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3・学校とアパート住人と親戚


とりあえず小学校へ登校してみることにした。

けれど正直学校も大嫌いだった。


僕はそもそも集団行動が苦手だし、

運動だって出来る方じゃない。


何につけても集団行動させたがる、

学校というものは地獄でしかなかった。

その上家庭も阿鼻叫喚の世界だったから、

まともに他者とのコミュニケーションを学べず、

どうすれば良いのか分からなかった。


そんな感じなので昼休みに、


「岸くんサッカーやろうぜ!」


と言われてもだいたい断っていた。


だからと言って、

隅の方でゲームの会話をしている子たちにも入れず…。


なので常に図書室か自席で本を読むことが多かった。


今日ももうすぐ昼休みだが、

そういう幼い頃の自分の性質を踏まえて、

まずはタイムリープする前と同じ行動を取ってみようと思った。


なぜなら警察が僕を犯人と断定したならば、

低学年の小学生でも犯行可能なはずだからだ。


もし7歳児が容疑者に入るなら、

僕自身が同級生から恨みを買い、

両親を殺して罪を擦りつけられた可能性だってある。


さて…。

小学一年生の僕は他人から恨まれていたのだろうか?


そんな推理を立てつつ給食の後も、

いつも通りランドセルから本を出して読みつつ、

周囲の様子を伺った。


教室の生徒の半分以上は運動場に遊びに出ていて、

残りはおしゃべりで盛り上がっている様子だった。


アイドルの話し、ゲームの話し、下らない冗談。


昔もそうだったが、

今改めて耳を立てて聞いても興味が出ない。

興味が出ないから参加しても話にならない。

自分はやっぱり皆とは違うタイプなんだろうなと感じた。

そう思うとあの頃の孤独感が甦り、

いたたまれなくなり胸が苦しくなった。


ようやく独りの昼休みも終了し、

午後の授業が終わり下校時刻になった。


特段何もなかった。

というか記憶通り1日中一人だった。

これは同級生に恨まれている線は薄いか…。

だとしたら他の関係者だろうか?

もしくは全くの第三者?


徒歩10分の帰り道を歩きなから思考を巡らせた。


親が死んで保護された後。


確か警察は状況的に、

近しい人間の仕業だろうとか言ってた気がする。

なら第三者の線は薄れるよな。

じゃあ学校内よりも切り替えて、

周囲の人間を観察した方がいいか。

とりあえず人と絡むまでは一旦置いておこう。


帰宅した僕は台所横の洗面台で手を洗い、

テーブルの上にあるおやつらしき、

黒こげのホットケーキを食べた。


母は基本的に料理が下手だった。

というかものすごく食事に対してぞんざいで、

エサでも与えられてるかのようだった。


それでも食べ盛りの空腹感には抗えず、

丸焦げだったり時には半生だったりする物も食べた。

日によっては虫がついているものや、

腐りかけのものもあったが、

どうしても無理な部分だけ剥がして食べた。


日々そういう食生活であった。


今日の黒こげホットケーキは、

火加減がまともや所があまり無かったので、

我慢して全部食べた。


おやつ後は居間のテレビで少しアニメを観て、

終わったら自分の部屋で漫画を読んだり、

絵を描いたりして過ごした。


これが唯一の楽しみだった。


漫画は父が週刊誌を購入していたのを、

仕事で居ない時間帯に持ち出して読んでいた。


父はアパート経営者兼大工をしていたから、

平日は日中は外に出ていることが多かった。

なので学校帰宅後にこっそり持ち出していたのだ。


懐かしく思いながら、

部屋で寝そべりつつ漫画誌のペーシをめくる。 


漫画も当時のままで大好きだった、

「冤罪ヒーローイサムーン」も掲載されていた。


「冤罪ヒーローイサムーン」は、

冤罪をかけられた主人公イサムが、

突然ヒーローの力を手にし、

悪党をやっつけ人を救出しながら、

身の潔白を証明して行くというストーリーだった。


僕は逆境の中で悪に立ち向かい、

自他を救っていく主人公に一発で心奪われた。

そしてハラハラワクワクしながら、

イサムーンを毎週楽しみにしていたのだ。


この頃は漫画を読んでいる時だけは、

現実を忘れてられていたよな。


僕は逃げ場は非現実だけだったことを思い起こした。


予期せず孤独感が再浮上したのを感じつつ、

ページをパラパラと続けてめくる。

そして週刊誌の後ろまで辿り着いた。


そうそう、

最後の方にある作者の一言も好きだったんだ。


イサムーンの作家であるSEI先生、

いつもオモシロイこと書いてたっけ。


誌の末尾の方にある、

作者の一言の中から彼の枠を探し出した。


曰く、


「徹夜で体がヤバい状態で、

カップ麺食べようとしたら、

手元が狂って割り箸を鼻の穴に突っ込みました。

気を取り直そうとお茶を飲んだら、

どういう訳か全部鼻から吹き出しました。

人間としていろいろ終わってますね。」


ちょっ、お笑いのネタみたいじゃん!


漫画も面白くて本人も面白いって最高だろ、

最高の大人だ!!


あっ、そうだ。


SEI先生に憧れて僕も漫画家になりたかったんだ。

もうすっかり忘れてた。


…うーん、分かってはいたけど、

忘れていること結構ありそうな気がする。


そうして、

漫画雑誌を読み終えた辺りで母が買い物から帰宅し、

続いて父が帰宅するドアの音がした。


この後夕食だと思い居間へ行く。

夕食だけはいつも父と食べさせられていたからだ。


僕の父親は帰ると常に一方的だった。

自分がしゃべりたい時にしゃべり、

話したくない時はこちらを威嚇した。


疲れて話したくない、

とやんわり言うのではなく、

睨んで威嚇し口を閉じさせるのだ。


頭髪が坊主な上に、

体つきが筋肉脂肪の塊で怖いのに、

そうするとさらに怖さが増す。


加えてしゃべる時は常に自分の自慢話や母の悪口で、

僕の話は聞いてくれなかった。


なので物心ついた時から父が苦手だった。


だから正直接するのはイヤだったが、

食事と情報を得るために仕方なく、

一緒のテーブルに着いた。


彼はやはり僕の記憶していた通りの人であったし、

今日はそれを確認したに過ぎない感じになった。


父は母に夕食の文句をつけ、

母がずっと言い訳しているとキレ出して、

大声で怒鳴り散らす。

それでも言い訳するから怒りに任せて彼女を蹴る。


これが我が家のデフォルトだったし、

今日もデフォそのままである。


そしてフと思った。

恨まれているのは僕ではなく両親なのかもと。

ハッキリ言ってどっちも人格的に問題がある、と。


喚き合う両親の横で黙々と、

半分以上生焼けのハンバーグを食べると僕は、

そのまま父の経営する徒歩1分のアパートに向かった。


背後から、


「どこ行くの!母親がこんな目に合ってるのに!

あんたなんか産んだせいで私は不幸になった!」


という金切声が聞こえたが振り返らず走った。


向かった先のアパートは今時絶滅危惧種の、

風呂なし共同トイレのボロ。


ここをまだ使えるからと、

家賃2万数千円から4万円ちょっとで貸出していた。


2階建てで2階が単身用、

1階がファミリー用であった。


相場と比べてかなり安かったらしいが、

汚くてボロで風呂なし共同トイレだったため、

2階の単身用は1人しか入居していなかった。


僕はその人の部屋のドアをノックした。


ベニアっぽいペラペラの扉が開き、

中から20代前半の青年が現れた。


「海斗くんいらっしゃい。」


「清史さんこんばんは。」


身長170センチ後半でスラっとした体格の彼は、

体を横にズラして僕を通してくれた。

1Kの部屋に遠慮なく上がると小さく口を開き、

遊びに来たと告げる。


「僕も今帰って来た所なんだけど、

海斗くんはこんな時間に大丈夫なの?」


時計の針は7時過ぎを指している。

学校の先生というのは朝早くから夜遅くまで、

仕事があるんだなと思った。


「大丈夫、トランプしよう!」


清史さんはゲーム機も持っていたのだが、

僕が興味がないのでいつもトランプやウノ、

ボードゲームをしていた。


彼はおもむろにトランプを出すと、

シャカシャカと慣れた手つきで切り始める。


「僕の小学校だとみんな電子ゲームをしてるのに、

海斗くんは今時珍しいね。」


「うん、イマイチ面白さが分からないんだ。」


「そっか、ババ抜きでいい?」


「うん!」


やはり慣れた手つきで配り始める。

僕は余計なことを言わずにただ受け入れてくれる彼に、

一時だが癒されていたのを思い出した。


けれど当初の目的を忘れてはいけないと、

少し探りを入れてみることにした。


「清史さん、アパートの住心地はどう?」


彼は柔和な顔立ちの中の眉を少し寄せて、

捻り出すように答えた。


「うーん、安く住まわせてもらってるからなぁ。

下の階がちょっとうるさい時があるけど、

子供もいるから仕方ないのかなぁと思ったり。」


「そうなんだ…名前何だっけ?

僕、人の名前覚えるの苦手なんだ。」


「確か鈴木さんと田中さんだったと思う。」


「へー。」


このあとは普通に雑談したが、

特に引っかかる点もなく、

ババ抜きを2回戦やって8時過ぎに帰宅をした。


それから約3週間。

別段なにも起きなかった。


そしてゴールデンウィークに突入。


休暇中の親戚が次々とやって来た。

本家である我が家はよく、

まとまった休日に血縁者が訪問しに来ていた。

僕は親戚も嫌いだったが1人だけ割と好きな人がいた。


その人は母のお兄さんでつまり伯父さん。

彼は妹の様子を観に来ている感じだった。

それでもいつも訪問時には、

僕にお土産を持って来てくれていた。


「今日はパウンドケーキと、

イサムーンのフィギュアだよ。」


あっ!そうだ!

この位のタイミングでイサムーンがアニメ化したから、

それでフィギュアも販売されたんだ。


アニメは運良く父が入浴中の時間帯たっただから、

もちろん最初から観てたけど、

フィギュアは持ってなかった、嬉しい!


「ありがとう、伯父さん!」


「あら、いつもごめんなさい兄さん。」


ササッと母が後ろから現れて、

パウンドケーキを手から取り上げ、

耳元で囁いた。


「一人で食べないでね。」


据わった目でこちらの目を見られた。

確かこうやって年始のお年玉も取り上げられてたっけ。

彼女はものすごくケチだったから。


けどさすがにフィギュアは、

興味のない大人には宝の持ち腐れだし、

むしろ自分が買わずに済んで得したとでも思っているであろう。


無意識に手の中に残されたそれをギュッと握りしめる。


「あんなのでごめんな。

なにか困ったことがあったら言ってね。

警察官の私が駆けつけるから。

あっ、でも担当外だと私が面倒見れないかもだけど。」


彼の職業は警察官だったせいか、

頼りになりそうな筋肉質な体格だった。

その大きな手で頭をポンポンと触られた。


見た目に反してとても穏やかな性格で父は、


「あいつは出世できないタイプだ。」


と言って見下していた。


けれど本当に穏やかなだけの人間なのだろうか?


あんな事件があった後だから、

好きという感情と裏腹に思わず穿って見てしまう。


「伯父さんはなんでわざわざウチに来るの?」


念のために探りを入れてみた。


「兄が妹を気にするのはヘンかい?」


それは確かに…。

世の中にはシスコンというジャンルもあるし。


結局僕にはこの程度では、

表面化していない思惑があるのか、

よくは分からなかった。


そうして何事もなく1ヶ月が過ぎた頃、

小さな事件が起きた。


こっそりと可愛がっていた野良の子猫が、

死体で発見されたのだ。

アパートと家の間に使われていない倉庫があり、

そこで時々エサや水を与えていたのだが、

夕方に行ってみたらぐったりと冷たくなっていた。

お腹から血を流して…。


猫同士のケンカだろうか、

それとも他の野良の動物?


ショックであると同時に、

なにか違和感を感じた。

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