京都の騒ぎ
どたばたとした音とともに目が覚める。やけに外が騒がしい。
変に目が覚めてしまった仁は布団から出ると、扉を開け、様子をうかがう。
慌ただしく、陰陽師らしき人物が行き来している。
そのうちの一人が、こちらへ気付き、話しかけてくる。
「仁様、ですね。下町にて、何者かの襲撃を受けております。くれぐれも部屋からは出ないようお願いいたします」
「襲撃・・・?」
あの式神は間違いではなかったのか?
「何が起きてる?」
「街中の動物たちが暴れだしたのです。それだけではなく、外から野生の動物が侵入してきておりまして・・・すでに黄我様や玄花様が向かっております」
動物が暴れだす・・・?
昼に見た光景を思い出す。
まさか、あれが前兆だったとでもいうのか?
「ちょっと待て、結界はどうした?」
「結界は天使からの侵攻を防ぐものであって、動物を足止めすることはできないのです」
なんだって・・・!
あの時、俺が報告をしておけば、こうはならなかったのか・・・。
後悔が押し寄せてくる。
「とはいえ、ただの動物。陰陽師が総出で事に当たっておりますし、相手も天使ではないので、鎮圧に時間はかからないでしょう。継承者様は、ゆっくりなさっていてください」
「・・・わかった」
そうだ。相手はただの動物だ。
なのに、この胸騒ぎはなんだ?
なにか、とんでもなく恐ろしい出来事の前兆な気がしてならない。
「そうだ、咲也は?」
「おそらく部屋にいらっしゃるかと」
おそらく。
つまり確認はしていないということか。
部屋を出て、咲也の部屋へ駆け出す。
ノックもせずに扉を開く。ノックなど必要ないと、なんとなくそう感じた。
やはり、部屋はもぬけの殻だった。
「咲也様がいらっしゃらない!?」
「あぁ、おそらくもう町へ行っている」
慌てだす陰陽師。
俺たちを守る役目を言い渡されていたらしく、動揺が目に見える。
「せめて仁様は」
「わかってる。待機しておけばいいんだろ」
話を遮り、そう伝える。
危険だとわかっていて、みすみす下りていく気はない。
咲也だってそれを承知で降りて行ったはずだ。
そう考え、部屋へと戻る。
しかし、安全な場所にいたって、気持ちは一向に晴れない。
昼に見た光景、咲也の安否、考えれば考えるほど最悪の展開だけが頭に浮かぶ。
いてもたってもいられなくなり、先ほどの下町が見える場所へと、巡回している陰陽師に見つからないように向かう。
「着いた・・・!」
意を決して、身を乗りだして町を見下げる。
まだ、町全体が騒然としているわけではないようだが、ちらちらと騒ぎが起きている様子が見える。
火の気で作られた街灯はあるが、それでも夜は暗く見にくい。
月明りを頼りにあたりを見ると、遠くに人影が見えた。
しかし、こちらへ近づいてくるにつれ、それは人ではないことが分かった。
背中に生える不自然な羽。
「あれが・・・天使」
天使が、町へ侵攻してきている・・・!