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ヴァルキリースコアボードの8

 今日も今日とてランニングを終えて家で寝転んでいる。普段ならば今頃だらだらするなと檄を飛ばされている頃だ。それをだらだらテレビを見ているフロゥが言って来るのだから溜まった物ではない。しかし昨夜の焼肉に満足したのか今日の所は何も言って来ない。俺も焼肉には舌鼓を打って味や食べた量を考えれば安かったなと非常に満足している。しかしおかげでしばらく激安スーパーの半額弁当を探すか自炊を頑張るか考えないといけない。仕送りまではまだ少し日があるしどうにか凌いでいかなければ、寝転びながら拳を掲げる。

「真白、A5ランクの黒毛和牛だと。ここからそう遠くないんじゃないか? 今度食べに行くぞ」

 のんきなヴァルキリーの声が部屋に響く。俺に何か応える気力は残っていなかった。


 大学二年生である俺はまだまだ必修の講義が幾つも残っており、それらで時間割を埋めて行くと月曜から金曜まで毎日大学へ通わなければならない。一年生の頃も似たようなもので大学生は遊んでばかりと言う認識だったがそうは言っても結構な時間が学業に吸われている。待ち遠しきは休日だ、俺は大学に入ったばかりの頃はそう思っていた。

 大学に入って半年ぐらい経った時のこと、ふと思った。休みの日にすることが無い、と。元々友達の少ない俺には大学に入る前からの友人は勿論、大学に入ってからも友人がウッシー以外に出来ることは無かった。サークルなどの活動やバイトもやっておらず、そういう意味では時間は随分と余っていた。一人の時間がたくさんあったのだ。そして俺はその時間を床に寝転び動画を見ることに使い続けた。

 今となっては高校までの宿題の文化が懐かしい。あれは俺にとっては暇な時間を潰すことが出来る救世主だったのだと理解できる。出来の悪い俺には少々難解なこともあったが、それは逆に有り余る時間を丁度良く使えるということでもある。週末は何時間も机に向かってペラペラの紙一枚に書かれた問題を解いていたことを今でも覚えている。

 休日をつまらない宿題に費やし、その時間に見合わない成績を成果として持って帰る俺を両親はどんな風に思っていたのだろう。通知表を見せた時の無感動な表情はいつまで経っても忘れられないだろう。大学に行くと言った時も一人暮らしをすると言った時にも同じ表情だったし。この先もそれは変わらないものだと受け入れて俺は俺の人生を生きて行く……。

 考えるのを止めよう。暇な時間に動画を見続けていたのはこんな風にネガティブな思考の渦に飲まれない為もあったのだと思う。くだらない、つまらないと思いながらもぼーっと何かが起こっている画面に見入っている限りそこで起こっていることしか考えないで済むから。

 それはそれとして、今本当に考えたいことは、そう、サークルについてだ。

「サークルかぁ」

 俺はなんとなしにスマホでサークルについて調べていた。有名な大学だとサークルのホームページなんかを作っているところもあるようだ。流石に俺の通っている底辺私立大学ではそんなサークルは無さそうだが。まあそれはそれとして適当に幾つか見てみるとしよう。

「……うわ、会費とかいるのか。結構高いのもあるな。……こっちのは活動日少ない、毎日やってるわけじゃないのか。活動場所も校外とか普通にあるし部活とは全然違うな」

 部活の大学版と思っていたが何だか全然違いそうだ。まあ帰宅部だった俺が何を語れるのかという話ではあるが。

 うるし先輩と更に仲良くなっていくにはサークルに入った方が良いと言うのはわかる。しかし正直俺にはハードルが高い。先輩のいるDIYサークルがどの程度の規模なのかはわからない、が、先輩以外にも複数人がいるのは間違いない。初対面の相手がいる場所にいきなり入って行くのか、しかも特別DIYに興味があるわけでも無いのに。

 ……いや、違うか。

「DIYかぁ」

 俺はゴミが無くなり殺風景になった部屋を見た。ミニマリストと言うと聞こえがいいかもしれないが俺の場合は単にそこに置きたい物が無いだけだ。

 俺は俺の人生を彩るべきものが何なのかわからない。逆に言えばとりあえず何でも置いてみればいいのかもしれないな。そう思いスマホを取り出す。

 現代を生きる上での必需品とは何かと問われれば間違いなくスマホと答えるだろう。疑問に思った時にすぐにネットで検索することが出来るのが便利過ぎる。これが無かった時にどんな風にしていたのか今や想像することもできない。

「フロゥ、ちょっと出かけて来る」

「そうか行ってこい」

 テレビの野球放映を見ているフロゥは俺のことなど気にする素振りも無い。スコアボードの点数はどうなっているのだろう。野球のと俺のと、少しだけ気になっていた。


 休みの日に食べ物を買いに行く以外で出掛けるのは久しぶりだ。最近は本当に部屋でぼーっとしてばかりだったから。フロゥがいたら蹴飛ばしてでも外に連れ出してくれただろうか。いや、あいつは自分の利益にならないことはしないな。現に今もついて来ていない訳だし。

 フロゥの計画は順調なのだろうか。俺とうるし先輩は少なくとも知り合い程度の仲にはなったはずだ。元々は話することも無いだろうと思っていたわけで、そこから考えれば急速に仲良くなっている。ここから先も奴の計画に乗っかって行けば本当にうるし先輩に告白する日が来るのかもしれない。流れに身を任せよう。奴もそれを望んでいるはず。

 最近は本当に暖かくなってきて、太陽の日差しもそろそろ嫌になる時期だ。今もその輝きが目に眩しくて痛い。

「……流れに身を任せるだけじゃ駄目だよな」

 本当はこのままじゃいけないことぐらいは分かっている。奴もそれを望んでいる? フロゥは言っていたじゃないか、己の力で戦えと、たぶん、そんな感じの事を、言ってたよな? とにかく任せ切りは良くないということだ。少なくともこのままじゃ例の点数は上がらない気がする。いつまで経っても45点だ。

「45点でも別に良かったんだけどな、点数が低いのなんて当たり前だし」

 中学、高校とそんな点数を山ほど取ってきたのが俺だ。点数が低いのには慣れ切っている。……慣れ切っていたはずだが。

「まあ、そうだな。フロゥが怖いからってことで」

 点数を上げようなんて思ったのは……、そうだな。随分と久しぶりだ。

「よし、走って行くか」

 筋肉痛にも随分と慣れた。とにかく足は動かせば動くということが最近は分かって来たので無理矢理に走り出す。目的地は決まっている、何でも揃っていると噂の近所のホームセンターだ。


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