守るべきもの
山道を転ばないように気を付けながら、進む。
数は減ったが、依然として天使たちに狙われている。夜であたりが真っ暗なこと、木々で身を隠せる場所が多いことも相まって、相手はなかなか矢を当てられていないようだった。
そういえば、あの盗賊はどこいった。
気が付くとついてきていなかった。まあ、世話をしてやれるほどの余裕はなかったためよかったが。
「あれ、あいつどこいった?」
「怜衣にいについて行ってたよ!」
「なんだって!?」
それは話が別だ。
邪魔されたらたまったもんじゃない。だが、今は戻って連れてくるわけにもいかない。
「怜衣さん、大丈夫かな・・・」
「あいつなら大丈夫だ、強いからな!それより今は自分の身を考えるぞ。このまままっすぐでいいのか?」
心配そうな蓮を励ますが、その言葉はまるで自分に言い聞かせているようだった。
とにかく無事に二人を町へ送り届ける。怜衣の約束を違えるわけにはいかない。なにより、まだ未来ある子どもを守るのが大人の役目だろう!
「うん、あってるはず」
「よし、このまま突き進むぞ!」
必死に走っていると、ようやく木々が少なくなってきた。
木陰に隠れ、周囲を確認する。
山を抜けると、確かにその先に人がいるであろう、明かりが見えた。
「よし、見えてきた!」
しかし、村と山の間にはだだっ広い平原が広がっていた。
「ここを通れっていうのか・・・!?」
天国と地獄を同時に味わったような気分だ。山道という体力の奪われる場所は越えたが、町へ行くためには、死角がほとんどないこの平原を駆け抜けなければならないのか・・・。
まさに一難去ってまた一難。
だが、ずっとここにとどまっているわけにもいかない。覚悟を決めなければ・・・!
すると、山から天使が来たかと思うと、こちらにいた天使を何体か引き連れ、山へ帰っていった。
そうか、怜衣が応戦してくれているから、増援が必要になったんだ!
おかげでこっちの天使の数が減った。さっきよりはましになったぐらいだが、それでも行くしかない。
怜衣の頑張りを無駄にするわけにはいかない。
「龍牙、行こう。町まで全力で走るしかない」
「・・・だよな、日が昇って狙われやすくなる前に、行くしかないよな」
覚悟を決める。
「少しだけ天使の視線をずらす。合図をしたら町へ全力疾走だ。ただ、ジグザグに走るんだぞ。直線だと格好の的だからな」
「うん、わかった」
蓮とうなずきあうと、近くにあった手ごろな石を山のほうへ投げる。
石は木々を揺らし、遠くへ落下した。
姿を見失い、手あたり次第に矢を撃っていた天使たちは、まんまと音のしたほうへ照準を合わせる。
「今だ!走るぞ!」
蓮とともに平原を一心に駆け抜ける。
天使たちはすぐにこちらへ気付き、狙いを修正する。
まだ町まではある。山道で疲れた体に鞭打って、足を動かす。
矢も飛んでくるが、怜衣のおかげで数もそう多くない。
いける、町が近づいてきた。
「龍牙!あれ!」
しかし、近づくとわかってきたのは、その町は周りが壁に囲まれていることだった。
天使が襲撃してくるような世界で、なんの対抗手段も講じていないはずがないことなど、よく考えればわかることだった。
「いや、門がある!そっちへ向かうぞ」
門らしき場所を発見し、方向を修正する。
平原を駆け、奇跡的に門の付近へとたどり着くが、肝心の門は閉ざされていた。
「門を開けてくれ!天使に襲われているんだ!」
遠くから声を張り、入れてもらえるよう伝える。しかし
「通行証が必要だ。天使に追われているなら、なおのこと門は開けられん」
「門を開けて!このままじゃ殺される!」
「おい、早く開けろ!」
門の目の前へ到達し、力いっぱいたたきながら、必死に叫ぶ。
ここまで来たんだぞ、あきらめてたまるか・・・!
蓮や薫だって、親を失ってもずっと頑張って生きてきたんだ、こんなところで・・・。
「無理だ、どのみち通行証のある者以外を通すわけにはいかない!」
「緊急時だろうが!目の前で子どもが襲われてるんだぞ!」
「せめて、妹だけでも!薫だけでも、お願いします!」
だが、返事はない。
その時、
「!あああ!」
蓮の足を、矢が貫いた。