火龍の加勢
「いやあ、門番が申し訳なかったのう。奴は昔から少し頭が固くてな」
背にしていた村の門から、白髪の男が現れる。
「おう少年たち、危ないから町に入っていなさい」
そう蓮たちへ声をかけると、男の周囲にいた、奇妙な模様が施された着物を身に着けた人が、蓮たちを村へと誘導していく。
「助太刀するぞ、若人。いや、継承者殿!」
そういうと、懐から服のデザインと似た模様の描かれた紙を取り出し、右腕に当てる。
「火符 赤甲!」
呪文のようなものを唱えると、紙はあたりを照らす火へと変わり、次の瞬間には、男の右腕には赤く輝く手甲が装着されていた。
「な、なんだそりゃ!?」
「はっはっは!見るのは初めてかな。それなら驚くのもしょうがないな!これはな・・・」
男は、大きく高笑いした次の瞬間には、数十メートルは離れているはずの、こちらにいる天使たちを殴っていた。
「数百年の歴史が生んだ、人々の叡智の結晶だよ」
砂を巻き上げ、炎をまといながら男は言い放つ。
「さあ、反撃開始といこうか」
右腕で、周りの天使を次々と粉砕していく。
当人の戦闘能力もさることながら、手甲をふるうたびに龍のように舞う炎が、周りの敵へと襲い掛かる。
まるで何人もで戦っているかのような制圧力だ。
突然現れた協力者に、そしてその強さに唖然としていると、声を掛けられる。
「継承者殿、お前さんはあちらの長へ向かってくれ。わしはここでこいつらに対処する。なに、ささっと終わらせて合流するわい」
「!ああ、わかった。頼む」
唖然としている場合じゃない。戦闘が終わったわけじゃないんだ。
あの男が誰かはわからないが、怜衣を助けに行かなければ。それになにより蓮たちを保護してくれたんだ。信じるしかない。
地を蹴り、怜衣の方へ向かう。
矢で狙われるが、それすらもあたりを舞う炎が焼き尽くしてくれる。
「ふん、ここはわしが預かった戦場だ。ほかの者には指一本触れさせはせんよ」
「怜衣!」
振り降ろされる剣を刀で受け止める。
「もう来たか!」
「ああ、協力者のおかげでな!」
「ありがとう龍牙、そのまま受け止め続けてくれ!」
「わかってるぜ、援護は頼んだ!」
襲い掛かる剣をいなしながら、刀を振るい続ける。
速い・・・。だが、対処できないほどじゃない!
相手が縦に振れば、横で受け止める。
「はああああああああ!!!」
「おらあああああああ!!!」
数秒だけで数十にも重なる剣戟を互いに打ち合い、受け止め合う。
怜衣も、隙を見計らいながら、援護に徹してくれている。
「どこまで、どこまでこの私をコケにすれば気が済むのだ貴様らはぁぁ!!」
追い込まれた天使長は、己の限界までスピードを速め、二人の攻撃へ対処しようとする。
しかし、意識の外からくる弾丸まで対処する余裕は、天使長にはすでになかった。
徐々に対処しきれなくなった相手へ、少しずつ攻撃が掠り始めていた。
「どうした!さすがの天使長も二対一じゃ分が悪いか!?」
「くそ!人間風情にぃぃぃ!!!」
「たくさんの部下を使って足止めまでしていたんだ。卑怯なんて言わないでよね!!」
さきほどまでの速さは鳴りを潜め、ただ防御に徹することしかできなくなった天使長へ、強く握りしめた武器を打ち込む。
振り降ろした刀は腕に当たり、剣を落とさせた。
「いまだ!!」
「はああああああああ!!」
無防備となった胴へ、居合のような要領で強く振り抜く。
もろに攻撃を受け、意識が飛びかけている相手へ、追い打ちをかけるように弾丸がいくつも撃ち込まれる。
最初の数発は腕で必死に受け止めようとしていた天使だったが、後半の数発にはもう抵抗できる力が残っていなかったのだろう。最後の一発を頭に受けると、その勢いのまま仰向けに倒れ、やがて消え去っていった。
終わった・・・。無事に乗り切ったんだな。この戦線を。
「・・・守れたんだな、オレたち」
「そうだね、お疲れ様」
二人で、顔を見合わせ、こぶしをぶつける。
「龍牙!怜衣さん!」
「蓮!薫!」
「こっちも終わったぞ。はっはっは、よく天使長を倒した。さすが後継者だな!」
「怜衣にいぃぃぃ、龍牙にいぃぃぃ」
泣きながら抱き着いてくる蓮と薫を抱きしめながら、笑い合う。
笑いすぎたせいか、緊張がほどけたせいか、オレも怜衣も泣いていたような気がする。
でも、大切な人を守り切ったんだ。年甲斐もなく泣いたって今くらいはいいよな。