仁の想い
「!そうか、ではあとは依代さえ見つかれば・・・!」
準備と依代。
先ほどの話と合わせて考えるなら、晴明の復活についての報告だろう。
「あと、さっき、青那ちゃんから式神が来たよ」
「ああ、こちらにも来た。継承者を三人見つけたというやつだろう?」
「そう!だから、あとは白兎くんとおじちゃんが頑張ってくれれば」
「かなり順調だ。このまま全員を京都へ集めることができれば・・・!」
「僕も、いずれは天使と戦うことになるだろうし、陰陽五行についても興味があるので、ぜひ勉強したいです」
「ありがたい!安全のためにも、二人に基本の戦い方は一通り教えるつもりだ」
期待の込められた会話に、少しうんざりする。
こっちは戦う準備など全くできていないというのに、外堀だけが埋められていくような感覚だ。
咲也も生粋のお人好しだ。人助けのためなら、嫌な顔一つせず、戦いに身を置くことだろう。
俺もそういう性格だったら、こんな状況も前向きに捉えられるのだろうか。
困っている人がいるのに、己の身を心配し、逡巡してしまう自分が嫌になる。
「仁、どうかした?」
「・・・なんでもない。俺にかまうな」
そう吐き捨て、すたすたと歩いていく仁。
突然あらぬ方向へと向かっていく仁が心配になり、咲也は行き場所を尋ねる。
「どこへ行くんだい?」
「お手洗いだ。こっちで合ってるか?」
うなずく黄我をちらりと見て、再び歩を進める。
お手洗いは建前で、本当は少し一人になりたかった。
ポジティブ思考の人間といると、自分の醜さが際立って、つらくなる。
昔から、咲也や龍牙は少し苦手だった。
それでも、一緒になってふざけ合うのは楽しかったし、感謝もしているから、近況を知れる機会だった今日の飲み会にも参加しようと思ったのだ。
だが、結局咲也と会ったのは、自分たちがいた世界とは別の世界で、龍牙とは会えずじまい。
だめだ、考え込むとどんどんネガティブな方向に思考が流れて行ってしまう。
ふと気づくと、塔から外が見渡せる場所まで来ていた。
周りにも同じくらいの高さの塔が見えるが、それよりも、下町の風景が目に入る。
「・・・きれいだ」
城下町の町並みはきれいなクモの巣上になっていて、上から見るととてもきれいだった。
小さく、人たちの営みが見える。
人々が必死に今を生きている。
誰かを幸せにするため、自らの幸せを追求するために、目的は様々だろう。その姿が、華やかでなくてもいいと言ってくれているようで、安心する。
「心配させているかもしれない。そろそろ戻るか」
風景に背を向けようとすると、視界の端に、違和感を覚えた。