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1・誕生日と命日


この日は僕の誕生日、

そして命日の5日前となる。


ずっとずっと…あやふやなままだった。

僕には気が付くと確かなものなど何もなかった。

なのに今日で「大人」になってしまうらしい。

こんな人間が大人になっていいのだろうか?

本当に大人と呼べるのだろうか?

考えが逡巡する…。


結局その答えは今日も出ないまま僕は、

2025年4月10日にハタチになった。


新生活を初めるこのアパートは、

築45年で木造2階建てである。

もちろんセキュリティなんて、

簡素で安っぽい玄関の鍵しかないが、

お金がない僕には住めるだけマシだった。


実は引っ越しの話をした時に、

防犯の甘い物件は良くないと伯父に反対され、

彼が世話を焼こうとしてくれた。


だがもう、

他人に面倒をみて貰うのはイヤだったから断った。

しかしそうすると、

審査の甘い物件しか選択の余地がなくなる。


そう、

僕はまだ就職先も決まっていない。

正確にはお金がないという以上に、

この状況で仕事に就けるか分からない、

という方が正しく、

さらに審査が通りにくくなってしまったのだ。

僕の最終学歴が専門学校である、

という理由だけではない事情があるからである。


もちろん担当の先生たちも探してくれたが、

結局どこの会社からも拒否されてしまった。


この先どうなってしまうのか…。


とにかく引っ越しの片付けをしながら、

継続して探すより他にないよな。


僕はまた同じ結論に達した。

そして夜となり、

少ない荷物を端に寄せ寝る場所を作り、

布団を敷いて眠りに就いた。


まだ慣れていない部屋と環境で、

なかなか寝付けなかったが、

1時間もするとウトウトまどろむ事ができた。

だがその瞬間に心地よさは打ち破られた。


「ピンポンピンポーン」


インターホンを押す音がしたからだ。


えっ、今、夜中の12時だよな。

こんな時間になんで…セールスなわけないし。

勧誘以外で突然僕を訪ねて来る人間なんて、

全く思い当たらない。


戸惑う気持ちを抑えてドアを凝視する。

音も止まったし他の部屋と間違われたのな?

そう思ったのも束の間。


「ピンポンピンポンピンポンピンポーン」


今度は連打されたのだ。


一体何者なんだ!?

誰かのイタズラか!?


僕は恐怖に慄いて(おののいて)、

ただ固まったままドアを見つめるしか出来なかった。


連打は1分間程続いたが無事に鳴り止んだ。

それが永遠の時間にも感じたし、

緊張で気が立ってしまいさらに寝付けなくなった。

仕方がないので明け方まで起きて、

スマホで求人情報を見て過ごした。


引っ越し初日はこんな風に終わった。


2日目の朝。

喉元過ぎれば熱さを忘れるというが、

僕は昨夜のことを半分位は忘れていた。


きっと誰かが部屋を間違えたのだろうと思ったし(思いたかったし)、

これからの生活を考えれば仕事を見つけることの方が重要だったからだ。


なので歯や顔を洗って身支度をしたらすぐに外に出た。


ハローワークやネットではすでに探し尽くしてしまっていたので、

街を歩いて求人の張り紙をしてある所を探すことにしたからだ。


いくつかあったのでスマホで写真を撮り、

引っ越した街の散策をしながら格安ランチを食べたりした。


そして夕方に帰宅。

スーパーで調理器具と食材を少し買ったにも関わらず、

簡単にカップラーメンを食べシャワーを浴びて、

夜10時には布団に入ったのだった。


かなり歩いたのと前日の睡眠不足で疲れていて、

すぐに寝落ちることができた。


だがしかしまたしても僕の眠りは打ち破られる。


「ピンポンピンポーン」


はっ!?え!?


重い瞼を頑張って持ち上げながら、

少し身を起こしてドアの方を見た。

そして昨夜のことを思い出した。


今日もかよ?


時計を確認すると昨日と同じ夜中の12時であった。


何かのホラーか、

それとも僕の身の上を知った人間がイタズラしている?


再び恐怖が押し寄せてどうしようもなくなり、

布団を被って耳をふさいだ。


3日目の朝。

僕はいつの間にか寝てしまっていたようで、

毛布をかぶったまま目を覚ました。


正直怖くなり一歩も外に出られなかった。


そして…。


結局この日の夜と翌日も同じ時間に、

チャイムが激しく鳴らされた。


4日目に恐る恐るドアスコープから外を確認してみたのだが、

角度が悪いせいか相手の姿を目視することは出来なかった。


5日目には僕のメンタルは追い詰められ、

恐怖を通り越して怒りに変わっていた。


何が目的かは分からないが眠れないししつこ過ぎる。

いい加減にして欲しい。


イラつきが極限に達していた僕は、

今夜はドアを開け注意しようと決心してしまった。


そして夜中の12時。


「ピンポンピンポーン」


やはり来た。


待ち構えていた僕は、

勢いよくドアを開け荒げた声を出した。


「なんなんですか一体!いい加減に…。」


バチッ。


とんでもない刺激が全身を駆け巡り、

脳がシャットダウンする感覚を覚え、

そのまま気を失った。


続くドスッという振動と、

鈍い熱いような痛みで意識が戻った。

見たことのある古い木材の天井や、

まだ残っている段ボールの匂いで自室と理解した。

横を向くと玄関から出て行こうとする、

全身黒ずくめの人間が視界に入った。

それから胴体に目をやると、

腹に買ったばかりの包丁が突き刺さっているのが分かった。


あぁ、こいつ用意周到だな。

自殺に見せかけるためにうちのと同じ包丁を使ったんだ。

ていうかどうして僕がこの包丁を買ったことを知ってる?

後を尾けられていた?


そんなことを考えた瞬間、

再び僕の脳はシャットダウンをした。


それはさっきとは比べ物にならないような、

重たいシャットダウンだった。


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