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仁と咲也

 「あれは・・・?」


 違和感を探すため、再び塔から街中を見渡す仁。

 町の中、裏路地で動物が人を襲っているように見えた。

 建物の影ということもあり、よく見えないが、犬だろうか。

 噛みついたり、ひっかいたりを繰り返しているように見える。


 「野良犬か?」


 執拗に追い掛け回されているところを見て、違和感を持つ。

 リードらしき紐がついている?

 飼い犬なのか?だが、たとえ怒っていたとしても、飼い主をあそこまで攻撃するだろうか。

 まあ泥棒なのかもしれない、そう自分を納得させようとする。


 いや、やはり何かおかしい。

 ほかの場所でも、猫や犬が牙をむいている場面がちらほら見える。


 「こちらの世界では当たり前なのか・・・?」


 そんな危険な存在を飼ったりするだろうか?

 すると、先ほど見たような式神が、手元へと飛んでくる。


 「これは、さっきあいつが見ていた・・・」


 触れてみると、頭の中に情報が直接入ってくる。


 「うわ!なんだこれ!」


 奇妙な感覚で、とっさに手を離してしまう。


 「気持ち悪い感覚だな・・・」


 とはいえ、わざわざ呼びに来ないあたり、何か事情があるのだろう。

 我慢して、再び式神に触れる。


 『下町にて緊急事態とのこと。私たちは様子を見に行く。日向さんは、この塔で待機していてくれ』


 なるほど、緊急事態・・・。

 そして、目の前の現状を思い出す。


 「まさか、あれか?」


 とはいえ、飼い犬が暴れだすぐらい、元の世界だってあることだ。


 「まあ、待機という指示だ。おとなしくしてるか」


 先ほどいた、応接間のような部屋へ戻ろう。

 そういえば、咲也はどうしたのだろうか。

 同じように待機しているのだろうか。だが、あいつの性格を考えると、ついて行っていてもおかしくない。


 「俺には関係ないことだ」


 頭を振り、雑念を振り払う。

 応接間へ入ると、案の定咲也はいなかった。



 数時間後。

 町の様子を見に行っていた咲也と北条が帰ってきた。


 「緊急事態ってことだったが、大丈夫だったのか?」

 「うん、ひとまず周りを見てみたけど、変わったことは何も・・・」

 「天使の気配もなかったし、何かの間違いだったのかも?」

 「中桐はどうした?一緒じゃなかったのか?」

 「いや、黄我さんとは途中で分かれたんだ。まだあたりを見回ってるのかも」

 「そうか」

 「こっちでは何か変わったことはなかった?」


 そう聞かれ、先ほど街中で見かけたことを思い出す。

 しかし、天使が暴れている世界で、動物が暴れただけのことをいちいち報告するのもおかしいような気がして、逡巡する。


 「・・・いや、特にはなかった」


 結局、仁はただの喧嘩だと自分の中で結論付けて、二人には話さなかった。


 「間違って赤紙の式神を送るなんて、普通ないことなんだけど・・・」


 その後、黄我も中央塔へと戻ってきたが、式神を送ってきた者も見つからず、異変もなさそうだとのことで、ひとまず町にいる陰陽師へこのことを伝達し、警備を強め、観察するというかたちをとるようだった。



 その日の夜。

 中央塔の一室を借り、そこで食事と睡眠をとる。


 「だから、玄花さんはこの町が大好きで、守るために今も天使と戦っているんだって、あ、そういえば仁は今何しているの?」

 「・・・そもそもなぜおまえが俺の部屋にいるんだ」


 空いている部屋を二部屋借りられたため、別室で過ごすことができるはずなのに、さっきから咲也がずっと俺の部屋に居座っている。

 外で体験してきたこと、北条の想いなど、聞いてもないことをぺらぺらと話してくる。


 「一人で部屋にいても暇だからさ。電波がないからSNSも見れないし、荷物もどっか行っちゃったし」

 「こっちは一人でゆっくりしたいんだが」

 「あはは。でも一人でいるとネガティブな方に物事を考えちゃうからさ、一緒にいた方がいいじゃん?」


 一人でいたいという要望も軽くあしらわれる。

 まあ、ネガティブな方向へ考えてしまうことについては否定できないし、近況も気になりはする。寝るまでは話し相手になってやるか。


 「アルバイトしながら、浪人生活だよ」

 「え!?そうなんだ、じゃあすごい大変だ」

 「学費も必要だしな、ただ諦めが悪いだけだ」

 「でも、医者っていう夢のためにずっと頑張っているんだろ?すごいことだと思うよ」


 俺の家は医者一家だった。兄も医学部へ進み、それ以外の道は許される環境ではなかった。

 一度目の大学受験で不合格だった時に、次が最後のチャンスだ、それ以降はもうない、と言われ、結果一浪しても不合格。実家から追放された。

 親からはすでに見捨てられている。

 俺のような落ちこぼれは必要ないらしい。

 とはいえ、勉強以外に目を向けたことがなかった俺は、今もそれ以外の進む道を見つけられず、ただ過去にすがっているだけだ。


 「すごいこと・・・ね。そういう咲也はどうなんだ?」

 「僕は・・・元気にやってるよ」

 「サッカーはどうだ?確か推薦で大学へ行ったはずだろう」


 咲也は高校時代からスポーツ万能だった。

 サッカー部のエースとして、公立高校というハンデを背負いながら、様々な大会で頑張っていた。

 その功績が見てもらえて、ある大学から、スポーツ推薦枠をもらえたのだ。

 公立高校の選手が大学からのオファーを受けるという珍しいケース。

 校内新聞の表紙に、でかでかと書かれていたのを今でも覚えている。

 しかし、その後の活躍はニュース等で見ることがなかったため、今どうしているのかはわからなかった。

 話題としてちょうどいいと思い尋ねたことだったが、咲也の表情は明らかに曇っていた。


 「ちょっとケガでね、今はできていないんだ」

 「そうだったのか・・・悪い」

 「いや、謝らないで。僕も言いたくないこと聞いちゃっただろうし」


 互いに気まずい沈黙が流れる。


 「そうだ、城下町で黄我さんの言っていた団子屋さんを見つけたよ。いい匂いだった!」


 場の空気を換えようと、明るく話す咲也。


 「そうか、機会があれば食べたいな」

 「場所的にも近かったから、行きやすいと思うよ。あと、看板娘の人が美人だったよ」

 「じゃあそれも楽しみにしておくよ。もう夜も遅い。早く部屋に戻れ」


 必死に流れを変えようとしてくれた咲也には悪いが、気まずい雰囲気でこれ以上会話をする気にはなれなかった。

 だが、すべてが嘘というわけでもない。

 こんな状況だ。余計なことを考えて、なかなか眠れなさそうだ。それも考えて、早めに布団に入っておきたい。


 「うん、それじゃ、おやすみ」

 「あぁ、おやすみ」


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