協力者と最後の救世主
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「ああ、まさに救済だ・・・!」
山間の小さな村。
天使の襲撃を受け、崩壊しかけていた。
膨大な数の襲撃者によって、村人たちは、もはや救いはないとあきらめかけたその時。
黒い着物を身にまとい、嵐とともに現れた人影によって、それは一掃された。
その背中は大きく、天使たちが散っていくとともに現れる光の中にたたずむその姿は、まさに救世主だった。
救われた村中の人たちが、彼を救世主と、最強の人類と、賛辞の言葉を送り崇めたてた。
だが、僕にはわかる。
殺されかけていた僕を間一髪守ってくれたその時、はためいた着物から、確かに見えたんだ。
背中に咲く純白の羽が。
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「継承者とか天使とか、わけがわからん。そっちの都合で関係ない俺らを巻き込むな」
バン、と机をたたく音が響く。
場所は京都。
周りの場所とは一線を画す、豪華な外観をした建物が乱立する都。
その中の一つ、五領宮、中央塔にて、応接間のような場所で、三人の男が話し合っていた。
陰陽師の本丸である京都は、とりわけ陰陽五行による結界が強く張られており、天使による攻撃を受けることがめったになかった。
また、戦力も集中しているため、天使の侵攻があったとしても、守り切ることができる。そのおかげで、ここはほかの地方よりも文明がずっと発展していた。
「落ち着いて、仁」
礼儀正しく椅子の腰かける男が、それをなだめる。
「出水・・・お前は怒りを感じないのか?」
理不尽な状況に怒りをぶちまけている日向 仁には、同級生の出水 咲也がなぜここまで落ち着いていられるのか、理解できなかった。
「いやー、だってこっちの世界の人たちも困ってたんだろうし、ね?」
そういいながら、困ったように笑う咲也。
このお人好しが。高校時代の時と比べると少し大人びた顔つきになってはいるが、そうやって自分を隠して笑うのは変わらない。
「怒っても元の世界に戻れるわけじゃないよ、だから落ち着いて」
「・・・」
そんなことはわかっている。
仁は苦虫を噛み潰したような顔を隠そうともせず、一度立ち上がった椅子にまた座る。
「続きを、聞いてくれるか?」
机を挟み、二人に向かい合って座る土の陰陽頭、中桐 黄我は、その大きい体躯を縮こまらせながら、いたたまれない表情を浮かべ、二人に続きを話してもいいか尋ねる。
むすっとした表情のまま、うんともすんとも言わない仁の代わりに、咲也が話の続きを促す。
「すみません・・・続きをお願いします」
「いや、突然違う世界へ連れてこられたのだから、当然の反応だ。さて、どこまで話したんだったか・・・」
「僕たちが継承者として、天使と戦うために呼ばれたというところまでですね」
「そうだ。それで、こちらに呼ばれていきなり戦うことは難しいため、継承者は魔人兵装という女神からの贈り物を受け取るはずなんだ」
「なんだそれは?」
この世界に来たときすでに京都の中にいた二人は、そのまま陰陽師に発見され保護されたため、魔人兵装がなんのことか、さっぱりだった。
「どうやら、その者にしか扱えない武器のようなものらしいが、詳しいことは私にもわからない。伝承に残っているだけだからな・・・」
「なら、そもそも俺たちにそれが宿っているのかどうかもわからんわけか」
「そんな喧嘩腰で話さなくても・・・それがあれば、身を守れるわけですよね。どうしたら現れるかとかもわからないんでしょうか?」
「天使と対峙したときや、身に危険が訪れたときに発現するらしい・・・」
「はあ?対抗するための武装なのに、戦うまで出てこないってのか。なら発現しないとわかったとして、次の瞬間には死んでるかもしれないってわけか」
「う、うむ」
ばつが悪そうにそう肯定すると、どんどん体を縮こまらせていく黄我。
あまりにも申し訳なさそうに話す姿に、罪悪感を覚え始めたのだろうか。
仁はあきらめたかのようにため息をつくと、椅子に浅く座り、仰向けに近い体勢をとる。
「・・・話はわかった。どの道、元に戻る方法がわからない以上、あんたらに協力する以外に道はないんだろ?なら、命がけでそれを発現させるっきゃない」
「なにより、今この瞬間も傷ついている誰かがいて、それを助ける力が僕たちにあるかもしれないなら、喜んで協力しますよ」
あきらめた表情で話す仁と、正反対に笑顔を浮かべながら快諾する咲也。
話を聞いてもらえたこと、渋々ながら協力を得られたことに安堵した黄我は、この場所を案内するために立ち上がる。
「す、すまない。恩に着る!ひとまず、我らが拠点であるこの場所を案内しよう」