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ヴァルキリースコアボードの15

 比良坂うるしの誕生日当日。待ち合わせ場所には緊張した様子の真白が一人で立っている。遠目でもがちがちに身体が固まっていて緊張しているのが丸わかりで見ているだけで不安ではあるが、折角のイベントにわざわざ邪魔者が入る理由は無い。

 真白は屑だが誠実な奴だ、何とかなるだろう。

「おっ」

 不意に真白が立ち上がって手を振った。その先には比良坂うるしの姿、ひとまず予定をすっぽかされるという事態が無くなったので一安心といったところだ。来てすぐに周りをきょろきょろと見ているのはおそらく私を探しての事だろう。

「私は急に実家に呼び戻されたことにでもしろ」

「……一人で行けってことか?」

「当たり前だ!」

 昨日あった会話が思い出される。真白は今適当な理由を付けて実家に戻っていると説明しているはずだ。比良坂うるしはそれに納得したのだろう、すぐに切り替えて真白の手を引き歩き出した。それは緊張した様子の真白を慮ってのことかもしれないし、単に生来の性格なのかもしれない。

 意外にあの二人は相性がいいのかもしれない。

 ケーキバイキングへ入ると、当然だがそこには大量のケーキがある。当然であるが、真白たちと同行しないからと言って私がケーキを食べない理由は無い。どうせ様子を見る為に近くにはいるのだから変装して食べに来ていた。皿に山盛りのケーキは見ているだけでも気分が上がるしいいものだ。

「すごいよ隣。あんな食べるんだ」

「見た目通りじゃない?」

「それもそっか」

 隣から少し馬鹿にするような声が聞こえるが今は騒ぎを起こすわけにもいかない。監視業務が無ければなぁ。 

 さて、あの二人は、と。緊張のあまり拳を握り締め口数少ない真白と、その様子を困ったように見つめる比良坂うるし、とてもデートには見えないな。まあ、あの二人がそう思っているかはわからないが。


 なぜフロゥは付いて来てくれなかったんだ。

 いや、理由はわかる。二人きりの方がより親密になれるとかそういうことだ。

「いいか、告白がOKされる可能性を高めたいなら友達じゃなく恋愛対象として認識される必要がある。私を含めて三人で友達、じゃ駄目なんだ。だからこれからは私がいないことも増えるだろうな」

 この前、バイトをしている時にそんなことを言っていた。しかしこのタイミングでいきなり二人きりにさせられると正直困る。心の準備が出来てないんだよ、こっちは。

「真白君、もしかして甘い物苦手だった?」

「え、あ。いえ、好きですよもちろん! 家でも甘い物ばっか食べてますから」

 はははと笑いながら目の前のケーキを切り分けて口に入れる。うん、味がわからん。何食っても一緒なら好き嫌いなく食えるってことだな。しかし緊張のあまりうるし先輩に心配をかけてしまうとは。こんな調子じゃ恋愛対象どころか友達からも外されてしまう。

 何か話をしなければ。

「コミュニケーションの基本は聞かれたことを聞き返すことだ。自分も相手に興味があると伝えることが大事なんだ」

 フロゥのそんな声が聞こえた気がした。まさかいるんじゃないだろうかと周囲を見てみたが、そこにはケーキを食べるカップルや女性客ばかり。中には皿に山盛りに積んでいるでかい女の人もいて思わず目を引くが、フロゥらしき影は無かった。

 そんなことをしていると不思議と肩から力が抜け、うるし先輩を正面から見ることが出来ている。

 ……俺はフロゥに世話ばかりしてもらっているな。


 さて、私の声でも聞こえたのか真白が挙動不審になっていたがそれが終わればようやく口を開き始めた。

「先輩はケーキ好きなんですよね。前にショートケーキは外せないって言ってましたっけ」

「そうそう、そーなの。やっぱり生クリームたっぷりでぇ、イチゴも可愛いよねえ。真白君は何が好きかな?」

「あーっと、ショートケーキ……、も好きですけど、僕はチョコレートケーキの方が」

「チョコレート! いいよねぇ、私は周りをちょっと固いチョコで覆ってるやつが好きなの」

「あ、いいですね。僕もそのタイプが――」

 ようやく二人の間で話が盛り上がり始めた。全く、世話の焼ける奴だ。しかしきょろきょろし出した時は気付かれるかと思ったが何重にも服を着て体系を誤魔化しているからな、不要な心配だろう。

 しかし二人の様子を余所から眺めているだけの時間は、まあ、不毛で退屈だな。ケーキを食べながら見るままごととしては丁度いい。私ほどの経験豊富なヴァルキリーとなれば真白のような屑であってもあっという間にここまで導いてやれるという訳だ。

「……このペースならラグナロクに間に合うか?」

 今度いつ始まるのか聞いておかないとな。


 ほとんど味のわからないケーキを腹に詰め込んでいるといつの間にか時間が来てしまった。90分と言うのは思ったより短いものだ。それともうるし先輩といるからそうなのか。……先輩はどう思っているのだろう。

 店を出て、その先の予定はとりあえずない。ただ一つやらないといけないことがまだ残っているが。

「ケーキおいしかったねぇ」

「そうですね」

「今日はわざわざありがとうね。私の誕生日だからって奢ってもらっちゃって」

 ……そう、今日は先輩の誕生日。幸いにも俺が、というかフロゥが誘った時点ではまだ先輩の予定が空いていたので当日に誕生日を祝うことが出来たのだ。

 しかしこれで終わりではない。俺はずっと持っていた鞄の中身を取り出す。

「先輩、これ」

「え……、もしかして誕生日プレゼント?」

「ええ、その、不格好ですみません」

 下手糞なラッピングに包まれているのは通販で取り寄せたせいだ。流石にそのまま渡すのは無粋だと言われて包装紙を買いネットで調べながらラッピング……、何度失敗したか。結局できたのもこんな出来だし。

「ううん、これ真白君が包装したの?」

「あ、はい。一応、ネットで調べながら……」

「そうなんだぁ」

 うるし先輩は愛おしい物でも見るように優しい目でその不格好な箱を見つめる。俺は思わず何か熱いものが込み上げてくるような気になった。少なくともやって良かったとは心から思う。

「えっと、折角包んでもらってるけど、開けていい?」

「あ、もちろん。その、ぜひ」

 まあ当然開ける前提なのですぐにそれは取られてしまうが、それでも何と言うか、気持ちの面では大きな違いがあったはずだ。それからうるし先輩は丁寧に包装紙をはがし、中身が露になる。

「あ、これ……」

 中身は先輩が欲しがっていた電動ドライバー。約50000円と言う出費は痛かったというか、バイト代を全て突っ込みなんとか買うことが出来た。短期間でこの金額稼げるバイトを紹介してくれたウッシーには頭が上がらない。

「え、あ、高かった、よね?」

「いえ、全然そんなことは」

「でもこれこの前話したやつでしょ? こんなに高い物貰えないよ」

 困ったように俺を見つめる先輩を見て、思わずこんな姿も可愛いななんて思ってしまったのは許して欲しい。もっとも困らせるのは本意ではないので早急に対応せねばならないが。

「あー、とですねえ。これはぜひ先輩に受け取って欲しいんです」

「でも真白君苦学生なんでしょ?」

 代表から聞いたのか? 苦学生と言うほど困ってないというか、そもそも普段バイトなんかしてない身なのでそう言われると罪悪感みたいなものが芽生えてしまう。

「いや、親からの仕送りもありますし苦学生と言うほどお金に困ってないですよ。まあそれはそれとして、これは誕生日プレゼントなんですけど、それだけじゃないんです」

「それだけじゃない?」

「……先輩への感謝の気持ちを、その、形にしたかったというか」

 うるし先輩は知らないだろう。俺が先輩にどれだけ感謝しているか


 先輩に初めて会った時、俺たちは単に一緒に勉強をしただけだった。期末試験を前にして参考書を一緒に見ていたというただそれだけの話。それでも、その短い時間に俺が受け取った物はあまりに多い。

「誰かと一緒に勉強するなんて久しぶりだよぉ」

 そう言って朗らかに笑う先輩の事を覚えている。

「ここが大事なんだよねぇ」

「そうなんですか? ちょっと待ってください、覚えます」

「ゆっくりでいいよ」

 必死になって覚えようとする俺を見ても邪険にせず穏やかな笑みを浮かべる先輩のことを覚えている。

「あ、もう時間だ」

「ですね。あの、ありがとうございました」

「いいよぉ、お礼なんて。お互い頑張ろうね」

 先輩が差し出してくれた拳にグータッチと言うのを生まれて初めてしたことを覚えている。


 人と言うのは無能な人間に厳しい。俺は小さな頃からそのことをずっと身に染みて理解している。親も先生もクラスメイトも俺の要領の悪さを知ってからは一切の期待を捨ててただ面倒臭そうな目で俺を見つめていた。運動会で毎年頑張っても四着にしかなれない人間に走る努力をする意味が無い、それ自体は俺だって間違っては無いと思う。ただ、そう断じられた人間にとってその事実は思ったよりも辛いというだけだ。

 先輩とはほんの短い時間だけ一緒に勉強をした。俺はその間、久しぶりに人に期待されるということを思い出していた。たとえそれが俺のことを全く知らなかったからだとしても、その事実に随分と救われていた。

 今学期に入って講義で先輩を見かけ話しかけなかったのは単に覚えていなかったか不安だった、というのももちろんある。でもそれ以上に怖かったのは、俺の中身を知ってあの時の笑みが侮蔑の表情に変わるのが怖かったのだ。

 でも。

「俺って、あんまりその、要領が良い方じゃなくて、っていうか悪くて。そんなだからあんまり俺と長いこと付き合おうって人いなかったんですよ。だから先輩が俺の作ったあの不格好な木箱を見ても笑わないでくれて、それどころかサークルに紹介してくれたのが嬉しくて、本当に感謝してるんです。だからこれはそのお礼ってことで貰ってください」

 先輩が俺を見る目が変わることは無かった。俺はそのことに救われていたのだ。先輩を好きになったのはほんの一時優しさを受けたからだが、好きでい続けたのはそれだけが理由じゃない。まあ、うん、見た目とかもあるけどね。

「真白君……。そんな風に思ってくれてたんだ」

 俺が少し感慨に耽っていると先輩が両手でプレゼントを握り締め何かに思いを馳せているかのように目を細めていた。そして不意に決心したように口を開く。

「……実はさ、真白君に会ったのってこの前が初めてじゃないんだよ」

「え?」

「覚えてないかな。二月の期末試験の時に真白君教科書忘れてて、私と一緒に勉強したんだよ。短い時間だったけどね」

「……あ、ああ。ありましたね、そんなこと」

 覚えてたんだ。でも今までそれを覚えている素振りなんて一度も見せたことないはず。

「真白君は気付いてないかもしれないけど、私って実は結構馬鹿なの」

「え?」

「要領が悪くてよく怒られてね。大学でも単位をもう三つ落としてるから大変なの」

 ……そう言われればあの時に先輩が参考書を見せてくれた講義は一年の時に受ける必修科目のはず。先輩が先輩である以上本来なら一年前に単位を取り終えていなければならない授業だ。今一緒に受けているゲド先の講義も同じ。

 まあ、うん、頭が良いとは言えないような。

「他の事もあんまり上手く行かなくてね。バイト先でもポンコツだしサークルでもいっつもみんなに迷惑ばっかり。……真白君をサークルに誘ったのも本当は……、私より駄目な人がいればいいなって思ったのかも」

「……先輩」

 その気持ち、半分ぐらいはわからなくもない。

「だから、やっぱり受け取れないよ。これ」

 先輩は相変わらず微笑みを向けてくれている。しかしその中には哀しさとやるせなさが入り混じったような陰を感じた。お高い電動ドライバーの箱は先輩の指で少しだけ潰れている。

 感謝を受けるに値しないと、そう言いたいのだろう。でもそれは間違いだ。

「うるし先輩がどう思っているかは関係ないんですよ」

「え?」

「僕が渡したいと思ったんです」

 たとえ先輩が何を考えていたとしても俺はこのプレゼントを渡すと決めたのだ。

「先輩がサークルで僕の作った木箱のリメイクに成功した時に自分の事のように喜んでくれたのを覚えてます。その夜に僕がサークルに入ると言って自分の事のように喜んでくれたのも覚えてます」

 期末試験の時に見ず知らずの馬鹿な奴と一緒に勉強してくれたのもはっきりと覚えてる。

「それが僕が先輩に感謝している理由ですよ。先輩が内心何を考えていたかはどうでもいいんです」

 そうだ、俺が先輩を好きなのは。

「俺が勝手に先輩に救われたってだけなんです」

 この世にまだ俺に何かを期待してくれる人がいるって気付かせてくれたからだ。

「……真白君」

 先輩は俺を見つめて黙り込む。浸り過ぎたかな。正直いきなりこんなこと言われても困るのは当然だと思う。それに冷静に考えると感謝の気持ちとか言って高価な物を送って来るやつって重いというか怖いというか。

 ひょっとしなくても俺、やり過ぎてないか?

 段々と怖くなってきたのでこの場から今すぐ逃げ出したくなってきた。いや、行くか? 今なら行けるか?

「えっとじゃあ、先輩、またその、また」

 踵を返して逃げ出そうとした俺、の、手を掴んで引き留める先輩。

「……えーっと」

「真白君、ちょっと歩かない?」

 え、あ、うぉ。これどうすればいいんだ? フロゥはいないか? 助けてくれ!


 先輩と夜の道を歩く。残念ながらフロゥは姿を見せず相変わらず二人きり。良いことのような気もするが、さっきからずっと無言で今の雰囲気にそろそろ耐えられそうにもない。

「あの、先輩、これどこに向かってるんです?」

 そういう訳で聞いてみる。せめて行き先ぐらいは知りたい。

「んー」

 先を行く先輩は少し歩を緩めると人差し指を口元に添えながら小さく口を開く。

「内緒」

 く、そんな可愛らしい仕草と共にそんなことを言われたら何も言えないじゃないか。俺に出来るのは熱くなった頬を手で冷やすぐらいだ。赤面しているのを隠すとも言う。

 しかしもう十分ぐらいは歩いているだろうか。先ほどまでいたのは駅前の賑やかな場所だったが今は人通りもあまりなく薄暗い街灯が道を照らしている。駅の近くにもこんな場所があるのか。

「着いたよ」

 そんなことを思っていたら目的地に辿り着く。そこは全く人の気配が全くない公園。まあ夜だからそんなもんだろう。というか夜に公園にたむろするのはろくな連中ではないのでいなくて良かった。

「この公園はねえ、私のお気に入りの場所なんだ」

「この公園がですか?」

 滑り台とブランコ、それに砂場があるだけの公園。そこまで広くなくて生垣があまり手入れされていない公園。草も伸びている人があまり来ていないのが一目で分かる公園。

「趣がありますよね」

「趣あるかなあ」

 精一杯の気を遣った言葉があっさり否定されてしまった。じゃあこんなのただの寂びれた公園じゃないか。

 ブランコでもこぐのかと思っていたが先輩は砂場と周囲を仕切る段差に腰かける。若干躊躇いながらその隣に座った。

「ここね、全然人が来ないんだ」

「そん……、でしょうね」

 反射的に否定しかけたが多分先輩はそんなことを望んではいないだろう。ありのままに思ったことを話すとしよう。

「ぱっと見の印象がもう人が来なさそうというか、正直あんまり近付きたくないと思います」

「あー、ちょっとわかる」

 わかるのか。

「だからここにたまに来るんだよね。一人になりたくて」

 思わず唇を噛んで黙る。何か言うべきなような、しかし言うべき言葉が見つからないようなそんな気分だ。

「誰かと一緒にいるのって疲れるの。みんなと足並みを揃えたいんだけどその為にはみんなよりずっと頑張らないといけなくて。みんなが一歩で進む距離を私は五歩ぐらいかけて歩いているのかもねぇ」

「難しいですね」

「でもね、みんなは優しいんだよ。私が追い付くのを待ってくれるし追い付こうとして頑張ってると手を貸してくれるの」

「いい人たちですね」

「うん、友達には恵まれたんだね。ただどうしてもちょっと、疲れちゃうよねぇ」

 疲れる、か。それは頑張っているからこそ出て来る言葉じゃないだろうか。何かしらの努力を行っているからこそ疲れた、そう感じることが出来るのだ。

 ……フロゥが来るまでの俺はどうだっただろう。高校ぐらいからだろうか、色々なことを諦めてただ漫然と過ごす日々は疲れとは無縁だったんじゃないだろうか。

「僕は」

 そう思っていると自然に言葉が出た。

「僕は先輩の事を尊敬してるんです。僕と違って前を向いて歩けるのが、すごいって、心の底から思ってます」

 偽らざる本心。その言葉を聞いたうるし先輩は、不思議そうに首を傾げていた。

「……僕、変な事言いました?」

「うん」

 そんなに変だったか。まあそうかも。唐突だし、いきなりそんなこと言われてもおべんちゃらにしか聞こえないよな。きっと不快な思いをさせてしまったに違いない。

「だってさ」

 しかし俺の思いとは裏腹に、先輩は優しい微笑みを浮かべていた。

「真白君も私と一緒でしょ?」

 一緒、同じ、同一。……どこが?

「僕は、その、全然ですよ。毎日だらだらと過ごしているだけで、全然……」

「ううん、真白君も頑張ってるんだよ。私が見て来た真白君はいつも頑張っていて、だから私も先輩らしくなれるように頑張ろうって思ったんだよ」

 先輩の曇りなき眼を見れば決して嘘など言っていないとわかる。この言葉は俺を思いやる嘘なんかじゃない。少なくとも俺はそう信じる。

 だとすれば、先輩の目から俺はどんな風に見えているんだろう。

 街灯の灯りは公園全体を照らすにはあまりに弱く、足元の砂場にある足跡が誰の者なのかわからない程度には薄暗い。この薄暗さなら先輩の表情をじっくり観察できるだろうか、そうすれば何を考えているのかわかるのだろうか。そう思って顔を横に向ける。

 先輩の顔が真正面にあった。

「「あ」」

 思わず視線を逸らした。完全に目が合ってもうただただ恥ずかしいというか照れ臭いというか。俺は先輩の表情を、そこから先輩が何を考え、想いここに来たのかを知りたかっただけなのに。

 しかし俺はここで負けないさ。そう思って再び先輩の方を向くと。

「……また目が合ったね」

 どうやら先輩はずっとこっちを見ていたらしい。観念して真正面から見つめ合う。……これ、めちゃくちゃ恥ずかしいというか、なぜだか思わず歯を食いしばってしまう。暑いというにはまだ時期がだいぶ早いはずなのに体温が上がって行くのを感じるしそれに伴って汗が出て来てる気がする。

 どのぐらい見つめ合っていたのかわからないが、先輩も顔が赤くなっていることに気付き思わず息が漏れる。

「……あの、先輩、顔赤いですよ」

「真白君もだよぉ」

 ぷっ、と二人同時に吹き出して大声で笑った。何で笑ったのかは分からなかったが、その瞬間はとても楽しくて、うるし先輩もきっと同じように思っていると確信していた。

 近所迷惑も考えずに笑い続け、俺の息が切れ出したのでようやく笑い終える。

「ーっ、あぁー。ふぅー、ごほん。あぁ、なんか笑い疲れました」

「あはは、真白君大丈夫? 声がらがらだよぉ」

「ああ、まあ。一応、こんな笑ったの本当に久しぶりですよ」

 息が切れるぐらい笑うなんて何年ぶりだ? いやそもそもこんなに笑ったことはあるのか? まあどうでもいいか。

「……どうして僕をここに連れて来たんですか?」

「んー、なんとなくかなあ。もうちょっと一緒に居たいなって思って。どうせだから私のお気に入りの場所を紹介したかったんだ」

「そうですか」

 滑り台とブランコ、それに砂場があるだけの公園。そこまで広くなくて生垣があまり手入れされていない公園。草も伸びて人があまり来ていないのが一目で分かる公園。見えているものは何も変わらないのにさっきとは違うように感じている自分がいる。

 だとすれば変わったのは自分だろうか?

「先輩」

「ん?」

「いい場所ですね、ここ」

「だよねぇ」

 きっとここに来る度に先輩とのこの一時を思い出すだろう。


 人が通る気配の無い通り、それに面した公園。そんなところに二人の男女。

「良い雰囲気じゃないか、思いの外」

 電柱の上から二人の様子を眺めていたが意外にも話が弾んでいる。プレゼントを渡して終わりだと思っていたが真白のやつどうやら上手くやったらしい。

「……真白の一方通行だと思っていたが、比良坂うるしも真白に対して色々と思うところがあったということか」

 私は数千年の時を生きるヴァルキリー、故に人の感情に多く触れその機微には聡い。しかしだからと言って全てを見通せるわけも無し。それは多くの面倒を呼び込むが、時にはこんなこともあるということだ。

「この調子なら本当にラグナロクに間に合うかもしれないな」

 さて、後は二人に任せよう。帰ってきたら真白を揶揄いまくってやるとするか。


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