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6・伯父と伯父の語る事実


伯父に電話すると翌日の夜に会えるとの事だった。

僕がそちらまで行くと伝えたが、

強い口調でなるべく外へ出ないようにと言われ、

わざわざ車で迎えに来てくれたのだった。


やっぱり伯父は何か知っている、

そう感じた。


会う当日の夜。


彼とは時々面会していたので、

そんなに久しぶりではなかったのだが、

施設の外で会うのは10年以上ぶりであった。


「引っ越し祝いに美味しいものでも食べよう。」


筋肉隆々の体とは反比例する優しい笑顔で、

僕を個室のある小料理屋に連れて行ってくれた。


少し高価そうなキレイなお店だったので、


「こんな高そうなお店で食事なんていいの?」


と聞くと、


「たまになら大丈夫だよ。

同期より遅れがちだけど昇進はしてるから。」


と気の良い微笑みを向けてくれた。


父の言っていた事は半分当たりで半分外れだと思い、

昇進が遅れているのは僕の事件のせいなのかもしれないとも思った。


お店に入り店員さんの案内で個室のお座敷に座ると、

飲み物を頼み早速お通しを口にした。


お通しは竹の子と菜の花のおひたしで、

こんな事を言ったらいけないのかもしれないが、

久しぶりにまともなものを口にした気がした。


体中に広がる上品な美味しさを噛み締めながら、

僕は話しを始めた。


「伯父さん、聞きたい事があります。」


彼は冷たいウーロン茶を煽っていた顔をこちらに向けた。


「事件の事です。

僕には当時の記憶がほとんどありません。

警察や伯父さんはどこまで把握してるんですか?」


僕は今まで事件のことに触れようとしなかった。

それがいきなり自分から持ち出して来たのだ。

きっと驚くだろうと思っていたのだが、

意外と落ち着いて答えてくれた。


「うん、いつか聞かれると思っていたよ。

分かった、警察が把握している事と僕の考え、

それぞれを全て話すよ。」


この返答に僕は唾を飲み込んだ。


「まず警察の捜査内容だけど。

他者の痕跡がなく、

海斗くんたち家族の痕跡のみであったこと。

凶器から出た指紋が、

愛子…お母さん以外海斗くんのものだけだったこと。

近所からの証言で、

よく家から叫び声が上がっていたこと。

生き残っていたのが海斗くんだけだったこと。

海斗くんに事情聴取した時に、

親が嫌いだという証言があったこと。

それらから君が親への恨みで、

殺しに至ったのではないかと判断された。


衝動的にやってしまった可能性もあるんじゃないかと。」


なるほど、確かに状況証拠と動機は揃っている。

蓄積した感情がある日爆発することだってあり得る。

実際に自分の中でその気持ちは燻っていた。

だけど犯人は僕じゃない。


「しかし私は犯人は海斗くんじゃないと思っている。」


今考えていた事と同じことを言われてビックリした。


「何故ならまだ7歳の子供が刺したにしては、

包丁の刺し傷の角度や深度が不自然だったんだ。

もっと身長と体重のある大人が刺した傷だと思う。

監察医もそんな事を言っていたが、

捜査で他に証拠が出なかったんだよ。」


そうだったのか!

それならやっぱり小学校の同級生の線は消える。


「あと性格的にも違うと考えている。

確かに海斗くんは親に恨みがあったかもしれないが、

それを殺しという形で晴らす程の大胆さは無いんじゃないかな。

やっても親の歯ブラシで掃除をして元に戻すとか、

ハゲる呪いでもかける位じゃないのかな。」


僕は思わず笑ってしまった。

言えてる!

小心者の自分に出来るのはその程度のイタズラかも。


「というのは冗談だけどさ。

君は大人しいが芯の強い子だと私は思っている。

そんな子なら違う方法で問題を解決するんじゃないかと思った。」


僕の胸に料理の温かさとは別の温かさが広がり、

目頭が熱くなった。

理解者がここにもう1人いた事に気付かされた。


「あっ、あとそうだ。

海斗くん、睡眠薬を飲んでいたことは覚えているかい?」


睡眠薬?

そう言われてハッとした。

毎晩夜に飲まされていたアレのことか!?

ということは、

虚弱体質だから飲んでいた薬ではないということ?


「えっと、最近思い出したんですけど。

もしかして母さんに夜飲まされていたものでしょうか?」


そう答えると、

伯父は顔をしかめて天を仰いだ。


「あいつ…。何やってるんだ。」


息を吐きながら呟くと先を続けた。


「私が海斗くんの家に良く訪問していたのは、

あいつが何かやらかすんじゃないかと思っていたからなんだ。


愛子は感情的で思い込みが激しく、執着も強い。

事実が違っていてもこうと思い込んだら修正がきかない。

そういう彼女の性格を犯人に利用されたのかもしれないな。

その睡眠薬の出どころが今だに分からないんだ。」


えっ、

かかりつけ院で処方されたものじゃないのか!?


「市販薬ではなく医療機関で処方される、

成分の強いものらしいんだけど、

愛子や君の処方履歴になかったんだ。

どこで手に入れたのかが分からない、

というのも引っかかる。

警察は愛子がママ友から入手したのではと考え、

調査していたがそれらしき情報は見つからなかった。

そもそもアイツには親しいママ友なんて居なかったし。

それでわたしは身内も知り得ない、

もしくは認識下にないような人物が、

関与していてるのではないかと考えた。


さらにその人物は殺人罪に時効がないことで、

罪を被せた君を始末しに来ると考えた。

もしも私が犯人なら成長した海斗君が、

何か思い出してしまわないか。

自分が犯人だと気付かれてしまうんじゃないかと、

居ても立ってもいられなくなると思うから。

だからギリギリまで施設に居るように言っていたんだよ。

私のうちで預かってもよかったんだけど、

それだとセキュリティ的に四六時中守ることが出来なかった。」


僕はこの言葉を聞いて、

彼を誤解していたのだと気付いた。


今まで厄介者の僕を、

施設に閉じ込めようとしているのだと、

どこかで穿(うが)って考えていた。

何ならこの人が犯人かもしれないと疑ってすらいた。

どれだけ悲劇のヒロイン思考でいたのだろうか。


「誠人伯父さんありがとうございます。

おかげで無事に今日まで生きてます。

それに本当のことを教えてくれて感謝します。」


僕は心からの感謝を伝えた。

すると彼は言いにくそうに、

精悍な口元をもごつかせながら続けた。


「イヤ…、実は言いにくいんだけど。

全て話すと伝えたから言ってしまうね。


当時君は15歳にも満たなかったのにも関わらず、

オーバードーズ気味だったらしいんだ。

その影響で脳に軽度の障害が出てしまったようでね。

過去の記憶が消えていたり、

思い出しにくくなってしまっているそうだ。

医者から言われてはいたが、

まだ幼い君に言いにくくて黙っていた。

私の妹のせいで申し訳ない。」


そうか、

僕の記憶が常に朧げだった原因はそれだったんだ!

全くショックではないとは言い切れないが、

それでも本当のことを知れた方が良かった。


「そうだったんですね。

自分の体のことなので知れて良かったです。

母をずっと監視することなんて、

家庭や仕事があるのに無理だったと思います。

あの人は我も強かったから、

言っても聞かなかったでしょうし。

伯父さんのせいではありませんよ。

ちょっとした記憶喪失程度で良かったです。」


「ごめんね、ありがとう。

命が無事なのは本当に良かったよ。

さぁ、料理が冷めるから食べよう!」


彼に勧められホカホカの炊き込みご飯を味わい、

お腹もポカポカになって満たされた。


伯父の優しさと事実の一部を知れたことそして、

美味しいものでお腹が満たされたことで、

人間らしさを取り戻せた気がしたのだった。


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