山中にて
-------------------------------------------
「世界を守るためならば、かまいません」
意を決したのだろう。決意に満ちた顔でこちらの要求を呑む。
「家族には」
「結局同意は得られていません。ですが、私が適任なのであれば、これほどうれしいことはないのです。ぜひ協力させてください」
「・・・わかった。では案内する」
純粋な善意に触れ、心が締め付けられる。
こちらの思い通りになっているのに、心は一向に晴れない。
大志は時として、死の名分となってしまうのだ。
また一人、誰かの大切な人が大義のもとに失われていく。
-------------------------------------------
銃声とともに、目が覚める。
あまりにも聞きなじみのない音に、蓮と薫も飛び起きる。
周囲を見渡すと、布切れを身にまとう男が数人、オレたちを囲むようにして立っていた。
おそらく盗賊か。
とっさに二人に腕を伸ばし抱きかかえるが、盗賊たちは襲ってくる様子はなく、むしろおびえているようだった。
「怜衣!」
「それ以上僕たちに近づくなら容赦はしない。同じ人間だろうとね」
「な、なんだ、今のは・・・」
盗賊たちの視線をたどると、横に立っていた大木に、大きな穴が開いていた。先ほどの銃声の正体はこれか。
「今のは威嚇だよ。次は君たちに撃ち込む」
すでに及び腰の盗賊は、怜衣の凄みで、完全に戦意を喪失したのだろう。
足元に武器を置き、その場を去ろうとする。
しかし、その時。
「ぐあああ!」
空から降ってきた矢が、盗賊の背中へ突き刺さる。
「!天使だ、全員身を隠せ!」
銃声を聞きつけ、天使たちが集まってきてしまった。
盗賊たちが散り散りに逃げていく。
「龍牙!」
「わかってる!薫、こっち来い、おぶってやる!蓮は走れそうか!」
「うん!」
急いで薫を抱え、走る。
だが、どこを目指す?こんな山道で、空を飛ぶ相手から走って逃げ回るのはあまりに不利だ。
「下の町なら、陰陽の力で守られているかもしれない!」
「どっちみち目指す先はその町か!」
「ちょ、まってくだせえ!あっしも、連れて行って下せえ!」
先ほどの盗賊が一人、ついてくる。
「襲っといて何言ってんだ、お前にかまってる暇はねえ!どっか行け!」
かといって、盗賊を振り切れるほどの余裕はこちらにもない。
的が分散することも考え、ひとまずそのまま、五人で山を下りていく。
「やっぱり走りながら当てるのは難しいな・・・」
怜衣も銃で応戦してくれるが、ガタガタの山道を走りながら、葉で視線が遮られている環境で天使を狙うとなると、やはり命中率はどうしても下がってしまう。
「龍牙、蓮たちをお願いしてもいい?」
「何言ってる!?ここがどこかもわからないのに、分かれて動くなんて自殺行為だろ!」
「ボクはここで、天使たちに応戦する。そうすれば、戦力を二つに分断できるから、狙われる確率も大きく下がると思うんだ。大丈夫、ボクにはこれがあるから」
そういって銃を自慢げに見せてみせる怜衣。
怜衣は普段は気弱そうな雰囲気だが、自分の思ったことはめったに曲げない奴だった。
きっと何を言ったって、考えは変わらないのだろう。
「・・・わかった。天使を任せる、蓮と薫は任せろ」
そういい、山を駆け降りる。
「怜衣さん!」
「大丈夫、蓮は町へ行くことに集中して。道中気を付けて。薫ちゃんをお願いね」