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命がけの作戦、そして・・・

 外で、咲也たちが怪鳥相手に苦戦する中、塔内では仁が突破口を探していた。


 「土の気は何ができる?」


 塔内にいた陰陽師へ尋ねる。


 「地面を隆起させて攻撃したり、岩を生成してぶつけたり盾にしたり、ですね」

 「なるほど・・・」


 だが、相手は空を飛んでいるんだぞ。地面を隆起させる?矢ですら避けるんだ。当たるわけがない。

 岩だって、生成して何になる。あの高さまで飛ばせるとでもいうのか。


 「くそ!」


 握りこぶしを柵へたたきつける。

 なぜ、俺にあの武器がないんだ。咲也にはあるのに、俺じゃだめだってのか?

 案を考えても、考えても、堂々巡り。

 どこまで行っても「力が足りない。」そこにたどり着いてしまう。

 本当に手段はないのか。

 その時、塔の下で悲鳴が上がった。


 「咲也!」

 「僕は大丈夫!掠っただけだ!」


 鋭い羽根があたり一帯に突き刺さっている。

 一体何個、攻撃方法があるんだこいつは。

 明らかに、自然に生まれる生物の域を超えているような気がする。野生動物にここまでの知能があるものだろうか?

 余計な考えに行きついていることに気付き、かき消す。


 そんなことどうでもいい。突破口を探せ!


 そして見つける。


 こいつは攻撃の際に、自分の座標を変えない。

 つまり、動かない。

 羽根や爪を動かすことはあれど、突進攻撃でもない限り胴体が動き回ることはない。

 こっちが空への攻撃に苦戦することを理解しているから、下に降りてこないのか。


 「いや、そうか・・・」


 仁の頭に一つの案が浮かぶ。


 しかし、これを実行するとなると・・・。

 いや、四の五の言ってられない。

 力がある咲也と無い俺。どちらが犠牲になるべきかなんて、小学生でもわかることだ。


 「なああんた。岩を生み出す符ってのは、あんたから遠くにあっても発動できるのか?」

 「えぇ、遠くからでも、そこに符があると認識できれば、可能です」

 「・・・わかった。そしたら、長めの縄やら紐やらを探してきてほしい。俺は最上階に先に行っている。急いで持ってきてくれ」

 「え?わ、わかりました」


 これでいい。

 失敗するかもしれんが、それでも今この状況を打破することができるのは、たぶん俺だけだ。

 数分後、縄を持ってきてくれた陰陽師に礼を言い、どんな状況でも、合図をしたら符に力を込めるよう伝え、もらった符を縄で緩めに、だが回数は多めに縛り、準備を終える。


 「・・・よし」


 屋上から下を見つめる。

 鳥は、下の二人に夢中。あいつが攻撃したその瞬間がチャンスだ。

 そうして機会を待つ。


 来た!風を起こす攻撃が!


 決意をして、屋上から飛び降りる。

 突然のことに驚く陰陽師の顔が少しだけ見えた。

 変な顔で見送られたもんだな。

 覚悟を決めたからか、頭の中はいやに冷静だった。

 これで、うまく鳥の上に着地する。やること自体はシンプルだ。失敗すれば、地面にそのまま墜落するが。

 目を開けづらいほどの向かい風。だが仁の観察した通り、鳥は攻撃中、座標をほとんど変えない。仁は見事、攻撃をしている最中の鳥の上に着地した。

 突然の衝撃にびっくりした鳥は、攻撃をやめ、背中に乗った何かを落とそうと暴れだす。


 「暴れるんじゃねえ!」


 必死にしがみつきながら、符のついた縄を羽の付け根へ縛り付ける。


 「今だ!陰陽師!!」


 最上階にいる陰陽師へ合図を送る。

 符に力が込められ光りだす。それと同時に、符はどんどんと大きな岩を生み出していく。


 「縄できつく縛ってあるからな、暴れても無駄だぞ」


 どんどんと重量を増す岩を背負う形となった怪鳥は、見る見るうちに高度を下げていく。

 しかし、なおも暴れ狂う鳥に、耐えきれなくなった仁は振り落とされてしまう。


 「仁!」

 「今だ、咲也!」


 振り落とされる友人に気をとられていた咲也だったが、声をかけられ、我に返る。

 作ってくれたチャンスを無駄にしないよう、力強く、何度も矢を射る。


 そうだ。それでいい。


 やってやったという思いと、墜落する痛みへの準備で目をつぶる仁は、突然ふわっとした感覚とともに、誰かに担がれている感触に陥る。

 目を開くと、玄花が仁を抱きながら、建物を使って降りて行っていた。


 「何やってる!攻撃のチャンスだろうが!」

 「人命救助が先に決まってるでしょ!」


 暴れようとするが、玄花の爪が食い込み痛む。

 そのまま高度を順番に下げていく玄花に、仁は降ろしてもらえないと悟ると抵抗をあきらめる。

 すると、抱えられたその状態のまま、玄花に話しかけられた。


 「ありがとう。仁くんのおかげで、咲也くんの攻撃を直撃させられたよ」


 そう言われ、怪鳥の方を見る。

 岩はすでに振りほどかれ、空へと飛び立たれてしまったが、かなりの出血をしていることがうかがえた。

 よかった、役に立てたんだ・・・。

 安心して、フッと力が抜ける。

 そのまま地面へ降ろしてもらうが、さっきまで死を覚悟していた極限状態だったため、いまだ夢見心地だった。


 「このまま、畳みかけよう!」


 勝機が見え、疲れが嘘のように吹き飛んだ二人は、攻勢を仕掛けようとする。

 すると、威嚇のつもりだろうか。突然目の前の鳥が空へ向かって、大きく鳴く。


 「・・・?何か聞こえないか?」


 それと同時に突然聞こえだしてきたのは、笛の音だった。

 美しい旋律とともに、怪鳥が空へ飛び立つ。

 いや、おかしい。先ほど咲也の矢で、羽ばたくのもやっとだったはず・・・!

 はるか上空を飛ぶ怪鳥に目を凝らすと、傷はすでに癒えて、元気に滑空している姿が見えた。


 「な、なんだと・・・」


 命を懸けた作戦すら徒労に終わった絶望と、与えたダメージが消えうせた虚無感に、戦意がそぎ落とされていく。

 不死身とでもいうのか・・・?

 全快し、大きな咆哮とともに再び襲い掛かってくる相手に、力が抜ける。

 傷を受けるたび回復するなら、どうやって勝てっていうんだ・・・。


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