蓮と薫
「ていうか京都ってあの京都か?」
南雲のおっさんと別れた後、怜衣とともに蓮の様子を見に、病院へ向かっていた。
「たぶんそうだよね・・・。日本ではあるのかな?」
「地名は同じなのに別の世界とか、襲い掛かってくる天使とか、本当に笑えない話になってきたな」
現状が少しずつクリアになっていくにつれ明らかになる、現実離れした事実に、むしろ現実味を失っていく。
今だって、あの時力を受け取れていなければ、オレはここに立っていないだろう。ぞっとする話だ。
「この力についても、わからずじまいだしな」
「そうだね・・・」
ついつい暗い顔になってしまう。
だめだ!蓮と会うのにこんな顔を見せたら、心配させてしまう。
「気分転換にじゃんけんでもするか」
「何言ってんの?」
「いいじゃん、じゃんけん。オレはチョキ出すぞ、いいか。じゃーんけーん」
「ちょっとだけ心理戦を入れてくるのやめて?」
文句を言いながらもしっかり手を出してくれる怜衣。
オレはパーを出し、無事負けた。
「なーんでグー出さないんだよ、オレチョキ出すって言ったじゃん」
「絶対嘘だと思ったよ・・・わかりやすいの、龍牙は」
思えば、今まで嘘をついて信じてもらえたことがないような気がする・・・ぐぬぬ。
「あ!龍牙にい!怜衣にい!」
「薫!」
病院が見えてくると、庭先でほかの子供たちと遊んでいた薫が、こちらに気付き駆け寄ってくる。
「なんだ、もう友達出来たのか?」
「うん!病院でね、仲良くなったの!いまは追いかけっこしてるんだ」
子どものフットワークはなんとまあ軽いな。大人になると多くの人は失ってしまう、子どものいいところだと思う。
「そうか、よかったな。蓮は一緒じゃないんだな」
「うん、まだ動けないから。部屋の中だよ」
「何階か、とかってわかるかな」
「二階だよ!」
「ありがとう!それじゃ、お友達も待ってると思うから行ってきな、また会おうね」
「うん!じゃあね!」
走り去る後姿を見て、ふと思う。
そうか、京都へ向かうんだとしたら、2,3日後には薫や蓮とはここでお別れになるんだな。
「お別れ、言いづらいね・・・」
「だな・・・ま、今生の別れってわけでもないだろ、たぶん。数日はここにいるしな。また会いに来たらいいさ」
「そうだよね、それじゃ蓮のところに行こうか」
病室につくと、蓮はオレたちを笑顔で迎え入れてくれた。
思ったよりも元気そうで安心した。
「ありがとう、おかげで薫と一緒に町までこれたよ」
「いや、蓮の道案内がなきゃ、途方に暮れていたところだったんだ。こちらこそありがとうな」
そういえば、怜衣はあの山からどうやって町へ下りてきたのだろうか。
道案内できる蓮はこちらへついてきていたのに・・・。まさか・・・?
神妙な面付きに怜衣は心配になったのだろう、声をかけてくる。
「龍牙?どうしたの、何か考え事?」
「怜衣・・・お前、本当は幽霊なんじゃないか」
「突然何言ってんの、ほんとに」
まあまあの威力で頭をはたかれる。
「いてえ!」
「ほら、幽霊なら触れられないでしょ?この痛みが証明だよ!」
「たしかに!よかったぜ・・・。じゃあどうやってあの山を下りてきたんだよ?」
「え?ああ、それはね・・・」