京都へ
「あの盗賊が!?」
「うん、彼はこの町で職を失って、食べるものに困って盗賊になったらしくてね。町への行き方も知っていたから、道を教えてもらったんだ」
あの時、ついてきていた盗賊が、まさか手を貸してくれるとは・・・。
邪魔しないか危惧していたが、まさかの大活躍だった。
「で、そいつは今どこに?」
「盗賊に堕ちた身で、町の人たちに会うわけにはいかないって山の奥に行っちゃった。止めようとも思ったんだけど、龍牙の方へ天使が行っていたことはわかっていたし、早く合流しなきゃと思って、蓮と薫ちゃんがいた集落の場所と、食料が少し残っていることだけ伝えて別れちゃったんだよね」
「そうだったんだ・・・。保存していて消費しきれなかった食料が無駄にならないなら、そっちのほうがいいかもね」
「おかげで助かったけどな。また会えたら礼を言いたいな」
「足を洗って、元気に暮らせていけたらいいけど」
盗賊の未来に少し思いをはせたのち、蓮たちの今後について、聞いてみる。
「そうだ、蓮。親父の知り合いとは会えたのか?」
蓮の父と知り合いだった人がここにいるはず。
「うん、さっきここに来てくれたよ。騒動を聞きつけて、来てみたら見たことのある顔がいたってことだったみたい。父さんからも何かあったら頼むって聞いてたみたいで、少し掃除が必要だけど部屋も用意できているって」
「おお!そうか、よかった・・・!」
心の底から安堵する。
「じゃあ、住む場所も大丈夫そうだね」
「うん。そうだ、二人はどうするの?」
言葉に詰まる。
京都へ行くことになるからお別れだ、とその一言がなかなか口に出ない。だが、はぐらかしたところで、いずれ別れることになる。
直前に話すより、今話した方がずっと誠実だろう。
「蓮、オレたちは京都へ向かう。さっき助けてくれたおじさんと一緒にな。京都で、なぜオレたちがこの世界に来たのかを知りに行くんだ」
「・・・そっか」
この世界とか、きっと意味の分からないことを言っていると思っただろう。それでも蓮に嘘をつくことはできなかった。
一瞬悲しそうな表情を浮かべた蓮だったが、すぐに笑顔に戻ると言葉を紡ぐ。
「でも、なんとなくそうなるんじゃないかなと思ってたんだ。二人には何か大きな使命みたいなものを感じるから。あの力だってきっと、二人だから授かることができたものなんだって、そう思うよ。だから・・・」
「うん」
「だから、元気でね。で、俺たちみたいな人たちを助けに行ってあげてほしい、うつむいて泣いている人を一人でもたくさん、笑顔にしてきてほしい」
強い思いを真正面から受け止め、気が引き締まる。
そうだ、なんでこの世界に来たか。それはきっと蓮や薫を助けるため、そして似たような境遇の人たちを助けるためなのだろう。真相がどうであろうが、いまはこの思いを背負って、進んでいくだけだ。
「・・・おう、任せとけ!この力で全員救ってやるよ。だから蓮、お前も元気でな!薫を頼んだぜ!」
「うん!」
「やり残したことはないか?」
数日後、蓮の経過観察や服の調達、陰陽五行のちょっとした勉強を済ませ、南雲のおっさんのもとに来ていた。
「・・・ああ、ないよ」
薫へのお別れだが、怜衣と蓮の意見で、真実を伝えお別れするのは避けようということになった。
個人的には誠実ではないような気もしたが、必ずまた会いにくること、会ってお別れを告げてしまえば、悲しませてしまうこと、何よりこちらの後ろ髪が引かれ、決意が鈍ってしまうことから、ちょっとだけ外に行ってくると伝え、別れることにした。
「わかった。それでは京都へ出発するとしよう」
「怜衣・・・」
「龍牙、振り返ったら、ここにいたくなってしまうよ」
そうだ、蓮と約束しただろう。困っている誰かを助けに行くんだ。
一歩、踏み出す。
この先に何があろうが、あきらめたりしない。
必ず、また会いにくるからな。
その時にはきっと、あっと驚くような冒険譚を聞かせてやるから。