咲也の素質
「一撃で決めるしかないのかも」
傷の癒えた鳥から再び仕掛けられる猛攻を必死に避けながら、玄花さんがつぶやく。
「一撃でって・・・そんなこと可能なんですか?」
確かに、一撃で倒せば、回復されずには済むけど・・・。
咲也にそう尋ねられ、少し考えたのち、玄花は答えた。
「案は二つある。一つは仁くん次第、もう一つは咲也くん次第になるよ」
突然出てきた自身の名前に驚く二人。
「どういうことですか?」
「仁くんは、まだ魔人兵装が目覚めていない。だから、このままこの鳥と対峙していれば、もしかしたら発現するかもしれない。それがあれば勝機はあると思う。でも正直こっちはわからない部分が多すぎるから、作戦としては難しいと思う」
その話に、仁は悔しそうな顔をにじませる。
本人が一番、無念に感じているであろうことは咲也も玄花もわかっていたため、どちらにせよ命を張ってくれた仁にこれ以上重荷を背負わせたくはなかった。
「もう一つの案は?」
「ワタシが水の陰陽頭なのはもう伝えたと思うけど、ほかの人の水の操気を感じ取ることもできるの。咲也くん、キミの中に水の気が流れているのを感じる。もしこの場で、水気を習得して、魔人兵装と組み合わせることができれば、勝機はあるかもしれない」
「なるほど」
正直、黄我さんに聞いただけの知識では、気の操作などイメージすらついていない状況だ。
だから、水気を感じるといわれても、そうなのか、という感想しか出てこない。
だが、信念も実力もある玄花さんと同じ気を扱えることは純粋にうれしい。
「ただ、気を操る力は、才能のある陰陽師が何年も修行をして会得するようなものだから、正直こっちも望みは・・・」
「いえ、やります。今、この場で習得して見せます」
二つ返事で了承する。
元よりほかに選択肢などない。
やらなければ、やられるだけだ。
「咲也・・・」
「仁は無理しないで。さっきの作戦、本当に助かった!」
うつむいたままの仁の肩をたたく。
「大丈夫、あとは僕に任せて。仁は安全な別の塔へ行くんだ。」
仁はすまない、と一言告げ、東の塔へと走っていった。
仁の背中を見送り、玄花さんの方へ振り向く。
「玄花さん!水気はどうすれば扱えますか?」
「この符をあげる。水気の陰陽師が使う基本の札だよ。力を込めると前方に水を放てる」
そう言って手渡されたのは、不思議な模様のついたお札のようなものだった。
「符はあくまで媒体。自分の身体に流れる水分を意識して、それを符の力を借りて、外に放出する感じ・・・かな?」
「わかりました」
わかりましたと返事はしたが、あまり理解はできていない。
見よう見まねで細長い札を片手で握り、力を込める。
とはいえ、自分の中を流れる水など意識したこともない。
さらに、相手の攻撃を回避するのに意識を割く必要もあるため、符だけに集中することも難しかった。
そんな様子を見た玄花が、咲也のもとへ来る。
「どの道、ここで咲也くんを失ってしまえば、可能性もなくなってしまう。だから・・・」
そう言い、再び二人を覆うように水の盾を展開する。
「玄花さん?」
「気力の続く限り、咲也くんを守り続ける!咲也くんは操気に集中して!」
ドーム状の盾の外から、ガンガンと衝撃が加わる。
「・・・わかりました!」
覚悟を決める。
期待に応えられなければ、共倒れだ。
一度弓を置き、札を両手で抱え集中する。
全身を流れる水分。
自身の身体の末端まで酸素を届ける血液。血管外を満たす組織液。
それらが手に集まってくるよう意識する。
体液が一点に集まるイメージをしているからか、足先が冷えてきた。
だが、それと同時に、指先が熱い。燃えるようだ。
この熱が、玄花さんの言う「気」なのか・・・?
このまま、その熱を指先から符へと少しずつ移していく。
一気に移していこうとすると、手の先からこぼれていきそうで、目をつぶり集中する。
そして、符全体へいきわたったような気がしたタイミングで、意識を開放し、解き放つ。
「はああああ!!!」
しかし、放出されたのは、想像していたような攻撃ではなかった。
符から出た水は、鳥の方へ飛んでいくことなく、術を張る玄花を包みだした。