリにするも良し。
「あ」
サムディがバウワーに吹っ飛ばされた。地面から3mは浮いたのでは?
「高所からの落下って意外と空気が漏れるんだよね」
呑気に欠伸をしながら観戦してると、バウワーに睨まれた。わりと距離があるのだが、よく気付いたな。これが武人ってやつか。戦ってみたい。でも今は止めておこう。
僕はサムディともオーレリーとも繋がりを持つ気はないんだ。
「アチ~~」
木陰にいても暑い気温に嫌気が差す。
「走って帰るかぁ」
僕は自領までマラソンすることに決めた。